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──ってあれ? 俺の身体って……あるんだろうか。
──怖い事を考えそうになって、思わず泣きたくなってしまった。
思う事は色々あるけど、それは横においておくことにした。
とりあえず今はリヴィーとして過ごすしかないんだから。
「リヴィー?」
声がかけられて、アイリーンが俺を心配そうに見ていた。
「ああ、何でもないんだ……アイリーン」
軽く手を振って、笑いかけると、嬉しそうにアイリーンが笑った。
ああ、こんな顔で笑うことも出来るんだな……笑うと可愛いじゃないか。
「あの、リヴィエール様……私に何か出来る事があれば……」
「ああ、その時には頼むよ、リナリー。
少し疲れたみたいだから、一人にしてくれる……かな」
「そうね、まだ本調子じゃないみたいだし……大丈夫?」
心配そうに言うアイリーンに頷いて軽く背を押して部屋の外へと促す。
「リナリー、君もありがとう」
次いで、リナリーにも言うと、ドアを開けたままにして退出を促す。
二人共が出ていって、一人になると大きく溜息をつく。
とりあえずリヴィーというのは【俺】と自分の事を言っても不思議に思われない少女らしい。
それはちょっと助かるかな。
「はぁ……それにしても、リヴィーがどんな子なのか全然分からないままだな……」
ミルカ先生にはリヴィーとアイリーンの関係を聞きそびれたし。
「日記でも付けてくれてたらいいのにな」
ああ、でもここの文字を俺は読めるんだろうか?
言葉は通じてるのは助かるが、文字まで通じるのかまでは分からない。
「本でもあれば……」
部屋を見渡すが、本箱というものがこの部屋にはなかった。
少し考えた末に、アラバスターの小箱、この部屋のリヴィーの唯一の私物に手を伸ばす。
「リヴィーごめん」
少しでも何かの手がかりがないかと、小箱の蓋を開ける。
アラバスターの小箱には、ブローチが一つ、たった一つだけ存在していた。
「他には? 他には何かないのか?」
小さな小箱を持ち上げて、よく見るが、ブローチ以外何も入っていなかった。
「……何だかなぁ」
手がかりにもならないとばかりに、蓋を締めると元の位置に戻す。