『黒木の行方』
「…出て来た」
ヴェルファイアの車内、後部座席でタブレットを眺める尾川は呆れた様子で呟いた。
「今度は?」
問いかけるフレッドも同様に呆れ顔だ。
「セン北から中山方面」
「またか…」
かれこれ二時間近く、この調子だった。
「どうなってる?東山田から中山方面に、行って、戻って、行って、戻って、また行って……、クロキのヤツ何してんだ?」
グリーンラインは基本的に地下鉄だが、センター北駅、センター南駅、川和町駅の周辺では線路が地上に出てくる。
フレッドはケータイを確認した。
「あぁ、もう…、チバちゃんから怒りのメール多数…。なぁ、オガワァ…、GPSさぁ…」
「……これ、バレてますね」
尾川が溜め息混じりに呟いた途端、運転席のフレッドは後部座席を振り返り大声を上げた。
「ほーらー!!だから言っただろ!!やっぱバレてたんだって!!」
「いや、本当ならバレるはずはないんすけど…、この様子だとバレてるかな…って」
「だぁからバレてんだろ!?もう、そう言えよチバちゃん達にさぁ!二人も、ずっと行ったり来たりしてんだぜ!?」
尾川は縮こまり、首を横に振った。
「俺、無理。フレッドが言ってくださいよ」
「俺も嫌だよ!チバちゃんがどんなにキレるか…!」
言葉を遮るようにフレッドの手の中のケータイが鳴った。
着信画面を見ると『チバちゃん♪』と表示されている。
フレッドは尾川の方を見た。タブレットのみに視線を注ぎ、無関係を装っている。
フレッドは恐る恐る通話ボタンを押して、ケータイを耳に近づけた。
『……黒木は?』
「あのぉ、そのことなんだけどぉ……、どうもGPSのこと…クロキくんにバレちゃっ…」
『はあ"あ"ぁっ!!?』
フレッドは即座にケータイを耳元から離した。
『いつからですか!?』
「え…っと…、いつだろ?ねぇ、いつかな、オガワくん!」
フレッドは通話をスピーカーに切り替えて尾川に向けた。
「えっ!?」
尾川は目を見開いて飛び上がった。
『いつからバレてたんですか!?いつバレてるって気づいたんですか!?』
「あ…、いや…、俺は…、そう!俺は今、気づいたとこ!フレッドは最初から気づいてたっぽいけど」
「はぁ!?おい!オガワ、てめぇ…!」
フレッドは凄い剣幕で後部座席の方へ身を乗り出した。
『オマリーさん』
千羽が低く呼び掛けると、フレッドは縮こまりながら運転席に戻った。
「はい…」
フレッドがうなだれながら小さく返事をすると、電話のスピーカーから漏れる溢れんばかりの怒りを抑えた千羽の声が車内に響いた。
『黒木はどこですか?』