修正・五
教室の扉を開けると、斜め右に、三波の姿があった。
相手はこちらに目を向けようとせず、他のクラスメイトたちと談笑している。その笑顔は、本当に楽しそうに見える。
「なにボーッとしてんだ、おい」
気づかぬ間に、源二が数歩進んでいた。
「なんでもねえよ」
すぐにまた近づく。
「嘘つくなよ」
とても小さく、呟いた言葉が、正一の耳には届かなかった。
授業の準備をしている間に、余鈴のチャイムが響いた。
「数学、めんど」
「理系の言葉じゃねえな」
そんなことを言い合いながら、本鈴と先生を待っていた。
キーンコーンカーンコーン
「じゃあお前ら、気を付けて帰れよ」
「起立、礼」
「ありがとうございました」
「はい、さいなら」「はい、どうも」
今日は、なんか疲れた。三波のことが気になるし、でも授業に集中しないとだし、休み時間にあの謝罪の件が出されたときなんかは、生きた心地がしなかった。
本人二人を前にして話をふったあの野郎を、俺は絶対許さない。
正一はそんな恨み辛みを抱えながら、配られたプリントをまとめて帰り支度を済ませた。
「帰るか、源二」
「おう、そだな」
二人はいつものように、早々に教室を出ていった。
正一は最後に、三波のほうに目を向けてみた。
でも三波の周りには何人か人が寄ってきていて、ほとんど三波の姿は見えなかった。
はぁ、と思わずため息を漏らした。




