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「わぁん、リヴィー、よかったぁ!
心配したんだよー?」
「く……苦し……」
「あ、ごめんっ」
誰かに押し潰されて、息が出来なくて苦しかった。
離れてもらうと、何だか甘いいい匂いがして、それが頬に触れる髪からして、薄目を開けると、緑色のくりっとした大きな目が俺を見つめていた。
「えっと──お前、誰?」
「リヴィー?
まさか、さっきので頭を打って……?
あのへっぽこ魔術師めっ、絶対許さないわっ!
リヴィーが、私のリヴィーが私を忘れただなんて!」
ちょっと待て、今【私の】って言わなかったか?
多分この【リヴィー】てのは俺の、いやこの身体の名前なんだろうなぁ。
──ということは、だ。
俺のこの身体の美少女、本来の【リヴィー】はどこに行ってしまったんだ?
俺は、多分違うよな……俺は──俺の名前は──だし。
あれ? 俺の──名前?
……思い出せない。
思い出せるのは赤い月と赤い空。
そして──死ぬのかなって思った記憶だけだった。
「リヴィー、可哀相に……あんなヘッポコ魔術師のせいで……」
意識を戻すと、俺をぎゅっと抱き締めてくる少女の身体を、首根っこを掴んで引き剥がしていた。
いや、待て俺! 首根っこ掴んでって、酷すぎないか?
俺の意識はそう思うものの、身体は勝手に動いていたようで、引き剥がした少女をぽいっと床に投げ捨てていた。
「もうっ、リヴィーったら相変わらず照れ屋さんなんだからー」
ひょっとしたら、さっきの【私のリヴィー】ってのは間違っているんじゃないだろうか?
「……えーと、そうだ! さっき水を持って来てくれるって言ってた人は?」
さっきの声とこの少女の声は明らかに違っていた、彼女なら今の状況とか説明してくれるんじゃないかと一縷の希望を託してみる。
「ミルカ先生のこと? それなら──」
ドアが開いて、金髪の女性が入って来て、少女の言葉が途切れた。
「リヴィエールさん、起きられるようになったのね、お水よ」
コップを差し出してくれるのを受け取ると、ガラスに水滴が浮かんでいて、冷たい水が入っているのが分かった。
そういえば、喉がカラカラだ。