探す二人 / 一歩手前
三波の家を思い出せない。
それは、二人にとって、何とも不可解に思えた。
知らないはずがない。皆一度はそれぞれの家に上がっているはず。源二と正一は少なくともあげていた。
しかし、記憶を探れども、一向に三波の家に関する記憶は出てこなかった。
「どうする? 正一」
「どうするったって......」
家が分からない。ならどうすることもできないか? いや違う。他にもできることはある。
「他のやつらにメールを送ってみよう」
二人は知りうる限りの同級生に三波の家のことを質問した。
それから、もう一つ。
「通学路を辿ってみよう。あの道が通学路なら、そこから三波の家に行き着く道筋があるはずだ」
「そ、そうだな」
二人は携帯をポケットにしまい、あのY字路へと向かった。
何だか、嫌な胸騒ぎがする。正一は頬に汗を垂らした。
「はぁ、見つかんねえな」
「くそ、道はしらみ潰しに探したはずなのに......」
二人とも、また最初の位置に戻ってきていた。
あれからずっと、探し続けた。Y字路を左へ曲がった先は、所々交差点があった。その度に二人は左右に別れて、表札を一つずつ確認していった。突き当たって見覚えのある道に出た後も、左右に別れて捜索した。時おり携帯の着信を確認しては、肩を落とした。
「これは、もしかすると......」
「もしかするかもな」
源二は正一の呟きを聞き逃さなかった。
正一も素直に、一つの可能性として受け入れていた。
「さて。まだ探したいけど時間が時間だ。帰るか」
携帯の時計を確認して、源二は自転車を帰り道の方向に向けた。
正一は、動かずに源二の顔を見つめた。
「最後に、もう一度だけ、あのY字路の左の先を確認させてくれ」
「え? なんで?」
不思議そうな顔をしてくる。
「勘だ」
そうとしか言いようがなかった。
「勘?」
「そうだ」
あそこには、何かある。
腹が少し、うずいていたんだ。
「......わかったよ」
正一は、「ありがとよ」と、微笑んだ。
二人は目の前にして立ち止まっていた。
穴を目の前にして、動くという行動を放棄させられていた。
正一の勘は当たっていた。突き当たりに行く前、十数メートル手前ほどに、穴はあった。
昼に通ったときには、まったく見つからなかったのに。
「あれが......穴」
腹の中は、ざわついていた。




