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手向けられた花

作者: 阪木真義

SS調な書き方なのをお許しくだされ。

「ねぇ」


「なに?」


「どうして君は、いつも僕のところへ来てくれるの?」


「あなたが来てくれないからよ」


「僕が行けないこと知ってて言ってる?」


「もちろん」


「そっか。厳しいんだね」


「私はいつでも優しい、筈よ?」


「じゃあ、また僕にだけ、厳しい君を見せてくれる訳だ」


「またなの?」


「うん。まただ」


「そっか」






「もう1つ質問」


「なに?」


「やっぱり君は、何も覚えていないの?」


「ええ、全然覚えていない」


「自分の名前も?」


「うん」


「僕の名前も?」


「全く」


「顔も?」


「全然」


「声も?」


「わからない」


「事故のことも?」


「覚えてないわね」


「僕と君が恋仲だったことも?」


「……思い出せない」


「ちょっと嬉しいような、悲しいような、反応だね」


「嬉しいの? 思い出せないのに」


「それでも君は此処に来てくれる。それは嬉しいことだよ、とても」


「変な人だったのね」


「はは、よく言われたよ」






「また来てくれる?」


「ここにいても退屈だから、来ないかも」


「やっぱ厳しいや。でも君は、そうでなくちゃ」


「でも、私より私のことを知っているのは……貴方ぐらいだから」


「花も、また持ってきてくれる?」


「あなのことで覚えている記憶が、このすみれぐらいだから」


「僕のこと覚えていないのに、僕があげた物は覚えているんだね」


「この花の花言葉は?」


「次に来た時に教えるよ。なんか、恥ずかしいし」


「楽しみにしてるわ」


「ご期待に添えれば幸いです」


「それじゃ、また」


「うん。また」



………………

…………

……



私が事故に遭って3ヶ月。

車の事故だったらしい。

助手席にいた私は、事故のショックで記憶がなくなるだけで済んだけど、運転していたあの人はそのまま帰ってこなかった。

事故を見ていた人によると、私が記憶喪失だけで済んだのは、彼が必死に私を車の外へ押し出してくれたから……らしい。

車の爆発に巻き込まれた彼は、体の損傷が激しく身元確認さえできなかった。身内もいないとのこと。


私の、最愛の人だったかもしれない彼の遺体は、ボロボロの体のまま火葬され、とても簡略的な葬式をして、墓に埋められた。

その墓には何も刻まれていない。


そして私は、

毎日と言っていいほどに、何もかも思い出せない彼の墓へ行き、

大量と言っていいほどの、菫を手向け、

毎日と言っていいほど、

墓の前で、穏やかな声の誰かと喋っている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後のどんでん返しが凄かったです。
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