始業式
「なぁ、正一」
春。いつもいつかはやってくる、新学年に進む季節。
とある田舎のとある進学校に通うこの二人も、例外ではない。
「なんだ、源二。またどっかの噂話を拾ってきたのか」
走って自分の隣にやって来た友達に対して随分な言いようだが、源二の方は特に気にしている様子はない。
「話が早くて助かるよ。んでもって」
並んで歩いていたところから、正一の前に出た。コホンと咳を吐いて、一言。
「今年はなんと、転校生が来るらしいぜ。しかも女の子」
「そうか、よかったな」
友人が立ち止まって人差し指を立てて言っているのに、正一は我関せずという風にサッと源二の脇をすり抜けてそのまま歩いていく。
「ちょちょちょ、ちょ待てよ」
「古い」
流行ったのはもう何年前か分からないモノマネを披露してくる友人に見向きもしない。
「まぁ待てって」
源二はすぐに追い付いてきた。
ちなみに正一は少しも待っていない。
「どこから情報持ってきたとか聞かないの?」
「どうせ『独自のルート』で済ませるんだろ」
「よくわかってるじゃん」
「だから聞く意味がないんだ」
つれない返事に、源二はブーブー言っている。
そんな顔を見て、正一は少しだけ笑みを浮かべた。
「さぁ、今年はどんなクラス割りか」
そう言いながら、二人は校門をくぐっていった。
「またよろしく頼むぜ、相棒」
「二年連続でお前と同じクラスだなんて俺は今年大凶だ」
「大吉の間違いだろ」
正一の辛い言葉も気にせず、源二は肩を組みながら廊下を歩いていた。正一も、いくら離そうとしても離れないので、もう抵抗するのを諦めている。
周りでも同じように、同じクラスになって喜ぶ者や、別クラスになって悲しむ者など様々な生徒達の顔があった。
転校生の話は、あまり聞こえてこない。
新しい自分のクラスから、少しだけ聞こえてくるくらいだ。
そんな中、源二が話を振ってきた。
「さっき仕入れた情報だと、転校生はうちのクラスらしいぞ」
「俺らのクラス名簿に見覚えのない名前があったんだろ」
「なんだ、面白くない」
「それくらいしかないだろ」
なにせ源二は、校門を過ぎてから新クラスの掲示板発表を見て今に至るまで、まったく正一から離れてないし、途中で何人かの友達と話したが挨拶程度だったからだ。それで掲示以外に情報を仕入れることができるとは思えなかった。
「まぁそうなんだけどさ、名前見たか?」
「自分の以外流し見てたから見てない」
「ふーん」
「...なんだよ」
源二がわざわざそんなことを聞いてくる理由が、少しだけ気になった。
正一の質問に、源二はニマリと口の端を上げた。
「聞きたいか?」
その顔と声に、今浮かんだ疑念が心の底に沈んでいった。
「どうでもいい」
「まぁまぁまぁ」
そっぽを向く正一の顔を、両手で無理矢理自分の方に向かせる。
「なんだよ」
少しイラついてきている。
「落ち着け落ち着け」
「至って冷静だ」
そうかそうかと言ってから、源二は手を離した。
「でな、その転校生の名前が、み...」
「はーい皆、自分のクラスに行けよー」
丁度名前と先生の声が重なって、全く聞こえなかった。
廊下に出ていた生徒達が、次々に教室に入ったり階段を上がり下りしたりしていった。
「おいワンツーコンビ、お前らもはよ入れ」
正一と源二をこう呼ぶのは、一年の頃の生活指導科長で体育教師の新田先生である。いつも一緒で、授業でのコンビネーションもバッチリだからと、名付けられたのだ。
「へーい」「わかりました」
源二と正一はそれぞれに返事をし、同じ教室に入っていった。