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ふとすれば私は見知らぬところにいた。
ここがどこかを確認しようとするも、身体中が痛い。どうやら怪我をしているようだ。
指一つ、腕一本を少し動かしただけでかなりの激痛が走り、私は半ば気絶するように眠りに入った。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
再び気がつくと先刻の身体中の痛みは消えていた。
しかし、ここがどこかは分からずじまいであった。
右を見ても左を見ても何もわからない。否、何も見えなかった。
「チョンッ。ピチョーン」という音が聞こえたのでその元まで向かうことにした。
だが何も見えないことに加え、体が重く、なかなか思うように動けない。
次第に私はその音の正体を探るのを諦めた。というのも、その音が消えたのだ。
消えてしまったらもはや探すことなど出来るはずもない。
目的を失い、動かずにいると次はどこからか「ヒョーッ。ヒューッ」という音が聞こえた。
私は次こそはこの音の正体を知るために必死にその音のする方へ向かった。
どれくらい経ったのか。
あの音はまだ聞こえる。
むしろ先ほどよりも大きく聞こえるような気がした。
私は一心不乱にその音を追い求めていると、しばらくすると今まで見えていたものとは明らかに違うものを見つけた。
否、今までは見えなかったから見えるものを見つけた、という表現が適切であろうか。
それに形は無く、見ようと思うと少し痛みがする。
それでも私はその正体を知りたく、その元へ向かった。
そこに着いた瞬間、私はおそらく自分の上部分のである中頃を自分の何かで抑えていた。
そこに何かが染み渡るような痛みが走り、私を苦しめていた。
しかし、その他の箇所はむしろ心地良いとさえ思うほどの気持ち良さがあった。
しばらくすると痛みが消え、私はその正体を知ることができた。
何も無かった。否、正確には何かあった。
私は屈み、それに触るとそれは無数の粒であり、下に落ちる。
ふと、私は気付いた。
一体私が今動かしたものは何なのか?
それは私に二つ付いており、形の違うものもまた、二つあった。
どうやら私の意思に従って動くようだが、一体これは何なのだろうか?
私がそれを“手足”だと認識し、またその手で掴んだものを“砂”だと理解するのは、それよりずっと後のことである。
身体が重い。
もうかれこれどれくらい経ったのだろうか。
上にある直視出来ない“ナニカ”がある時はいつだってこの調子だ。
私の体から生えている四つのうち下の二つで移動するもどこまで行っても何もない。
時折聞こえる「ヒョー」や「ヒュー」といった音がする方へ向かうもすぐにその音は消えてしまい、途方に暮れていた。
しかも動いている間は私の体の表面に何かが浮かんでいる。
これが気持ち悪くてどうにかしたいのだが、止める方法が分からない。
それはやがて私の体から離れ落ち、下の大量の細かい粒に沈んでいく。
しかしどれだけ私の体から落ちても次から次へと表面に浮かんでくる。
言いようのない痛みが私の上部分から伝わり、全身に伝っていく。
上にあるアレが無くなると少しはマシになるのだが、その代わり辺り一面何も見えなくなる。
そうなってはどうしようもないからその場でうずくまるしかないのだ。
一体私は何故ここにいるのか。どうすればいいのか。
ただただそのことを思い起こしても何も分からなかった。
少ししたらまた見えるようになった。
しかし再び正体不明の苦しみを味わうことになる。
しかも、だ。次は私の体の内側が張り付くような感じがする。
とても苦しい。どうすればいいのか分からず、無我夢中で早く移動をする。
だが、どれだけ移動しても何も無い。何も無いのだ。
私はどこまで行ってもどこにもたどり着くことはない。
もはや私には力など無かった。
私の体から生えているモノも全く動こうとしない。
「ビュォオオオ」という音が聞こえたが、すでにそんなものへの興味など無い。
私はこのまま、消えていくのだろうか。
あの音のよう…に。
再び何も見えなくなった。
だがこれは私の知っているところではない。
ここには何も無い。本当に何も無い。
あるのはただ、私だけである。
そこに浮かぶような感覚を生じさせている時。
瞬間私の体を突き抜けるような爽快さが広がった。
なんだ…?
再び力が戻った。先ほどはあれだけ動かそうとしても動かなかったのに。
いや、それよりもさっきのあの感覚だ。
まるで私の体に力を注いでくれたようなあの感覚はどこから来たのだ?
私は辺りを確認する。
しかし何も見えない。だが感じる。
それほど遠くはない。
気づけば私は移動していた。
先ほど感じた、あの感覚を求めて。
相変わらず苦しさはあったが、そんなもの気にも留めなかった。
知りたい。これがなんなのか知りたい。
ただそれだけを想って。
どれだけの時間が過ぎ去ったのだろうか。
あれから大分移動したが、未だに何も見えない。
だが、先ほどよりもより強く感じる。力が戻ってくる感覚だ。
これは何なのだ?もしや、これが私が求めていたものなのだろうか?
知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい。
知りたい。
それだけが私の中を駆け巡っていた。
そして。
私はついにたどり着いた。