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「謝って済むのかしらねぇ、リナリー・へっぽこ・スタインさん?」
どうやらこの眼鏡っ子はリナリーという名前らしい。
この子を見てると、何かを思い出しそうな気がして、つい近づいて頭を撫でてしまう。
「リッ、リヴィエールさまっ?」
「あ、ごめん、つい」
この手は俺が、なのかリヴィエール、もうめんどくさいなリヴィでいいか、が動かしたんだろうか。
でも、こうして撫でていると、こう──脳裏に浮かぶ誰かの声が──。
「何でよっ、リヴィー!
その子がリヴィーをこんな目に合わせたのよ?」
あ。 アイリーンが怒っている。
緑色の瞳が燃えるような色で、それはとても綺麗で──。
「ああ、アイリーン、もういいじゃないか。
俺はこの通りなんともないし、こんなに謝ってるんだ、許してやろうじゃないか」
少なくとも、外見上はコブとかもないし。
「もうっ、リヴィーは下級生には甘いんですから」
ああ、下級生なのか、ということは俺とアイリーンはリナリーより上級生なんだな。
「下級生の失敗を快く許してやるのも上級生の役目だろ?」
「あっ、ありがとうございます、リヴィエール様っ」
む、様付けって何でなんだ?
着ている物も質素な綿の素材だし、持ち込んでると思える物は小物入れひとつだけ、裕福な貴族であるとは思えない。
それがなんで【様】?
「本当にすみませんでした。
私に何かできることがあれば何でも言ってくださいっ」
また頭を下げながらリナリーが言った。
「ああ、ありがとう。
何かあったらお願いするよ」
そう言って少し口の端を上げてみる。
「きゃーっ」
きゃあ?
いや、俺は──笑顔を見せたつもりだったんだが、なんできゃあなんだ?
「ああ……もう私、今日のこの日を忘れませんっ」
え?
えええっ?
えーと、何だろう、こういう反応って見た事あるぞ。
歌手か何かの前でファンがよくやって──歌手? 歌手って、ファンって何だ?
頭に浮かんだ言葉は、あまり馴染みが無いものの、どこかで聞いたことがあるといった感じがして。