四月二十三日(日・続了)。方針。
最初に一言だけ言わせてくれ。前回は軽く暴走した。すまない。ここからはいつものクールでニヒルなナイスガイ・土井村琥太郎によるイケイケでアゲアゲな物語がはっじまーるよー!
……ごめん、ちょっと詩乃梨さんの全てがあまりに狂おしいほどに愛らしすぎるせいで俺もう脳味噌ブッ飛んじゃって、俺って元々どんなテンションだったっけっていうのすっかり忘却の彼方なんですよ。もうちょっとだけ、もうちょっとだけ待って。
すーはーすーはーすーはーすーはー。
「…………………………よし」
いつものように、暗闇に沈む天井を眺め、そして俺は孤独に思考する。
俺が暴走したせいで、すっかり有耶無耶になってしまったが……、詩乃梨さんはもしかして、俺に膝枕をしようとしてくれていたのではないだろうか?
今日に限って無防備に曝け出されていた生の脚。しきりに太股をぺちぺちと叩いてのアピール。ちらりちらりと送られる物欲しげで物言いたげな視線。いつまでも自分の部屋に帰ろうとしなかった理由。
やはり何をどう考えても、詩乃梨さんが俺に膝枕をしようとしていた、としか取れない。
でも詩乃梨さんは自分から「こたろー、膝枕してあげるっ!」なんて言うのは恥ずかしすぎてできなくて、それどころか俺に「膝枕してー」って頼まれてもやっぱり恥ずかしすぎてできなくて、ついつい「やだ」なんて言ってしまったんだろう。
そんな彼女の気持ちを、俺は汲んであげることができなかった。たぶん膝枕だけではなく、手を握ることも、髪を触ることも、俺が彼女の拒絶の言葉を敢えて無視して強行すれば、彼女は不機嫌そうな顔をしながらも内心満面の笑みで受け入れてくれたのではないだろうか。
……というのは、俺の勝手な願望や妄想か。
「…………………………いや、違う」
たぶん、これが、正解でいいはずだ。詩乃梨さん本人に問い質しても「そんなわけ、ないじゃん」なんてぶっきらぼうに否定されてしまうだろうけど、たぶん、俺の考えは合っている。
合っている、はずなのに。俺はこの解答を、心の底から信じることができない。
なぜなら。詩乃梨さんが、明確に『やだ』って言っていたから。
単なる照れ隠し。そう取ることもできる。というより、状況や詩乃梨さんの態度から考えればそうとしか取れないだろう。
でも、俺は……やはり、詩乃梨さんが「やだ」と言うなら、進んでその行為をしようとは思えない。愛する女性が明確に拒絶の意志を示しているのに、それを無視して行為を無理強いすることなんて、俺には出来ない。それができるなら、もうとっくの昔に詩乃梨さんを押し倒してやることやっているだろう。なにせ毎日が据え膳状態なんだ、機会なんて窺うまでもなく溢れまくっている。
それでも俺が自分を押し留めることができているのは――自分を押し留めざるを得ないのは、やはり、詩乃梨さんが言葉で「わたしは、こたろーに、抱かれたい」と断言してくれないからだろう。抱かれたいと言ってくれないどころか、結婚も婚約もきっぱりお断りされてしまっている上、今はまだちゃんとした愛を抱かれてもいない。
俺がしたいのは、ただ肉欲を解消するための行為ではない。愛を囁き、愛を囁かれ、相手に想いを伝え、相手から想いを伝えられる、そういう心の満たされる行為がしたいのだ。「やだ」と言われればやる意味が無いし、「嫌じゃない」程度の気持ちではやっぱりあんまりやりたくない。ちゃんと、心の底から「したい、すごくしたい、是非したい、絶対したい!」って、俺を強く求めて欲しいんだ。
けれど。
詩乃梨さんってたぶん、俺と無事相思相愛になっていざ事に及ぼうとしても「べつにこたろーなんか好きじゃないもん!」とか「だめだめだめだめ! ぜったいそういうえっちなのはダメだからっ!」とか言うんじゃないかなぁー……。そこを何とか乗り越えられたとしても、どこのとは言わないけど膜を破ろうとする瞬間に「無理! 絶対むり! やだ、痛いっ!」とか言われるね絶対。そしたら俺、まず間違いなく心に甚大なダメージ受けて一発で不能者になっちゃうぞ……?
詩乃梨さんの恥ずかしがる姿はとっても可愛らしいし、そういう奥手で初心な詩乃梨さんだからこそこんなにも俺の心をキュンキュンさせてやまないわけなのだけど、このままではちょっとまずいかもしれん。
作戦を考えよう。差し当たり、詩乃梨さんに、満面の笑みで「こたろー、膝枕してあげるっ!」と言わせるための作戦を。
「…………………………」
無理くせぇー……。え、どうやるのそれ? そんなしのりん最早しのりんじゃないよ?
……とりあえず、下手に策を弄する前に、俺の気持ちだけでも正直に打ち明けてみようかなぁ……。ていうか、しのりんってばなんでいきなり膝枕してくれようとしてたんだろう……?




