穴・二
やっぱり、腹痛とこの穴には何か関係があったんだ。これで、それがようやく確認できた。
しかし、問題は未だ視界を晴らしてはくれない。先の見えない穴のごとく、黒々としていた。
「なぁ、正一。あれ、穴か?」
声が震えていた。正一が横目で見やると、身体中がぶるぶると小刻みに震えていた。
「そうだろうな。それ以外に、あんなものが存在する理由も、根拠もない」
それを聞いて、ふっと震えは止まった。
まずい。直感的に、正一は感じた。
「なぁ、正一。あれ」
「それ以上何も言うな!」
一瞬、時が止まったようだった。二人の声も、鳥の鳴き声も、風の音さえも、その時だけは聞こえなかった。
一瞬。
「な、何だよ。どうしたんだよ正一」
「いいから、ここから離れよう。いますぐ」
腹のざわつきは強くなってくる。今すぐここを離れないと、何かが起こると言うように。
正一は源二の腕を無理矢理に引っ張って、ハンドルを反対方向へと向けさせた。そこから前にぐいぐいと引っ張るが、源二の体は一向に動かなかった。
「なんで、お前はそうするんだ」
源二が問うた。
「今すぐここを離れないと、ヤバイ気がするからだ」
正一はいつの間にか、深いシワを眉間に集めていた。
「あそこに穴があるんだぞ。もしかしたらあそこにみなみんがいるかもしれないんだぞ」
源二も、同じだった。
「そうかもしれない。けど」
「今ならまだ、助け出せるかもしれないんだぞ」
「今だけは言うことを聞いてくれ。源二」
「今を逃したら、一生後悔するかもしれないんだぞ!」
源二は振り払った。正一の手を。
胸が、痛い。
「源二!」
「正一。さっきの勘には恐れ入った。お前がいなきゃ、この穴は見つけられなかった。だがな......」
「源二、お願いだ」
腹の痛みがどんどん深くなっていく。
「ここからは俺が、俺の力で、何とかして見せる!」
「やめろ!」
源二の耳はとうに塞がっていた。正一の忠告も聞かず、穴の中へと突進して行く。
とぷん、と。そんな音が聞こえてきそうなほどに、余裕をもって、ゆったりと、穴は源二を、飲み込んだ。




