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空気を読まなかった男と不良未満少女の、ひとつ屋根の上交流日記  作者: 未紗 夜村
第八章 繋がったり、もっと繋がったり。
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五月一日(月・了)。少しずつ、二人の未来へ近付いて。

 それからの俺と詩乃梨さんは、ピクニックにやってきた家族連れやらカップルやらの人目もあったので、ちょこっとだけ自重した。


 ごめん、ほんとはちょこっとだけじゃなくて盛大に自重しました。本当はすぐにでも青姦突入したくてたまらなかったけど、食事を兼ねて詩乃梨さんの指をぺろもごしたり、逆に俺の指をしのりんにぺろもごしてもらったり、お互いに不意打ちでほっぺにキスしたりって程度しかえっちっぽいことはしてません。ちなみに『はい、あ~ん』はえっちっぽいことに含まれませんので、けっこう頻繁にやりました。う~ん、とっても健全ですね!


 あまりに健全すぎて、俺も詩乃梨さんも若干フラストレーションが溜まったので、ランチ終了後は再び運動に打ち込みました。まあ打ち込んだって言っても、午前中よりはだいぶまったりとしてたけど。昼飯食った直後だからってのもあるけど、詩乃梨さんが己が立てた誓いを守って、自分の体力や安全に気を配りながらプレイしてくれてたから。


 そうして、ちょっとぬるめのペースで、サッカー未満やらキャッチボール風味やら縄跳びやら遊びまくって。やがて、詩乃梨さんが完全に電池切れで一歩も動けなくなる頃には、気付けば俺のエネルギーも底を尽きかけていた。


 なんか、思いの外、すんげー遊び倒した。時間を忘れてこんなに本気で運動しまくったのなんて、高校生の頃以来だ。社会人になってからはスポーツする機会なんて無かったし、精々が正月に帰省した時に友達とボーリングしたり、あとは一人でこの河川敷に来て自主トレするくらいのものだった。

 あ、ついでに今補足しちゃうけど、俺が持ってる子供用のスポーツ用品は全部自主トレ用だったりします。テレビでプロの試合とか見るとふと自分でもやりたくなって、でもどうせ一緒にやってくれる相手もいないから、本格的な道具揃えるのもなんだかなーって思って子供向けの安いやつ買って気分だけ味わってました。ははは、ハハハ。………………はぁぁぁぁぁぁ……。


 ……でも、まあ、あれな。もしかしたら、もうちょっと本格的なやつとか、買ってみてもいいのかもな。気分味わうのに使う程度ならともかく、今日みたいなプレイを頻繁にしてたら、今有るヤツは根こそぎお釈迦様になってしまうことだろう。


 とりあえず。差し当たり、バドミントンの道具くらいは、もうちょい良いヤツを用意しておこう。


 さっきから俺の背中ぺしぺし叩きながら再戦要求しまくってくる、俺の愛しいこの女の子のために。



◆◇◆◇◆



 スポーツバッグとリュックを連結させてお腹側にセットし、背中側には電池切れの詩乃梨さんを装備している、サンドイッチマン俺。


 持っているものはどれも大して重くはないんだけど、若干重心が安定しなくてどうにも歩きにくい。安全を確保しようとするとどうしても速度を抑える必要があり、俺はかなりゆったりとしたペースで復路を消化していた。


 夕焼けに照らし出された陰を追いかけて、一歩一歩着実に。詩乃梨さんを落としてしまわないように、彼女に快適な乗り心地を楽しんでもらえるように、一歩一歩、たいせつに踏みしめていく。


 そんな俺の気遣いにドロップキックをかますかのように、詩乃梨さんは俺の背中をぺっちんぺっちん叩きながら、俺にがっちり掴まれてる脚をぶ~らぶ~らとばたつかせた。


「こたろー、聞いてる? ぜったいだからね? 約束破ったら許さないからね?」


「うんうん、わかったわかった。何回だってボコボコにしてあげるから、少しくらいは長持ちするようにせーぜー悪あがきしておいてくださいな」


「…………むかつく、むかつくむかつくむかつく……っ! こたろーのせくに、こたろーのくせにっ!」


 詩乃梨さんは叩く対象を俺の背中から頭へと変えて、リズミカルにこっつんこっつんとデンプシーロールしながら悔しそうに吠えた。


 俺は詩乃梨さんのしょぼい打撃を首だけで容易くいなしながら、彼女の怒りも鼻で笑って受け流す。


「男女の違い云々とか抜きにしてもさ、俺個人が運動得意だってのは前から知ってただろ? 昔は筋トレしまくってたんだーって言った気するし、それに実際裸だって何回も見てるんだから」


「筋肉有るからって、運動得意だとは限らないじゃん! 『技術がちーっとも無いから、無駄に筋肉だけ鍛えてましたー』、とかかもしれないじゃんっ!」


「………………ぐさっと図星突いてきたね、チミ……。まあそっか、詩乃梨さんは完全に俺と逆のタイプだもんな。パワーなんて技術の差で覆せる、なんて安い幻想を信じちゃうのも仕方のないことよねぇ……お気の毒に……」


「あー、そーゆーこと言うんだー? あんまり調子に乗ってると、本気でこたろーの鼻っ柱へし折るよ? さくやが」


「それ卑怯じゃね? あいつほぼ本職みたいなもんなんだろ? いくら筋力で勝ってるて言っても、俺如きじゃ技術面で端っから勝負にならないんじゃねぇかなと思いますです」


「……………………こたろー、さっきと言ってること違う……。…………ふん。ばーか」


 詩乃梨さんは拗ねたように吐き捨てて、俺の首にむぎゅりと抱き付いてきた。


 のどが絞まって思わずけほんと咳をする俺に、詩乃梨さんは『良い気味だ』みたいな鼻息を吐きつけながらも、腕の力を程良く抜いてくれた。代わりに俺の背中におっぱいを意図的にぷにぷに押しつけてきてる気がするんだけど、これ俺の気のせい? まあ気のせいだよな、だってこの流れで詩乃梨さんがこんなサービスしてくれるわけないし。


 ……でも、意図的じゃないとすると、わざわざ指摘すると詩乃梨さんに恥ずかしい思いさせちゃうよな。だいたい、おんぶしてるんだから多少『あててんのよ』状態になっちゃうのは不可抗力みたいなものだし、そんなのに過剰反応していちいち指摘するなんてのはマナー違反じゃね? 体育の授業でぶっ倒れた女の子を男性体育教師がおんぶで搬送する際に「お前のおっぱい、ふにふにしてて気持ち良いな」なんて言っちゃったら、それもう懲戒免職まっしぐらでしょ。


 ならば、こたろー先生が取るべき道はただひとつ。


「詩乃梨さんのおっぱい、気持ち良いっす。ゴチでーす!」


 率直な感想をしれっと御報告申し上げました。だって俺が運んでるのって、ただの女生徒じゃなくて詩乃梨さんだもーん。恥ずかしがるしのりん見たいんだもーん!


 という俺の思惑通り、詩乃梨さんはぴくりと身体を震わせ、羞恥の熱を帯びた吐息が俺の首筋を撫でた。でも、思惑通りだったのはそこまで。詩乃梨さんは、俺の首に絡めた腕は解かず、身体も離さず、当然おっぱいだって離さず、ずーっと『あててんのよ』し続けてる。


 ……………………。もしかしてこれ、最初から意図的にあてていらっしゃったのかしら? 会話の流れを利用して、思い切ってえっちなスキンシップしてきてくれたの? それとも、おんぶしてることへのお礼?


 理由はわからないけど、詩乃梨さんは自らの意思で俺におっぱいあててきてくれてるんだって、それだけははっきりとわかる。


「……………………ありがとな、しのりん」


 とりあえず、万感の思いを込めてお礼を言ってみた。


 詩乃梨さんはもじりを身じろぎして、俺に抱き付く力をちょっぴり強めながら、虚空に向けて棒読みっぽい声を投げかけた。


「こたろーくんは、明日、どんなことをして、過ごすのですか?」


「これまた露骨な話題逸らし――げふんげふん。………………え~っと、明日の予定か? 明日、あした……。………………あ。明日、詩乃梨さんいないのか」


「そです。わたし、学校です。……こたろーくんは、お休み、ですよね?」


「うん、まあね。……じゃあ、何してっかなぁ……っつっても、そんなに選択肢無いんだけど」


 ほぼ独り言みたいに呟いた末尾の台詞に、詩乃梨さんが思いの外興味津々な様子で食いついてきた。


「おせんたく。どんなこと?」


「おせんたくて。んー、じゃあ、そうだねぇ……。んじゃあ、たまには詩乃梨さんの代わりに色々しようかな? お洗濯とか、料理とか――」


「ぶん殴られたいの?」


「すんませんでした! そうだよね、これ元々詩乃梨さんの仕事じゃなくて二人で分担すべきことだよね、しのりんの代わりだなんて見当違い――」


「違う。逆。わたしの仕事取るな、ばか。専業主婦から家事取ったら、何残るの?」


「………………え? あ、いや、だって、えぇっと……。……ってか、専業主婦だって、旦那が家に居る時は自分だけで家事やったりなんてしないと思うよ、普通」 


 普通の専業主婦の場合は、普段から夫婦二人で家事分担して、旦那が休みの日には主に旦那に家事をやってもらう、みたいな感じじゃないだろうか? うちの両親は共働きだったから、これはあくまでも俺のイメージでしかないけど。


 でも詩乃梨さんの持つイメージ像は俺のそれとは全く異なるらしく、彼女は心底不思議そうに首を捻りながら問うてきた。


「だって、旦那さんを家でまで働かせてたら、旦那さんはいつ休むの?」


「……んなこと言ったら、主婦だって休みの日まで働いてたら、いつ休むんだ?」


「…………んー……? 専業主婦って、ずっと家にいるんだから、毎日がお休みみたいなものじゃない?」


「それは世の専業主婦達を丸ごと敵に回す発言だぞ……。それに、ずっと家にひとりでいるのだって、結構キツいものだろ。あと、出産とか、子育てとか、そういうのもめちゃくちゃ負担になるだろうし……」


「好きな人とのこどもなら、負担どころか、喜んでするのが当然じゃない? あと、ずっと家にいるのより、外でお仕事する方が、ずっとずっときついと思う」


「……………………う、うぅん……。………………そう、か、なぁ?」


「そうだよ。……じゃあさ、もしこたろーだったら、わたしと作った子供の相手するのとか、わたしの帰りを待ちながら家事するのとかっていうのは、キツくて負担で嫌だなぁとか思――」


「思うわけない。そんなんご褒美で天国でウハウハすぎて毎日がパラダイスだろ」


「でしょ? ……………………あ、でもそれじゃ、こたろーに家事させないの、かわいそうだよね……。どうしよう……」


 詩乃梨さんはすらすらと持論を展開していたのが嘘のように、ほとほと困り果てた様子で考え込んでしまわれた。詩乃梨さんったら、俺のことを論破しておきながら同時に自爆であります。ダブルノックアウトです。


 いやほんと俺ノックアウトされちったわ、詩乃梨さんまじ可愛い。なにこの良妻。家事も育児も喜んでやる気満々で、しかも俺の気持ちとかいっぱい考えてくれて、それに俺にも自分の気持ちをいっぱい伝えてくれる、それが俺の未来の妻・幸峰詩乃里さんである。あ、妻になったら土井村詩乃梨か。いや今考えるべきはそこじゃないな、今はとりあえず詩乃梨さんの困り顔を笑顔に変えてあげるのが先決。


 俺は詩乃梨さんをよっと持ち直し、道路に落ちる彼女の陰へ穏やかに語りかけた。


「ならさ、一軒家でも買うか? そしたら、家全体の管理しなきゃで詩乃梨さんのやること増えるから、それでたまに俺に家事任せてもらう感じにすれば、程良くバランス取れるんじゃないかな」


「…………………………………………い、いっ、けん、や……」


「あ、お高い買い物はやっぱNG? なら……、じゃあ、ちょっと多めに子供作るのはどう? 正直二人くらいまでしかリアルにイメージできてなかったけど、三人……、いや四人くらいまでなら、俺達が協力すればちゃんと育ててあげられるんじゃないかな?」


「…………………………………………………。え、ほんき?」


「……ごめん、ちょっと見栄張った。子育てって絶対大変だろうし、まずは一人目産んでから考えようか。……あ。じゃあ、明日街行って参考になりそうな本探してくるから、帰って来たら一緒に読もう?」


「…………………………あ、え、はい。…………わかったです。いっしょに、よむです」


 なぜカタコト? まあ、こくこく素直に頷いてくれてるから、じゃあいっか。


 さって。議論は、これにてひとまずの決着を見た。おまけに俺の明日の予定も埋まって万々歳。俺は再び詩乃梨さんをしっかりと持ち直して、夕闇に沈み往く住宅街をゆったりとした足取りで歩いて行く。


「……ああ、そうだ」


「なんですかこたろーくん!? わたしべつになにもおかしなことかんがえてないですよふしゃー!」


「……………………。い、いや、前詩乃梨さんと一緒にこの道通ったの思い出して、『詩乃梨さん、また鼻歌歌ってくれないかな』って思っただけなんだけど……。しのりん、なんか考え事――」


「してません! 考えごと、しておりません! わたし、あたま、からっぽ! はなうた! はなうた、ぜんしんぜんれいで、歌いますっ!」


 言うなり、詩乃梨さんはやけに荒い鼻息に載せて必死にミュージックを奏で始めた。……ほんと、一体どんなこと考えてたんだろね、この娘。



 ちなみに俺は、それからの帰り道の間ずっと、詩乃梨さんの鼻歌をBGMにして、彼女と一緒に住む物件とか子育ての計画について現実的に考えを巡らせておりました。



 ◆◇◆◇◆



 余談。


 家に帰った詩乃梨さんは、単なる疲労ではなく筋肉痛によってまともに動けなくなっており、俺の独断によって『今夜はえっちな行為は全面自粛。ついでに、家事は全部俺が引き受ける』ってことにした。


 しかし、これが詩乃梨さんにとっては、『私の失態を穴埋めするために、こたろーをエサ無しで働かせる』みたいな行為であったようで。最終的に俺の判断に従ってはくれたものの、彼女は「後で絶対、こたろーがすっごい喜ぶお礼、してやるんだからな!」と負け惜しみのように宣言してきました。


 まったく、俺が貴女のためなら喜んで家事やるヤツなんだって理解してくれたんじゃなかったんですかねー、などと内心苦笑いしつつ。俺は詩乃梨さんの台詞に、キラめく笑顔で「そこまで言うなら、ものすっげー期待して待ってるよっ!」と返しておきました。



 はてさて。予想外のプレッシャーをかけられて若干情けない顔してた詩乃梨さんは、一体どんなすっごいお礼をしてくれるのかなー、っと。ぐっひゅっひゅ……♪

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