四月十日(月・7)。食うか、食われるか。
カレーライス。言わずと知れた、日本の国民食。小中学校で好きな料理アンケートを採れば必ず上位へランクインするほどに美味しい上、遠足でキャンプ地へ行って料理するとなったらこれ以外はありえないというほどに誰でもお手軽簡単に作れちゃう。おいしくて、かんたん。学校で、ご家庭で、食べるにも作るにも、カレーライスというのは多くの日本人に広く親しまれている料理である。
だが。俺が今食べているこれは、俺がこれまでの人生で食してきたカレーライスとはまったく別の次元に存在する逸品であった。
とんでもなく美味しいのかというと、そうではない。ではとんでもなく不味いのかというと、それは断じて否。美味しいとか美味しくないとかそういうことじゃなくて、このカレーライスの具ひとつひとつ、ごはん一粒一粒に、幸峰詩乃梨という愛らしく愛おしい少女の体温を感じることができるのだ。
店で出したら客に文句を言われそうな、形も大きさも不揃いに切られた不格好な野菜達。俺の炊飯器のクセを把握していなかったがための、ちょっと水分が多くてべちゃっとしているライス。温めすぎて水分が飛んでしまったのか、少々以上に濃いめになってしまっている味付け。そして、味の調整を失敗した詩乃梨さんが慌てて取った、自分のグラスの水を俺の皿のカレー部分にちょっぴり垂らすという荒技。
――詩乃梨さんがにゃーにゃー可愛く鳴きながら切ってくれたであろう具材。詩乃梨さんがかわいいお手々で何度もといでくれた米。詩乃梨さんが丹精込めて温め直してくれた結果産まれた奇跡の味。詩乃梨さんが俺の目の前でトッピングしてくれた、敏腕メイド詩乃梨さんにしかできないオリジナルの美味しくなる魔法。
すぐ隣の、ブレザーどころかエプロンまでキャストオフしてブラウスのみとなった詩乃梨さんが、ばつの悪そうな顔で見守る中。俺はカレーと水をゆっくりとかき混ぜて馴染ませ、ライスに絡めて、さらにぱくりともう一口。
俺はもぐもぐと咀嚼し、ごくりと飲み込んで。
泣いた。
「ちょーうめぇ……」
我知らず魂の呟きを漏らしたら、詩乃梨さんにじろりと睨まれた。
「こたろう、嘘つき。これ、そんなに美味しくない。やっぱりばかにしてる?」
「なあ、詩乃梨」
「……なんで呼び捨て? ……まあ、べつに、いいんだけどさ……。で、なにか用?」
「詩乃梨。俺と結婚してくれ。ずっと、ずっと、一緒にいよう」
俺、一片の迷いも無く本気である。二十歳まで待つとか愛がどうたらとか、なんかもうそういうの全部宇宙の彼方に放り投げて、今すぐ詩乃梨さんと一緒になりたい。ひとつになりたい。とろけあいたい。
なのに。詩乃梨さんは行儀悪くこたつに頬杖ついて不味っそーにカレーを食べながら、しらーっと白い目を向けてきた。
「こんな失敗料理でそんなこと言われても、ひじょーにビミョーなんだけど? それにあんまり結婚けっこん言ってると、重みもありがたみも磨り減ってくよ?」
「と言いつつも、頬を徐々に朱へと染めてゆく詩乃梨であった」
「……そ、染めてねーもん? ほんと、こんな料理でそんなこと言われても、気持ち的には微妙なんだって。……こたろう、こっち見んな」
詩乃梨さんは本当にほんのり頬を赤くしながら、いつものごとくふいっと顔を背けてしまった。かわいい。愛してる。結婚したい。
したいんだけど、うーん、確かに俺ちょっと結婚言い過ぎだよなぁ。他に詩乃梨さんへの溢れる愛情を明確な形にする方法を知らないから、ついつい安直にその単語に走っちまう。もうちょっと、詩乃梨さんにプレッシャーを与えない範囲の言葉で、『大好きだ』や『結婚しよう』以外の愛情表現ワードを考えてみるか。
さて、どんなのがいいかな。『俺の子供を産んでくれ』? 『あたたかい家庭を築こう』? 『年老いても一緒に縁側で仲良くコーヒー啜ろうね』? 若葉の香りと柔らかな陽ざしに包まれた古民家の縁側で、孫達がボール遊びしてるのを眺めながら、無言で缶コーヒーを啜る俺と詩乃梨さん。詩乃梨さんはなぜかいきなり『寒い』と口にして、俺はそれに『俺も寒い』ととりあえず答える。すると詩乃梨さんと俺の手がいつの間にか重なり合っていて、俺達の刻んできた歴史の分だけしわしわになってきた手は、二人分合わさることで『しあわせ』となり――おい待て、気が早いっつーか気が遠くなるほど先の話じゃねえかこれ? 先走りすぎて人生のエンディングまで突き抜けちゃった感あるぞ?
でも、そうね。そんな未来に、いつか行けたらいいな。
……なんか老人になった後の事まで考えてたら、急に心まで老成してきちゃった。べつに生き急がなくていいじゃないか、とりあえずカレー食べようぜ。
一口すくって、ぱくり。もぐもぐ。
「ちょーうめぇ……。詩乃梨さん、大好きだ……。愛してるよぉ……。うめぇ、うめぇよぉ……えぐえぐ」
はらはらと落涙しながらたいせつにたいせつに食べ進めていると、詩乃梨さんが先に食べ終わってかちゃんとスプーンを置いた。
詩乃梨さんはどうでもよさげに頬杖をつきながら、しかしなんだか優しげな面持ちで傍らの俺を見上げてくる。
「こたろう、どんだけわたしのこと好きなの……? なんかもう、そこまでいくと、ちょっとなんて言っていいかわかんない」
「好きなものは、好きなんだよ。ほんと、詩乃梨さんを想うと、胸が熱くなって、鼻の奥が熱くなって、目の奥が熱くなって、とにかく詩乃梨さんだいすきです」
「……そっか。……ご飯、おいしい?」
「とっても、おいしいれふ。もぎゅもぎゅ」
「……そっか。うん。……そっか」
詩乃梨さんはカレーの皿を押しやって、こたつにぐでんと身体を預けた。腕で枕を作って頭を預け、俺の顔をぼんやりと見上げてくる。
「こたろうのそれが、ほんものの『愛してる』っていう気持ち、なんだよね」
「そうれす。そうなのれす。しのりさん、あいしてまふ」
「おーおー。ありがとね、こたろーくん」
詩乃梨さんはとても穏やかな微笑みを浮かべて、寝たままの体勢で俺の頭をそっと撫でてきた。
「ねえ、こたろー?」
「はひ、らんれひょうは」
「わたしさ。やっぱり、こたろうのこと、いつか愛したいなって思う。まだ全然うまくできてないけど、でもさ。こたろうの、わたしを想ってくれる気持ちが、すごく嬉しいから。いつかちゃんと、応えられるようになりたいなって、今なんか改めてちょっと思った」
――そう語る、彼女の顔には、幼さや甘えなど微塵もなくて。ただただ、息を飲んでしまうほどに美しい女性が、そこにいた。
と思ったのは、ほんの一瞬だけのお話。
「……ちょっと思っただけだから、そうなるかどうかは、まだわかんないんだからね? いい? わかってるよね?」
詩乃梨さんが凄むように睨み付けてきて、俺の頭を撫でていた手で流れるように俺の耳たぶを引っ張ってきた。痛くはないんだけど、引っ張られちゃうとついつい反射で頭と身体が傾いちゃう。手に取っていたカレーの皿をなんとか水平に保つように努力しながら、顔だけ詩乃梨さんの方へ倒していく。
「わかってる、わかってるから、耳、耳はやめて、頼むからやめて。俺耳超弱い人だから」
「……へぇ、そんなに弱いんだ? 息とか思いっきり吹きかけていい?」
「……それもいいけど、どうせなら舐めたり甘噛みしたりしてほしいなぁ、なーんちゃって」
「………………………………ふぅーん?」
詩乃梨さんが、にやりと悪戯な笑みを浮かべる。あ、俺フラグ立てちゃった? いやでも詩乃梨さんに限ってそんなことしないよね、だってえっちっちとかまだ理解できてないはずだもんね。あれ、でも俺の身体さわりたいって思ったっていうのは性への目覚めの証ってことになっちゃうの?
詩乃梨さんは良いこと思いついたとばかりに身体をぴょこりと起こして、俺の耳を解放する代わりに俺の手からカレーとスプーンを抜き取って、テーブルへと静かに置いた。
そして、間近から俺を見上げて、わざとらしくしなを作って可愛くおねだり。
「こたろう。お耳、ちょーだい?」
「怖っ!? あげませんよ! 俺の耳は俺の身体の一部ですのでね、あげたくてもあげられないのですよこれしかし」
「じゃあさ。唇、ちょーだい?」
「怖っ!? だからあげませんて! 俺の唇は俺の身体の一部ですのでね、あげたくてもえくちびるえどゆこと?」
「耳と唇、どっちならくれるのー?」
「どっち選んでも俺の肉体に大ダメージ! だからどっちもあげませんてば! なに、そんなに俺の耳ぺろぺろしたり唇噛み噛みしたりしたいの貴女?」
「うん」
「…………………………………………あ、そなの?」
「うん」
呆けて聞き返すと、恥ずかしげな笑みと共にこくりと返ってくる首肯。
……あ、そなの? 耳はともかく、唇ちょうだいっていうのは、ええと、猟奇的ヒャッハーじゃなくて粘膜同士のぶっちゅっちゅでいいなのかな? むちゅーっと、接吻風味でベーゼ的な、お口同士のお付き合い?
詩乃梨さん、期待の眼差しで俺を見つめる。ほのかに色気や艶のようなものは感じるものの、そういう成分は極僅かで、大半が好奇心やわくわくで構成されている模様。
……うーん。俺の裸を見てえろすに興味持っちゃったか、俺の溢れる愛にあてられてその気になってきちゃったか、はてさてどっち? もしくはどっちでもない? 俺はどうするのがベストな回答なんですかねこれしかし。
「……………………」
改めて、詩乃梨さんを見つめる。
崩した正座で、俺にしなだれかかるように身を寄せてきて、熱く潤む瞳で俺を見つめる彼女。下を見れば、ちょっとだけ乱れているプリーツスカートの裾から悩ましげな脚線美が顔を出し。上を見れば、ブラウス一枚という防御力の低い服装が、内側から押し上げてくる美乳を受け止めて確かな曲線を描いている。
そのどれもこれもが、俺がほんの少し手を伸ばすだけで、丸ごと捕まえられる距離にある。
……もちろん唇だって、俺がほんの少し身体を倒すだけで、すぐに重ねることができる。
でも、いきなり唇はちょっと急ぎすぎ? いや吸いたいけど、吸い付きたいけど、今すぐ詩乃梨さんの両肩を強く掴んで引き寄せて唇と唇を合わせて俺の舌と詩乃梨さんの舌をつんつんぺろぺろねちょねちょちゅぱちゅぱぴちゃぴちゃぷはぁってしたいけど、それは段階飛ばしすぎ。
じゃあ、ここは……耳、かな?
「詩乃梨さん、俺の耳、ぺろぺろしたい?」
「噛み千切りたい」
「それ猟奇的ヒャッハーじゃん!? やめろよ、マジでやめろよ! 甘噛みに留めといて!?」
「うん。わかった」
わかられてしまった。
詩乃梨さん、わかってしまわれました。
詩乃梨さんは俺の肩にそっと手を置き、まるでキスでもするかのように顔をそっと寄せてきた。
「……………………………………」
両者沈黙。俺の耳へ食らいつこうとしていた詩乃梨さんが、唇と耳のルート分岐ポイントで動きを止め、斜め下から物欲しげな様子で見つめてくる。
声が、出ない。代わりに、咽がごくりと音を鳴らす。鼻腔に満ちる、彼女の髪の香りと身体の匂いが、カレーの時とは別種の食欲を否応無しに刺激する。
「……ねえ、こたろー。くちびるは、だめなの?」
「……………………………………………………たぶん、だめ、かな?」
「……そっかー……。………………ほんとに、だめなの?」
「……………………だめ、じゃ、ない、けど……。いや、でも、やっぱ、ダメじゃね?」
「なんで?」
なんで。なんでだろう。なんでダメなんだろう。だめってなんだろう。確か囲碁の用語だった気がする。囲碁。囲碁か。囲碁といえば頭脳が命、頭を回して回して考えつくし、神の一手を極めるために才能有る若者達が日々切磋琢磨――
「ねえ、こたろー。だめ……なの?」
悲しげに呟いて、しゅんと落ち込んでしまう彼女。
不詳・琥太郎。神の一手、参ります。
「詩乃梨さん」
俺の肩に置かれた詩乃梨さんの手の、その外側から。俺の手を、詩乃梨さんの肩へと伸ばし、触り心地の良い柔らかい布へ、その奥に隠された蕩けるようなもちもちの肌へ、両手の五指をふんわりと沈ませる。
詩乃梨さんが、くすぐったそうに小さく身じろぎして、俺の肩に乗せた手にきゅっと力を込めてきた。
照れ笑いで半笑いの詩乃梨さんが、吹き出すのをこらえるように唇を固く閉じてむにむにと動かし、目線をぽわぽわふわふわ彷徨わせる。
時折俺とぶつかる瞳には、期待の二文字がくっきりと浮かび上がっている。
「……………………」
俺は、さて。どうしよう。俺的には詩乃梨さんの肩のやわらかさをこうして堪能できた時点で、神の一手終了である。神は死んだ。投了でござる。
詩乃梨さんの肩、やわらかいなぁ……。しかも、あったかい。すごく、すごく、あたたかい。ちょっと指に力をこめれば、予想以上にふにゅりと沈んでいって、高めの体温に優しく包まれる。俺の指先だけが、俺本体に先んじて、詩乃梨さんに抱き締められてる感じ。
詩乃梨さんの、顔。近い。距離で十センチくらいしか無い。綺麗な顔。いや、まだやっぱり可愛いって感じだな。可愛い。すごく、かわいい。震える睫毛が、髪の毛と同じ色してる。初めて知ったかも。唇、すごいぷるぷるしてる。ぜりーみたい。食べたい。むしゃぶりついて、いつまでも唇ではむはむしていたい。
詩乃梨さんの呼吸が、ちょっと熱い。時折漏れてる半端な溜息が、俺ののどの辺りに当たって、なんだかとってもくすぐったい。
……キス……は、ちょっと、無理、だけ、ど、さ。……その、ちょっと下で、横の、首筋あたりとかなら、まあ、セーフなんじゃ、ない、かな? ブラウス、ぼたんふたつくらい外れてるし、良い感じに吸い付けそう。
吸い付いて、いいのかな? ……いい、よね? うん、いい。たぶん、いい。
「詩乃梨さん、ちょっとだけ、首、傾けて?」
「……くび? ……こう?」
俺の指示の意味がわからなかったのか、意外そうな顔。でも、素直に従って、白い首筋をほんの少しだけ見せてくるように顔を傾けてくれた。
あ。これ、食べていいやつだ。
いただきます。
「――んっ」
それは、俺の声で、彼女の声。
俺は、詩乃梨さんの首とブラウスの間に鼻先を突っこんで、白い首筋にかぷりと浅く噛み付いた。
詩乃梨さんが、びっくりしたように全身をびくんと跳ねさせて硬直する。
今、どんな顔、してるのかな。見たい。けど、ここからじゃ見えない。
いいにおいだ。ブラウスと肌の間から、あたたかくてほっとする香り。束ねられた髪と首の間からは、シャンプーと詩乃梨さんの香りが混じったかぐわしい香り。
半開きの口から舌を伸ばしてちろちろと舐めてみれば、粘膜に伝わってくるなめらかでもちもちした肌。舌先で押すだけで沈んで、力を弱めるとすぐに押し戻される。
詩乃梨さん、ちょっと汗かいてるのかな。しょっぱいような、しょっぱくないような。
よくわかんないけど、おいしい。
味わって、味わって、かぷかぷ噛んで、ぺろぺろ舐めながら、耳を澄ませて詩乃梨さんの声を拾う。
「……こ、こた、ろー……ちょ、く、くすぐ、た、い、……ひ、ひふっ、ひょ、ひょふ、ふっ、ふひ、ふひぃ」
これ、よろこんでるよね? よろこんで、くれてる、よね?
だって、逃げようとしないし。逃げないってことは、もうこれ、襲っていいんだよね?
………………………………あれ。襲って、いいんだったっけ?
……………………。
……今はまだダメ、だったんじゃないっけかなー?
「………」
なんでダメなんだっけ……。頭回らねー。だめってなんだっけ? 囲碁の用語?
いや、そうじゃなかった。今はとりあえず詩乃梨さんの汗を舐める時間だろ? もっと下の方に口動かしてったらどうなるかな。ブラウスのボタン、もう一個くらいはずしていい? 服、ちょっとだけ、脱がしたい。
「…………………………」
いやまぁ待て。それはまだ早いのではないだろうか。今はここで満足しておくべきではないだろうか。でもここで引いたら二度と先へ進めなくなるのではないだろうか。人生は一度だけではないだろうか。やるべきは今ではないだろうか。だがどうすべきだろうか。だろうか。であろうか。どうしようか。
舌全体を詩乃梨さんにぺったりと押しつけて、彼女の様子を改めて窺う。
「――こ、こたっ、こた、む、むり、むり、これ、むり、むりなの、だめ、だめだからこれ、ね、ほんと、ね、まだ、まだだめ、たぶんだめ、もう、あの、これ、ちょっ、え、あ、ん、あ、え、あ、う、ひ――」
……嫌そうな空気は無いな。だがもう意識が吹っ飛んでしまっているのか、うわごとのように意味の無い言葉しか紡げていない。
……ふむ。
………………………………もうちょっといけるかな? いやだが、もう少しいけるという考えは事故の元になると自動車学校で習った記憶がある。俺は自分の運転の技術を信用してはいない。ならばここは惨事を未然に防ぐために引くのがベストなのではないだろうか。
ところで、どうして俺の手は、詩乃梨さんの肩を離れて、ブラウスのボタンへのびかけているのだろう。
……ふむ。
…………………………ふむ。
「…………………………ぷはっ」
俺は長いこと堪能していたおもちから口を離して、詩乃梨さんの肩を押して正面から様子を確認してみた。
詩乃梨さんの手はいつの間にか俺の肩から離れていて、胸元で祈るように組まれている。ブラウスのボタンが外しにくかったのはこのせいか。……いや、外してどうする。待てよ俺。
とりあえず、詩乃梨さんの表情は、どうなっているかというと……。
「……………………………………おい、マジか……」
顔色、赤一色。目は虚ろ、口にはヨダレ。緊張によってか羞恥によってか、ここではない別の世界へ旅立ってしまっていた。
失神である。
……首筋舐めただけでこれなの? いつ本番できるの? いやしねぇよ? なんで本番する気でいるの? そもそも今って俺が詩乃梨さんに何かするんじゃなくて、詩乃梨さんが俺に何かしようとしてた場面じゃなかったっけ? なんで俺が詩乃梨さん堪能してんの? どうなってんの、勢いって怖ぇな。
とりあえず、詩乃梨さんのヨダレ、垂れそうだから舐めていい? あ、ダメ? わかったよ、じゃあ仕方無い。詩乃梨さんは復活するまで、横にしといてあげよう。
その間に、俺はおいしいご飯の続きを食べちゃうのだぜ!
……あ、ご飯って詩乃梨さんのことじゃないからね?




