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「リヴィー……」
低く押し潰したような声がして、その声の主はアイリーンだった。
「え、何?」
「何で、何でっ、私にはちっとも笑いかけてくれないくせにっ」
ええっ、それは──考えても分からないな。
だって、多分、俺とこの身体は違うヒトだから。
俺はリヴィーの身体にいるけど、俺はリヴィーじゃないから。
それは、絶対、確実に、違うから。
「あー…そう、なのか?」
そう言って、アイリーンを見て苦笑する。
「それはその、すまなかった」
とりあえず笑いかけてみる。
この身体はあまり笑わないみたいだけど、俺は、元々の俺は違うようで、容易に笑みを浮かべることが出来た。
「──っ、ま、まぁ……今は頭を打って混乱してるようですし、構いませんわ」
なんとかなった、と視線をめがねっこ、もといリナリーに戻す。
目にハートマークがあるような、そんな顔で俺を見てるリナリー。
とりあえず整理してみよう。
俺は、よくわからないけど、俺だ。
俺の身体はリヴィエールという女の子。
目の前のめがねっこはノーコン魔法弾のリナリー。
で、こっちの俺をリヴィーと呼ぶのがアイリーン。
アイリーンとリヴィーは同じ歳でリナリーが下級生。
リヴィーは一人部屋に荷物をひとつしか持ってない。
──と、そのくらいだろうか。
ああ、あとひとつ。
ミルカ先生はかなりの巨乳で優しい女性だ。
リヴィーに関してはその程度。
俺は──多分男、リヴイーではない。
多分、この世界の人間でもない。
俺の記憶は赤い月と赤い空だけ、だった。
それと、死ぬのかな──って思っていたこと、だけ。
あとは、そう何も分からない。
しばらくはリヴィーとして、ここで過ごすしかないのだろう。
ところで、本物の、リヴィーはどこにいるんだろう。
消えてしまったのか、眠っているのか──いつか俺が俺を取り戻して、リヴィーに身体を返す時には見つかっているといいな、なんてご都合主義な事を考える。