変化の序章
七月も中旬に差し掛かり、セミの声も本格的に聞こえるようになってきたこの頃。席替えもして、ばらばらの場所に配置されてしまった三人は、放課後、誰かの机に集まって話をするのが日課になっていた。
今日は、正一の机に三波が寄ってきていた。トイレから帰ってきた源二が後から勢いよく寄ってきて、第一声でこう言った。
「おい二人とも、今日は不思議な噂を一つ教えてやるぜ」
「そうか、よかったな」
いつも通り、正一はそっけなく話を流した。
いつも通り、三波が話をすくい上げる。
「それは、どんな噂なの?」
「よくぞ聞いてくれた、みなみんよ。その噂と言うのはな......」
「......」
三波も正一も、源二の次の言葉を待った。
「この学校の近くに『過去に戻れる穴がある』ってやつなんだがよ」
「......」「っ!」
正一は久々の感覚を味わった。入学式の日に三波を見て感じた、内臓が全部かき混ぜられるようなあの気持ち悪さだ。
耐えきれずに机に突っ伏してしまった。
「おい、正一。大丈夫か?」
「顔色が悪いよ?」
三波は顔を覗き込むように、源二は上から様子を窺うように、正一を注意深く見ていた。
「ああ、大丈夫。続けてくれ」
すこしだけ顔を上げて、話の続きを促した。
「お、おう」
源二は戸惑いながらも、続きを話し始めた。
それは少し前から現れたこと。
もう被害者や、被害に遭いそうになった人がいること。
警察は証拠がないため、動けないこと。
「それらを総合して考えると、俺たちが証拠さえ見つければ、警察も消えた人たちの捜索に取り掛かれると思ったんだが、どうだ?」
正一は、もう調子を取り戻していた。いや、取り戻したのとは、少し違うのかもしれない。
「探してみよう、その穴」
「正一......。お前からそんな前向きな言葉が出るとは思わなかったぞ」
「うっせ。同意してんだから素直に受け止めろよ」
「お、おう。で、みなみんはどう?」
「私は全然構わないよ」
二人の同意を受けて、源二は手を打った。
「いよーーし、それじゃあ、明日の放課後から穴探しだ!」
「おー!」「......」
正一の耳には、源二の声は届いてなかった。
ただ、真相が知りたかった。あの気持ち悪さの真相が。
そして直感していた。この『穴』の先に、それがあるということを。
絶対、見つけ出してやる。




