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11ページ目

〜前回までのあらすじ〜

本が光って名前を付けられました。



《ノルウェーの日記》。




私の体に埋め込まれていた日記。




何故埋め込まれていたのかも誰の物なのかもそもそも日記なのかもハッキリとはしないが。

私はそれを見て半ば反射的にソレを、日記の名前を告げた。




《ノルウェーの日記》。




正直意味は分からない。




そもそも私の物ではない、はず。




見たこともない。




あの何も見えないところから目覚めて暫くこの存在に一度も気づかなかった。




しかし。




不思議とその日記を見ても私は気味が悪くは感じなかった。

寧ろ自分の足りない物を見つけた、という感覚に落ち着いている。

前にもこれと似たようなことがあった気がする。




…………あぁ、そうだ。

あの生き物と、ヌシと一緒にいた時だ。

これが“安心”というものか。









『捨てるべきよ。こんな物』




《エメルナ》はそう言った。いや、頭に響かせているのだから伝わったと言うべきか。




『こんな得体の知れない物を自分の体に埋められていたのよ!?普通気持ち悪いでしょう!?むしろどうしてあなたがソレを大事そうに持っているのかが私には分からないわ!!』




と、言われる。そう言われてもな。




《エメルナ》は先程から私から少し離れたところにいる。

いや、私ではなく日記から離れているのか。

その日記を私が持っているから私から離れているのか。




ふむ。




私の体が突如光り出し、そのまま日記も光ってその光が消えてから近づこうとしない。

私にはどうして《エメルナ》がこんなにもこの日記を嫌っているのか分からない。

理解出来ない。




『それにその日記……というより本、かしら……?妙な模様がそこかしこに入っているし見れば見るほど不気味だし気持ち悪いわよ…ソレ』




《エメルナ》が言う不気味な模様というのはおそらくは文字のことであると思われる。

この日記の表面にはところどころにこの様な模様というか文字がある。そしてその中で一番目につくところに《ノルウェーの日記》とあった。




だが私にはこれ以外の文字が分からなかった。




ここが《ノルウェーの日記》であることは確かな筈なのだが、どうしてそう思ったのかは私自身も分かってはいない。

中を見てみてもやはり私が読めるところなど一つも無い。

これは私が記憶が無いからなのか、それともそもそも読めるものではないからなのか。




ちなみに《エメルナ》にも見てもらおうと思ったが激しく嫌がられた。

そんなに不気味な、恐い物だろうか?




『不気味そのものよ!そんな物早く捨ててしまいましょうよ?』




そう言う《エメルナ》の体は半分だけどこかへ行こうとしており、私には《エメルナ》の姿が半分しか見えなかった。

というか、何をしているんだ?




『さっきみたいにまた「ピカッ」って光ったりしないか警戒しているのよ!』




あぁ、なるほど。

確かにあれは驚いた。




『光る本なんて見たことも聞いたこともないし、その文字と呼べるのか模様と言えばいいのか分からないそれは見るからに気持ち悪いし、そもそもあなたの体に埋め込まれていた物なのよ!!?』




……………。

そう、言われても…。




『……!? もう埒があかないわ!!ソレは私が捨ててくるからこっちに渡しなさい!!!』




と、《エメルナ》は私のところまで来たと思えば私から日記を取ろうとした。

慌てて私は取られないよう日記を手で持って上に上げた。




《エメルナ》は私よりも小さく、頭が私の腰辺りまでしか届かないくらいの小さい生き物なので私が立ち上がるだけで日記は頭の上になり、その状態で手を挙げればもはや《エメルナ》には届かない位置になった。




「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」




かなり必死に取ろうとしているのか《エメルナ》は頭に直接響かせず声を発し、顔の色を変化させながらもその私からすれば短い腕を一生懸命に伸ばして日記を取ろうとする。

しかし、やはりというか届かない。




『………っ!?ちょ、《ノルウェー》!!それをこっちに渡しなさい!!』




《エメルナ》はそう言って次には私の体をよじ登ろうとしてきた。




《ノルウェー》。




それは私の名前だ。




名前となった、ものだ。




しかしその名前はこの日記《ノルウェーの日記》から取ったものだ。




この日記は確かに《エメルナ》が言うように不気味かもしれない。

でも私の名前の元となった物を捨てることなど出来るはずがない。




…そもそもコレが私の物だったらなおさら捨てるわけにはいかない訳だし…。




『い・い・か・ら!!渡しなさい!!!』




そうこうしているうちにいつの間にか《エメルナ》は私の体の、胸辺りまで登っていた。

手を伸ばせばその手に日記が届きそうだ。




私は《エメルナ》に日記を取られたくなかったので、その持つ手を後ろに引いた。

すると私の体も後ろに寄ってしまい。




結果。




『……きゃあ!?』




急に動いたことにより、私と《エメルナ》は床に倒れてしまった。

《エメルナ》が下に、私が上へ覆うような形に、だ。




『…ててて。もう!急に動か』




と、《エメルナ》が怒りの色を混ぜた声をこちらにぶつけた時。




「ガチャッ」




と、何かの音がした。

その方を見ると。




やはり私と似た、しかし私より少し小さい生き物が。

立ったまま固まってこちらを見ていた。








「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!??」




その生き物はやたら大きい鳴き声をこちらに向け、顔の色と形を変えながらこちらに向かってきた。

その様子はどう見ても、私を敵か何かとして見做した行動であった。




私は慌てて立ち上がり、まずその生き物から離れようとした。

しかし、ここにある木のせいで思うように動けず、私が少し動いただけで私の歩は止まってしまった。




ここは狭い。




「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」




その生き物は何かを持っており、どうやらそれで私を傷つけるようだ。

痛いのは嫌だが逃げることも叶わない。仕方ないので私は痛みを受け入れることにした。




『ちょっと待って!』




すると突然《エメルナ》が私とその生き物の間に立った。




「〜〜〜〜〜〜〜!?」


『違うわよ!この人は砂漠で倒れていた遭難者で私が助けたのよ!』


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」


『襲われたんじゃないわよ!!ちょっと口論になって取っ組み合いになった末に倒れただけよ!!』


「〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」


『だーかーら、違うってば!!話聞きなさいよ!!』




その後も《エメルナ》とその生き物が何かと互いを吠え争った。

何を言っているのかは私にはよく分からなかったが。

その生き物は《エメルナ》の“父親”というものらしい。

聞いてみたところ『“母親”の“男”ばあじょん』らしい。




ふむ。

よく分からない。








『《エメルナ》の父、《ダイナナ》だ』




そう言われた。

いや、伝えられた。




この生き物にはあの後私が砂漠とやらで倒れていたことと、私が言語が分からないこと。

頭に直接響かせることが出来ることを《エメルナ》から教えてもらったらしい。

そのため今は頭に直接音を響かせてもらっている。




というか、最初からこうしておけば良かったかもしれない。

まぁ、いいか。

それよりも。




《ダイナナ》?




待て。この生き物は《エメルナ》の“父親”というものではないのか?




『確かに俺はそこの娘、《エメルナ》の父親だ』




ふむ。




『そして名前を《ダイナナ》という』




待て。

おかしい。




『? 何がおかしいと言うのだ?』




もしそうなると私は『《エメルナ》の“父親”と呼ぶべきか《ダイナナ》と呼ぶべきなのか分からなくなる。




『………? 何を言っているんだコイツは…?』


『さっきも言ったでしょ。記憶が無いのよ。《ノルウェー》には』


『なるほど…だから先程から妙な言い回しをするのか。頭のおかしい奴だと思った』


『まぁね。あと《ノルウェー》は「声を頭に直接響かせる」って言い方してたけど、単にコレ心の声を読むということだからあまり失礼なこと思わないでね。バレバレだから』


『む…も、申し訳ない』




そう言って頭の上を見せられる。

この行動に何の意味があるのか私には分からない。故にどうすればいいのか分からない。




ふと、私の頭に何かが通り過ぎた。

それはあの森でのこと。

あの生き物と、ヌシと過ごした森での出来事。




あの森で、ヌシはやたらと私に頭を向けていた気がする。

最初は敬意やら何やらの表しだとか言っていたが私には何のことか分からないので困惑したものだ。




この生き物の今の行いはヌシと似ている。

そして一体何を表したことなのか分からないところも。




あの時、ヌシが頭をこちらに向けていた時私はどうしたんだか。




まだそれほど時間が経ったことではないはずなので思い出す。




確か…こんな風に。




そのまま私は右の手を伸ばし。

とりあえず撫でた。




そうだ、前にヌシが私に頭を向けてきた時はよくこうして頭を撫でていたのだった。

その時ヌシはさぞ気持ち良さそうにしていたが。




『………………………………』


『…プッ!クククク……』




突然《エメルナ》から奇妙な音が聞こえてきた。

どうしたと言うのだろう?




『ち、違うわよ《ノルウェー》…そ、それは……ブフッ!!』




と、また《エメルナ》から奇妙な音が。

すると《エメルナ》が殴られた。




『痛い!何すんのよ!?』


『笑い過ぎだ』


『だ、だって…クククッ……!!』




と、今度は《エメルナ》はお腹を押さえてうずくまった。

どうしたというのだ?




『………《ノルウェー》、だったな?』




ん?




『とりあえず…手を頭からどけてはもらえないだろうか』




そう言われたので私は撫でるのを止めた。ヌシは心地良さそうにしていたがどうやらこの生き物は頭を撫でられるのが嫌な生物らしい。




『いや、そういう訳ではないのだが…というかまさかこの歳で頭を撫でられるとは思いもしなかった』







頭を撫でてほしいから頭をこちらに向けたのではないのか?




『…本当に何も知らないのか。あぁ、心の声が読めるのだったな。失礼。いやなに、今の俺の行いは“謝る”という動作だ』




“謝る”?

とは?




『そうだな………例えば自分が何か間違えた時や失敗した時、傷つけてしまった時に対して相手に許しを請う行い、………と言えばいいか?』




何やら自分でもよく分かっていないような言い方だった。

だがなるほど。

“謝る”とはそういうことか。




『ならあたしを殴ったことも謝ってよー。お父さーん』


『お前は自業自得だろ』




“自業自得”?




『……《エメルナ》、あとで辞書を《ノルウェー》に渡してやれ』


『いやだから言語も文字も分からないんだってば』


『……厄介だな。記憶が無いというのは…』




そう言って頭を抱える。




ふむ。

どうやら私の知りたいことはその“言語”やら“文字”やらを知れば分かるものらしい。

ならば早速知っておかなくては。




それにしても。




『? …なんだ?』




私は何と呼べば良いのだ?




『……あぁ、そういうことか』




私は先程からこの生き物のことを『《エメルナ》の“父親”』と呼ぶべきか『《ダイナナ》』と呼ぶべきか分からないでいる。

分からないままだといつまで経っても私は呼ぶことが出来ない。




《エメルナ》は《エメルナ》として分かってはいるがこの生き物には呼び方が二つもある。

いや、さっき《エメルナ》が『おとうさん』と言っていた。ならば三つか。




『……そうだな。ひとまずは俺のことは《ダイナナ》、もしくは短く《ダイ》でもいい』




そうか。




…………。




また一つ増えたな。








どうやらモノの呼び方には幾つかあるものらしい。

そのものに対して呼び方は一つ、という訳ではなく、それに対しての認識やら何やらで呼び方は変わっていくという。




《ダイナナ》が《エメルナ》のことを“娘”と呼ぶのはその通り《ダイナナ》にとって娘であるからで、同様に《エメルナ》の父親が《ダイナナ》なので《エメルナ》は《ダイナナ》を“お父さん”と呼ぶ、らしい。




どうしてそんなややこしいことをするのだと思ったが、思えば私もあの森にいたあの生き物とその子どもを識別し易くするために子どもの方をヌシと呼んでいた。

それと同じことなのであろう。




ちなみに私は《ノルウェー》と呼ばれることになったが、《ダイナナ》からは“大男”と呼ばれる。

意味はそのまま、大きい男、ということだ。




…私が大きいのではなく、二人が小さいと思うのだが…。




『何言ってんだ大男。お前のその背の高さは並の男の身長じゃ無えよ』


『そうね。この町の一・二を争うお父さんが《ノルウェー》の肩辺りだもの。大体二メルルか五十セントルあるんじゃない?』




と、二人は言う。

そうか、私が大きいのか。




『そういやお前が大男を砂漠から助けたって言ってたけど、どうやってここまで運んだんだ?』


『もちろん、引きずって』


『………お前』




《ダイナナ》が何やら微妙な顔をした。




『しょうがないじゃない。砂漠からここまでかなり距離あったから応援を呼びに行くことも出来なかったし、一人しかいなかったんだから』


『それでもお前な…』


『もちろん間に布に包んだ板を挟んで最小限出来ることはしたわよ?』


『分かった…。もう、何も言わん』




そう言って《ダイナナ》は私の方へ向いた。




『さて大男よ。ここからが本題なのだが…』




《ダイナナ》の顔にやたら何か威圧のようなものを感じた、気がした。

私も黙って聞く。




『まずお前のこれからだが…俺ん家に泊まることを許す』


『いいの?』


『《エメルナ》、お前が自ら関わった運命なんだ。最後までその責任を取りなさい』


『分かったわ」




《エメルナ》が頷く。




『それで家に泊まる際だが……正直この家の家計は赤の他人を匿えるほどの余裕は無い』




そこまで言うと《エメルナ》が突然立ち上がった。何やら怒っている様子だ。

だが《ダイナナ》が右手の平を向け、《エメルナ》を再び座らせた。

なんだアレは?あとで教えてもらおう。




『かと言って例え見ず知らずと言えどもさすがに記憶の無い奴を追い出すなんて非情なことをする気はない。必要最低限のことはしてやるつもりだ』




と、《ダイナナ》がまた話し始めたので黙って聞く。




『ただ、そのために大男、お前には俺の仕事を手伝ってもらうことを条件にする。いいか?』




言ってることのほとんどがよく分からなかったが、とりあえず私は頷いた。




『よし、ひとまず今はそれだけでいい』




そう言うと《ダイナナ》は立ち上がった。




『今から大男、お前を“町長”のところに連れていく』




“町長”?




『この町で一番偉い方だ』




ふむ、森でのヌシのようなものか。




『《エメルナ》お前もついて来い。支度をしろ』


『…はい』




そう言って《エメルナ》はどこかへ言ってしまった。

すると、《エメルナ》がいなくなってから、《ダイナナ》が私に近づいてきた。




『それと大男。もう一つお前に言っておきたいことがある』




そう言って《ダイナナ》は手を「ヒョイッ、ヒョイッ」と上下に動かした。




『おい頭を貸せよ』




頭を“貸す”?




『あー…俺の顔まで近づいてくれ』




あぁ、そういうことか。

いやどういうことだ?




『そうか、お前には心が読めるから別に耳打ちしなくてもいいのか』







『なんでも無い。で、だ』




と、突然《ダイナナ》は私のお腹辺りに拳を当ててきた。

痛くはないが何か嫌だ。




『《ノルウェー》…お前に限ってそういうことはないと思うが…』




《ダイナナ》の顔が恐い。




『《エメルナ》に…俺の娘に手ぇ出したら…分かってるよな?』




………。




………………。




…………………………。




分からない。




『………本当に、記憶が無いってのは厄介なものだな…』




そう言って《ダイナナ》の拳が私のお腹から離れるのと。

《エメルナ》が戻ってきたのはほぼ同時であった。


1メルル≒1メートル

1セントル≒1センチ

2メルルか50セントル≒2メートル50センチ

大体ノルウェーの身長はリンゴ20個分です。


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