3
「えっ、アイリ──」
ちゅって音じゃなくて、濡れた舌の感触が、口の端にあった。
「なっ、何すんだよっ」
今俺の顔は真っ赤だろうか、いや多分真っ赤になっているだろう。
「ついてたアイスを取っただけですわ」
ふふっと綺麗に笑ってアイリーンが応える。
今の俺──というかリヴィーの赤くなった顔と対照的でいつもの通り白い肌で綺麗に微笑むアイリーン。
「普段のリヴィーにもしてた、のか?」
「あら、そんな事したら今頃私はあの辺りまで投げ飛ばされてたわね」
そう言って、俺の持っていたバニラアイスに顔を近づけて舌で舐め取るアイリーン。
そんな仕草ですら、様になっているというか、可愛い──いや、綺麗だった。
「リヴィーの顔が赤くなるなんて、私初めて見ましたわ」
バニラの香りが近づいた、と思ったら、今度は頬にちゅっとキスされていた。
「ア、アイリーン……」
「それじゃあ次は──南の果物のジュースでもいかが?」
「あ、うん」
いったいアイリーンは何を考えてるんだ?
それでも、前夜祭の学院内は楽しくて、あちこち珍しげに覗いては面白い物や美味しい物がたくさんあった。
「ああ──楽しかったぁ」
色々食べて、ゲームみたいなものとかして、本当に楽しかった。
「前夜祭にしか来ない店がいくつかあるの、そこのはリヴに絶対食べて欲しかったの」
微笑んだアイリーンの頬が少し赤いような気がするのは夕陽のせいだろうか。
「うん、今日はありがとう、アイリーン」
きっと、夕陽のオレンジに照らされて俺の顔も染まっているに違いない。
けど、本当に楽しかった。
リーズの居ないのがちょっと残念ではあったけど。
「リヴ、明日はがんばってね。
絶対に勝ってね」
「ああ、がんばるよ。
でないとこの一週間特訓してくれた君らに申し訳ないしな」
「リヴ」
明日はがんばろう、そして出来れば優勝とかしたい、と考えながらアイリーンに言うと、視界が急に暗くなって──。
柔らかい感触が唇に触れた。
「お守り……ですわ」
近いままのアイリーンの顔が暗くてよく見えない。
呆然と、今何を──と思っていると、アイリーンが離れて走っていく後ろ姿だけがあった。
「……アイ……リーン……」
お守りって言われたけど、俺のファーストキス(多分)をアイリーンに奪われてしまった。
「いや、待て俺っ」
これは俺とリヴィーとどっちにしたキスだったんだ?
冷え始めた風が取り巻くのに、もう夜が来るんだと分かったが、しばらくその場から動けなかった。




