変化はいつも唐突に
「ぜんぜん見つかんねえな~」
源二がそんなことをぼやいた。やる気の感じられない声だ。
そんな源二に、三波が優しくフォローをかける。
「存在してるかどうかすら怪しいものを探してるんだから、一週間そこらでみつかるはずないよ」
「それもそうか」と、源二は笑った。
「もう夕方だし、続きは明日にするか」
「うん」「......そうだな」
正一は正直言うと、もう少し探していたかった。
しかし、夏で日が長いと言えど、もう暗くなってくる。宛どもなく探していて、事件や事故に巻き込まれては元も子もない。
そう考えられるくらいには、腹のなかは落ち着いていた。
三人は、通学路にあるY字路で別れる。
三波は左へ、源二と正一は右へ。
「じゃあ、また明日な」「気を付けてね、みなみん」
「うん、じゃあね。二人とも」
そう、普通に、いつも通り別れていった。
正一の惰眠を奪ったのは、携帯からけたたましくなり響く着信音だった。
「おい、何してんだよ」
「ん?」
「集合時間とっくに過ぎてるぞ! さっさと来い」
プツ。と、いきなり怒号を飛ばされ、いきなり切れた。
辛うじて耳から離していたが、少しキーンとした。
あの声は、源二だろう。もうカンカンである。
急ぎ目で準備して、家を出てすぐ自転車を立ちこぎして集合場所へと向かった。
源二の怒りが、膨らんでないことを願いながら。
数分後。高校校門前。
「遅い!」
最初から怒りは最高潮だった。
「すんません」
「今いつだと思ってる!?」
時計の計時機能に目を落とす。
「八月三日、午前十時三十四分五十二秒です」
青筋が額に起こる。
「時計みて答えるな!」
正一の目が半分になる。
「だって今いつって」
「口答えは許さん!」
瞬時に返してきた。
鬼の形相というやつだ。
「お前はいつの時代の教官だよ」
一通り怒ったからか、源二は正一の突っ込みなんか気にせず、ふぅと息を整えた。
かと思ったら、またすぅと空気を吸い込んだ。
「ところでみなみんはどこだぁ!」
「俺の知ったこっちゃねえ!」
今度は正一も怒鳴った。
「そうか!」
「普通そうだろ!」
「じゃあ家行くぞ!」
「おう!」
こういう時はなんだかんだで息が合う二人である。
自転車のペダルに足をかけ、グッと力をいれたところで、源二は止まった。
「ん?」と正一が横にいくと、源二は眉を眉間に近づけて困った顔をしていた。
「どうしたんだよ?」
もう一度、正一が聞くと、源二はいつもの元気を横に置いた自然な声で、質問を返した。
「みなみんの家って、どこだっけ?」
「え? あいつの家は......」
言い出して、先が出てこない。
「家は......」
あれ? 三波の家ってどこだっけ?
知らないはずはない。忘れてるだけのはずだ。
そう思い、何度も記憶を呼び覚ました。
だが、どこにも三波の家に関する情報がなかった。
三波の家を、二人は知らなかった。




