四月二十九日(土・26)。妖精の園にて、男は微睡みに堕ちていく。
数十分後。俺と、そして香耶の視線の先にあったドアが、吹き飛ぶような勢いで思いっきり開け放たれました。
「いぇーい! お風呂上がりでオトナの色気むんむんバージョンな真鶴佐久夜ちゃんのご帰還だよー! ねーねー瓶入りの牛乳とかなーいーなーいー? 無いならこたちーの下半身から白いのいっぱい絞っちゃおっかなっ! それが無理ならかやちーのおっぱ――あ、ごめんねかやちー……。かやちーのないちちじゃミリリットルすら絞れないよね……。あとないちち呼ばわりしてほんとごめんね。かやちーってばちょーきょにゅーで、わたしとっても羨ましいわっ! …………………………んー? あっれぇー、なんで二人共テンション低いのぉ……?」
むしろなんでお前そんなテンション高ぇの? しかもやたら下ネタ方向に振り切れてやがるし。たぶんそのどっちも、しのりんや綾音さんとのきゃっきゃうふふの名残だろうな。女の子達って一緒にお風呂入るとはっちゃけたおっぱいトークや行き過ぎた触りっこで盛り上がるのが常識なんでしょう? 私、知ってます! 知ってるけどもっと慎み持って!
というコメントは俺の脳内のみに留まった。口開く気力無い。俺と香耶は桃色空間の中で無駄に精神力削られたから、ベッドの上にだらぁんと座り込んだまま佐久夜を白い目で睨め付けてやることしかできません。
俺と香耶の眼に映るのは、小首を傾げる真鶴佐久夜、お風呂上がりでオトナの色気むんむんバージョン。
常ならうなじで括られてみょんみょん揺れているはずの後ろ髪が、今は拘束されることなく自然に垂らされていて、確かに香り立つような色気を感じなくもない。でも行水後の犬みたいに水滴もぽったぽった垂れまくってるから、髪の色気は差し引きゼロ。
では首から下はどうかと申しますれば、綾音さんのお下がりと思しき可愛らしいパジャマに身を包んでいるんだけど、なぜかズボンの裾を膝くらいまで折って捲り上げていたり、袖も肩口まで同様の処理を施していたりして、色気より元気を感じるやんちゃ風味な着こなしです。
でもね、そのやんちゃ風味をオトナの色気で完全に塗り潰そうと画策していやがるのが、お胸です。上着のボタンが胸元の二つくらいしか留められていなくて、そこより上や下、なぞりたい鎖骨や指埋めたいおへそやその他白い肌いっぱい丸出しで艶めかしいことこの上無い。Tシャツ着ろよ。ブラしてるのは褒めてやるけど、ブラチラさせてるのはお前ほんとそれもうちょっとどうにかして、ほんと慎み持って。
こいつ、ノリが良くて人懐っこくてとっても付き合いやすいってのは長所だけど、まさか誰の前でもこんな無防備にやたらめったらそそる格好晒してるんじゃあるまいな? その頬の赤さは風呂入って血行良くなってるだけ? それともなけなしの羞恥心の現れ? どうなのさくちー、教えてさくちー!
つか、こいつもパジャマなのな。なんだかみんなこのままこの部屋でお泊まり会やりそうな雰囲気ね。まあそんなわけないけど。……あれっ、そういえば香耶がなんでもうパジャマ着ちゃってるのかって疑問については解答を与えてもらってないぞ。単に重要だと思ってもらえなかったからスルーされただけだろうけど、なんだかわけもなくお尻に冷や汗かき始めちゃいましたよぼく。
でもね。佐久夜の後ろから布団のお化けが千鳥足でふらふら入室して来たのを見て、ぼくは一周回ってとっても冷静になっちゃいました。
「……綾音さん、それ、なぁに?」
「んー? 詩乃梨ちゃんの布団だよー。……でもね、これ詩乃梨ちゃんの匂いがあんまりしないの……。ねえ、布団暖まるまででいいから、詩乃梨ちゃん貸してくれない? えっちなこととか、しないから。ほんと、絶対、ぜーったいしないから。ね? ね? いいでしょ、ね?」
あ、これしのりん確実に襲われちゃうな。綾音さんまでシモ方向に振り切れてやがるぜ、ヒュー! うちの女神様は、一体何人の女の子を同性愛者にすれば気が済むのでしょうか。
香耶が、綾音さんに便乗したそうな物欲しげな眼で俺見つめながら服の裾くいくい引っ張ってきやがる。佐久夜まで、同じような眼で俺見ながらわざとらしく人差し指咥えてやがる。しかも、しかもですね? しかも、布団で簀巻きになってる綾音さんに後ろから抱き付いて進路誘導していた詩乃梨さんご本人までもが、ちらっと顔を覗かせてきて恥ずかしそうにこんなことをおっしゃいましたの。
「……ねえ、こたろー? ……あやねとか、さくやとか、かやとも……、ちょっとだけ、えっちなこと、していい? ……ていうか……、お風呂で、ちょ~っとだけ、………………しちゃった♪」
「寝取られたああああああああぁぁぁぁぁ――――――っ!? うちの嫁が義理の姉や女友達に寝取られたあああああああぁぁぁあああぁうぅっぅっぅぅぁああぁあぁあぁがががががががががががががが!」
「違う、ちがう、寝取られていない、ない。わたし、浮気なんてしてないです。お風呂でしちゃったのも、身体とか、丁寧に、すごくていっねいに、洗ってもらったりした、だけ。……でも、もしかしたら、夜はそれよりもっと、えっちっぽいおさわりとかしちゃうかもしれないなって、でもっ、なるかもだから、ならないかもなの。でもたぶんなっちゃう――もっ、ももちろん、こたろーが、イヤがるなら、わたしっ、からだ、これ以上、ゆるしませんっ!」
布団お化けを横へぐいんっと押しやった詩乃梨さんが、握った両手を胸元でぶんぶん振りながらこちらへ詰め寄ってきた。そんなしのりんの背後では、盛大にふらついた布団お化けがこたつに足の指ぶつけて「おばふっ」とくぐもった悲鳴を上げて蹲り、ちょっぴりべそかき始めた哀れなお化けを佐久夜が苦笑いで介抱するというサイドストーリーが生まれてて、俺まで思わず苦笑い。
俺の苦笑いをどう受け取ったのか、詩乃梨さんは必死の形相の中に泣き出しそうな色合いまで混ぜ始め、詰め寄ってくるのみに留まらず俺に覆い被さる勢いでベッドに飛び乗ってきた。
俺が反射的に身体を引くと、詩乃梨さんが即座に距離を詰めてきて、俺は一瞬にして壁際に追いやられてしまった。さらに逃げ場を求めて身体をベッドに埋め込もうとする俺を、膝立ちの詩乃梨さんが壁に両手突いて完全に包囲。なんという圧倒的壁ドン。あらやだ、胸がきゅんきゅんしてお股がジュンッって濡れちゃいそう。このまま詩乃梨さんに逆レイプされたい。
そんな期待を込めながら詩乃梨さんを見上げてみれば、彼女の顔に浮かぶのは何やらきょとんとした表情。
「……こたろー、怒って、ないの? ……わたしが、浮気、しちゃったこととか、これからするかもとか……」
「え? いや、全然浮気じゃないだろ。綾音さんに詩乃梨さん洗ってあげてーって頼んだの俺なんだし、それに女の子同士って元々わりとえっちなスキンシップとかするものなんだろ? ついオーバーリアクションしちゃったけど、あれは八割方ただのノリだ。不安にさせるような真似しちゃってごめんな」
「…………………………う、うぅ、ん……?」
詩乃梨さんは首を捻りながら首肯するという曖昧な反応を見せながら、そろそろと身体を引いてぺたんと女の子座りした。逆レイプ、無しの模様。しょぼーん。……想定以上にしょぼーん……。
俺は気持ちを果てしなく落ち込ませつつも、ずり落ちていた身体をよっくらしょと持ち上げて、胡座かいた脚に手を突いて脱力すると共にはふりと嘆息。ふと生じてしまった空白の時間を利用して、詩乃梨さんの現在の身なりについて改めて鑑賞してみる。
詩乃梨さんも当然の如くパジャマであった。一応言っておくと、俺のお古とかじゃなくて、女の子用の可愛らしいやつだ。佐久夜や香耶の来ているのとほぼ同じ意匠なんだけど、一つ違うのは上着にフードがくっついている点。しかもそれ、ただのフードじゃなくて、何やらどうぶつの耳みたいなのが生えてるみたい。見たい。ケモミミしのりん見たい。でも今はフードかぶってくれてないので見れません。
だけど、ちっとも残念じゃない。だって、ケモミミしのりんはおあずけされちゃってはいるけど、その代わりにしのりんのいつもと違う髪型がめっちゃよく見えてる。しのりんが今やってるのは、いつもみたいにうなじで括って垂らした猫の尻尾スタイルではなく、首の左右で括って二本の尻尾を身体の前に垂らすという猫又スタイルだ。今日は色んな髪型のしのりんがいっぱい見れて、俺すっげぇ楽しいれす!
詩乃梨さんはその尻尾の先を指で摘まんで意味もなく弄りながら、ばつの悪さと訝しさが半々で混じっているような目でこちらの様子を窺ってきました。
「……こたろーくんは、わたしが、余所の女といかがわしいことしても、ちーっとも気にしないというのですか?」
「いや、そりゃあ、詩乃梨さんが余所の男とー、ってんなら相手の野郎を血祭りに上げるけどさ。でも相手女の子で、しかも綾音さん達なわけだろ? なら、あんまり気にならないかなぁ。……むしろどっちかっていうと、嬉しい気もする」
「…………………………血祭りに上げるって――」
「そこはスルーして。末尾の『嬉しい』って所に食いついて? で、なんで俺が嬉しいかっていうとですね? 今日俺が詩乃梨さん以外の女の子相手に色々ハッスルしちゃった件で、どうしても後ろめたい気持ちが俺の中でわだかまっちゃってるから、もし詩乃梨さんも同じようなことしてくれるなら同罪や共犯みたいになって気が楽になるなぁー、と思ったわけです」
それに、詩乃梨さんがお姉ちゃんやお友達と楽しそうにしててくれれば、それだけで俺はとってもしあわせになれるからさ。ってのは敢えて言いません。上から目線な上に保護者目線すぎるコメントだから口に出すのが憚られるってのもあるけど、単純に、そんなキザなこと言うのが小っ恥ずかしいのでね。こらそこ、そんなん今更とか言うなし。
詩乃梨さんは、俺の述べた表向きの――と言っても百パーセント本心ではある――理由に、納得を通り越して共感までしてくれたらしい。嫌な感じがしないイヤラシイ笑みを浮かべながら、両腕を組んでうんうんと首肯してくれた。
「どーざい、きょーはん。そう、夫婦はいつだって一蓮托生なものですよね。こたろーくんが余所の女と遊ぶなら、わたしもその女達と遊ぶことで、釣り合いを取らなければならない。こたろーくんが言いたいのは、そういうことです」
……え、最後疑問系じゃなくて断定されちゃった。俺がちょっぴりおかしな理屈を言いたがってたことにされちゃったよ。でも大筋ではあながち間違いってわけでもない気もするし、詩乃梨さん笑顔だし、じゃあいっか!
「そうそう、そういうことだよ。つーわけで、俺のことは気にせず、大好きなお姉ちゃんや友達とのディープな交流を楽しんでおくれ」
「……べっ、べ、べつに、大好きとかじゃ、ねーもん? …………ちょっと好き、より、だいぶ……、かなり、上、くらいだもん……」
「そういうのを世間では大好きって――わかった、わかったから睨むなて。了解、りょーかいです。……じゃーまあその話はひとまずさて置くとしてさ。そろそろ、夕、……飯……………?」
ここらを一段落と見て次の議題に移ろうとしたけど、詩乃梨さんの背後から忍び寄ってくる妖怪が視界に入ったせいで台詞がどっか言っちゃった。
布団お化けの正体見たり、妖怪サトリ。別名綾音さんは、先程までその身に巻き付けていた布団を、目一杯伸ばした両手で広げた状態で背負っている。そんな、人に襲いかかる熊のような、或いはトレンチコートを開く変質者のような風情で、綾音さんは足音を忍ばせて詩乃梨さんの背後へ歩み寄ってきておられます。
お風呂上がりでオトナの色気むんむんバージョンな田名部綾音さん。なんだけど、しっとり濡れた髪やほんのり上気した肌や生地の薄いパジャマから漂っているはずの色気が、完全に妖気に食われちゃってる。妖気っていうか、怒気と茶目っ気と食い気で闇鍋してるような混沌とした激情が全身から迸ってます。なんだあの名状しがたい笑顔。本能的に畏れを感じるぞ、さすが妖怪だな。
巻き添え食らうのを避けるべく、俺はケツでベッドの上を這いずって詩乃梨さんから距離を取った。ふと見てみれば、香耶も俺と鏡映しのような動きで反対側へと退避を開始している。
取り残された詩乃梨さんは、俺と香耶をきょろきょろ見比べながら、不思議そうに首を傾げた。
「……ふたりとも、どうし――」
「――ふぅーはははははははははぁー! ひゃはァー!」
どっかの土井村琥太郎みたいなタガの外れた雄叫びを上げながら、布団お化けは詩乃梨さんをぱくりと捕食。女の子二人分の膨らみを持つ布団の塊が、ベッドの中央でどったんばったん暴れ出す。
「ふにゃー!? うにゃー、ふがー、ふがぁーっ! あっ、ああ、あやねっ!? あやねっ、なにこれ、これなにっ!?」
「ふぅーはははー! 暴れるでないわ、小娘っ! 己の犯した罪の重さを、その身をもって知るがいい! 優しくするからっ、ね、いいでしょ、ねっ、ね、ねっ!?」
「ひぃんっ!? や、やだっ、やぁだっ、そこ、だっ、ダメだからっ! つみっ、罪って、なに、なぁにっ、わたし、悪いことなにもして――ひぎっ!」
「へーえー? 私にあんなに痛い思いさせといて、そのことにすら気付いてなかったんだねぇー? ひどいねー? これほんと酷いよねー? これはもっとすごいおしおきが必要かなぁー?」
「や、やっ、あ、あ、ふっ、ふ、う、は、あ、ぁっ、あ、あっ!」
「うぇへ、うぇへ、うぇへへへへへへ、うぇへへへへへへへへ――あれっ?」
無造作に布団をめくり上げた俺を、絡み合う二人の少女達がきょとんとしたお目々で見詰めてきた。
完全に組み敷かれた体勢で目尻に涙を浮かべてはぁはぁ言ってる詩乃梨さんと、完全に組み敷いた体勢で口の端に涎を垂らしてはぁはぁ言ってる綾音さん。乱れているのは呼吸だけではなく、二人の衣服もけっこう際どい感じにはだけていた。
でも俺は二人に全く欲情することなく、どころかちょっぴり怒りを滲ませながら、綾音さんの頬をぎゅむりと抓った。
「い、いひゃい、いひゃ、いひゃっ、いひゃいれふ、いひゃいれふっ」
「うるせぇ。俺の女に何しやがる。本気で襲ってんじゃねぇぞコラ。テメェの処女ブチ抜いてひぃひぃ泣き叫ばせたろか? あ?」
「……………………え、えぇー……。琥太郎くん、けっこう本気で怒ってる……? でもさっき、詩乃梨ちゃんといかがわしいこと、女の子が相手なら、気にならないって……」
「ここまでガチでやられるとそんなこと言ってられねぇよ。お前、本気で寝取りにかかってきてんじゃねぇか……。やるなとは言わないけどさぁ、やるならもっと節度持ってやってくれる?」
「…………………ふぁーい……。ごめんね、琥太郎くんも、詩乃梨ちゃんも」
綾音さんの謝罪を受け取って、詩乃梨さんは呆けたような顔でこくこくと首肯した。俺も一度だけ深く頷いて、綾音さんの頬からそっと手を離す。
綾音さんがいそいそと身を起こして女の子座りし、詩乃梨さんも崩した正座で座り直して、俺も胡座でその場に座した。一時の混乱と熱が去った俺達の顔には、なんともいえない気まずい表情が張り付いてしまっている。
……思わずストップかけちまったけど、もしかしたら今くらいのなら、女の子的にはセーフの範囲だったのかもしれない。つい浮かんでしまったそんな考えが、すぐさま後悔へと転化して、俺の心を重くする。
カッとなって吐いてしまった暴言について、今すぐ謝罪すべきだろう。でも、怒鳴り散らしてからすぐさま手の平返したように謝るって、そんなのは本物のDV男の所行に思えてしまって、うまく口を動かすことができない。
だから俺は、口ではなく、手を動かした。綾音さんの頬に俺が付けてしまった赤い疵痕を、手の平でそっと撫でる。
綾音さんは一瞬表情を強ばらせたけど、程なくして全身の力を抜いて、俺の手に頬を擦りつけてきてくれた。
俺も知らず強ばっていた身体を脱力させて、ほっと頬を緩める。そして、刹那に満たない一瞬のアイコンタクト。
『ほんと、酷いこと言ってごめんな』
『ううん、今のは私が悪かったから。気にしないで』
無言のやりとりが完了すると同時に、俺と綾音さんはこくりと頷き、どちらともなく触れ合いを終わらせた。
身を離した俺達がほぅっと安堵の溜息を吐くのと同時に、なぜか他の女の子達まで盛大に息を吐き出しました。
その反応の理由を誰に尋ねたものかと思って皆を見回していたら、佐久夜がゆるい笑顔を浮かべながらこちらに歩み寄ってきた。ベッド脇に落ちてしまっていた布団を抱え上げた佐久夜は、それを綾音さんと詩乃梨さんの上にばふりと被せてから、自分もいそいそと暗闇の中へ潜り込み……?
「え、何してんのお前」
「やー、まー、細かいことはいーじゃない」
全く答えになってない。布団の塊のせいで見えないけど、佐久夜はどうやら香耶にも何らかのアプローチを仕掛けたようで、香耶は俺にちらちら視線を送りながら躊躇いがちに暗闇の中へと消えていった。
いきなり誰もいなくなって、呆然とする俺。眼前では、娘っ子ばかりを三人も四人も飲み込んで膨張した布団お化けが、くぐもった呻きを上げながら蠢いている。なにこれホラー。
呆然が戦慄へと変わる直前に、布団お化けからにょっきりと触手が生えてきて俺の膝をぺちぺち叩いてきた。
「何してんの、こたちー。ほれ、はよ、はよぉ来てぇな」
「だから、俺が何してんのっていうか、お前が何したいんだよ……」
などと言いつつも、要請に従って粛々と布団の端から潜り込む俺。ひとりぼっちは寂しいもん。
布団お化けの胎内に入り込んでみたら、四人の女の子達が車座になってぽつりぽつりと会話を交わしていた。近い。みんなが近い。女の子同士の距離が近くて、俺と女の子達の距離が近い。近いどころか、風呂上がりの女の子達がぽわぽわ発しまくってるフェロモンが、速攻で俺の身体の芯まで侵略・占領を果たしやがりました。
会話どころか呼吸すらままならない状態の俺に、佐久夜がすすっと擦り寄ってきて、一言。
「あふゥん♪」
「……お前ほんと、何がしたいんだよ……。でも、ありがとな」
よくわからんが、佐久夜なりに皆を気遣っての行動なのだろう。先程までの気まずい空気もどこへやら、今この狭い空間には弛緩しきったゆる~い雰囲気が充ち満ちていた。
俺も、相手が女の子達だからと無駄に身構えることはやめて、ゆったりと呼吸して心を落ち着ける。一度現状を受け入れると決めてしまえば、これほど安らげる空間も無い。俺が愛している女性や、俺が気に入っている女の子達が、何の気兼ねも無く、何の不安も迷いも無く、楽しげにゆるゆると囁き合っている。それが程良くBGMになって、気を抜くとうっかり眠ってしまいそうなほどに心地良くなってきちゃった。
つか、もう寝たい。
でも飯どうしよ。……いいや、そのうち誰かがどうにかするだろ。無粋な横槍入れて、妖精さん達の団欒を壊す必要はあるまい。
じゃあ……。みんなの話が一段落するまで、ちょっとだけ、軽く居眠りでもしようかな……。




