表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/34

改めて

 春。いつかは来る新学年へと上がる季節。

 かったるいと思いながら、とある進学校に通う高校生、今年から二年になる正一は、カバンを肩にかけて通学路を歩いていた。

「よーう正一ぃ」

 後ろから背中を叩かれて、嫌な顔を全面に出しながら振り返ると、そこには思った通りの相手がいた。

 源二。正一の、特に仲のいい友達である。明るく人当たりも良いので、男子女子問わず人気はそこそこある。

「ただし古いギャグを言ったり時々こだわりが強いのが玉に瑕」

「心の声が漏れてるぞ」

 並んで歩く源二にジト目で見られても、正一は何も気にしていないような顔をしていた。

「まあいいや。それよりさ、ビッグニュースだぜ」

 話を切り替えて、源二は正一の真ん前に立って振り返った。器用に後ろ歩きしながら、話し始める。

「で、そのニュースってのが」

「そうか、それはビッグニュースだ」

 本題に入らせもせず、正一は源二を置いて先に行った。

「まだなんも聞いてないでしょ!」

 すかさず追いついてきて頭に一発突っ込みを入れる源二。

 変わらぬ顔で、正一は源二の方を向いた。

「どうせ転校生だろ?」

「どうせってなんだよ。学生にとっちゃ一大イベントだろ」

「一般はそうかもな。俺にとってはどうでもいい」

 つれない返事に源二はブーブー文句を言ったが、正一はそんな雑音を気にも留めなかった。

 なんだかんだと言いながらも、二人並んで、校門を通った。


「今年もよろしくな、親友」

「嫌だ」

「即答はやめないか!?」

 なんと二人は一年次に引き続き、二年次も同じクラスになったのだ。

 二人は廊下や階段で久しぶりに会う同輩たちに挨拶しながら、ホームルームへと向かっていた。

「それで話を戻すけど、なんとその転校生、女子らしいんだよ」

「お前、犯罪に手を染めてないよな?」

「極めて健全なルートからの情報です」

 転校生のことも、今の受け答えも半信半疑に受け止めながら、正一は席に着いた。

 黒板に示された連絡事項に目を通しつつ、源二の話に適当に相槌を打っていた。

 それからあまり時間が経たないうちに、廊下から先生の声が聞こえた。時間を見ると、SHRショートホームルームの時間まであと一分だった。

「はいはい、席につけつけ」

 声の主は教室に入ってきた。男子の保健体育担当の新田先生だ。正一と源二を見つけると、はっはっはと笑ってきた。二人とも、全く気にしていなかった。あの人はああいう人だと、一年の付き合いで一応わかっているからだ。

 決して悪い先生ではない。授業も面白いし、砕けた態度で生徒と接してくれるのでやりやすい。ただし、目をつけられると今のような反応をされることが時々あるのだ。特にこの二人は、授業に積極的に参加しており、コンビネーションも抜群であることから『ワンツーコンビ』とあだ名をつけられるくらいには目をつけられている。

「はい皆おはよう。早速だが、ちゃちゃっと連絡事項伝えて体育館に移動するぞ」

 転校生のことがあるから、急いでいるのだろうか。そう思いながら、黒板に書いてある事項の詳細説明をしている先生の言葉を一応聞きながら、正一は外を見ていた。

 転校生、どんなやつなんだろう

 そんなことを、考えていた。


「えー、ですから、皆さんにはわが校の生徒としての誇りをもって……」

 などという、いつの時代どこの校長でも同じことを言ってるんじゃないかというようなテンプレの校長の言葉も終わり、いよいよ始業式は転校生のあいさつに入った。

 その瞬間、体育館中がざわつき、先生の注意が入る。

 なんで高校生にもなって静かに式を受けられないかなと思っている正一の横では、そわそわして体を右へ左へ動かしている源二がいた。

「止まれ」

「あ、すまん」

 小声で注意すると、源二はおとなしくなった。

 そんなこんなしていると、もう転校生がお辞儀をしたらしい。皆に合わせて二人も遅れないようにお辞儀をした。

「お前のせいで遅れそうになったじゃん」

「はあ? お前が落ち着きがないのが」

 悪い、と言いかけて、正一は目をすっと前に向けた。

 そこにいたのは、一人の少女だった。

 学校指定の黒白のセーラー服風制服。肩までつくか、それ以上の長さのみどりの黒髪を一つに束ねておろしている。顔の線はスッと細く、目鼻立ちもまあまあ整っていた。

 しかし、正一が気にしたのはそこではない。

 その声に対する聞き覚えと、既視感だった。

 どこかで聞いたことがあるような、見たことがあるような。でもそれがいつのどこだったか思い出せない。

 非常に気持ち悪い思いのまま、正一はもう一度礼をした。

 そして、少女が自分の方に向かってくるのを静かに見守る。

 途中、目が合った。

 相手が、少しだけ微笑んだ気がして、自分もとっさに同じように微笑んだ。

 彼女はにこっと笑って、横に曲がってすっと座った。

 その仕草にすら既視感を感じて、正一は指先で肩を叩く源二のことを一切気にせず、ただただ、体内からくる腹痛と戦っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ