修正
学校の下駄箱。普通に登校する生徒たちのなかで一人、息を荒げた男子高校生がいた。
「はあ、はあ、足が速えんだよ。この野郎」
「たったあんだけで息上がってちゃ、元陸上部の名が廃るってもんよ」
腕を組んで見下す源二に、恨みがましい目を向けたまま、正一は息を整えた。
「ふう、行くか」
「行っていいの?」
短い肯定が返ってくると思っていたら、疑問形が返ってきた。
なんでそんなこと言うんだよ。
口から言葉を出す寸前で、正一の頭に一つの答えが浮かんだ。
「ん、気づいた?」
またも疑問形で問うてくる。
「三波に会うんが気がかりだってか」
「まあそういうことだ」
言いながら、源二はどんどん先に早足で去っていく。
追いかけようと一歩目を出すのとほぼ同時に、正一を呼び止める声がかかった。
「須藤君、さっき私のこと呼んだ?」
振りむいてみると、すぐ近く、ほんの十数センチ先に、三波の顔があった。
は!?
と言いたいくらいに一気に気が動転した。
一気に血圧が上がった。
体温までもが上昇し、呼吸が早くなるのが分かった。
とりあえずの本能的反応として、正一は数歩分距離をとった。
三波は不思議そうな顔をして近寄ってくる。
なんで昨日のあれがあったのに普通に近づいてくるんだよ!
そう思って、無意識に、三波の一歩一歩に合わせて、一歩一歩後ずさった。
「逃げんなよ」
後ろから、小声が聞こえた気がした。
振り向くと、滅茶苦茶面白そうな顔でグーサインを出してくる源二が、建物の陰からこちらを見ていた。
あいつ、三波が来てること知っててあの話振りやがった......。
直感的に、そう思った。
そして、その予想は十中八九当たってる。
今すぐにでも殴り掛かりに行きたかったが、そうすると結果的に三波をないがしろにすることになってしまう。
どうするべきか。考えても仕方なかった。考えるまでもない。
三波を先にどうにかするしかない!
それが現時点で一番いいと、正一は確信した。
こうと決まれば、あとは考えるだけだ。
方針を固めた正一の頭は、この状況での三波への対応策を考えるためにフル回転を始めた。
一瞬三波と目を合わせてしまい、頭上から煙を暴発させながら。




