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アイリーンとリーズにリヴィーが簡単に負けるのは許さないとばかりに特訓だと、朝練に昼練に夕練と、毎日くたくたになるまで身体を動かしていた日々も漸く終り、騎士戦の前夜祭だからと特訓が休みになった。
「で、前夜祭って何?」
食堂で食後の紅茶を飲みながら目の前に座るアイリーンに訊ねる。
「そうですわね、一種のお祭だと思えばよろしいのですわ。
後で一緒に回ってみますか?」
いや、だからそれでは説明になってないんですが──アイリーンさん。
「お祭の一種って、もっと細かく頼む」
やれやれと言った顔で持っていたティーカップを机に置いて、俺の顔をじっと見つめる。
「お菓子の出店とか、武器の出店とかありますわね。
街から業者や店が出張してますの。
生徒有志での店もいくつかありますわ、そうね──魔術師のちょっとした小物や何かもありますわ、人気のあるのが通称【ホレ薬】の砂糖菓子とかね」
「ちょっと待てよ、ホレ薬ってヤバくないのか?」
くすくすとティーカップを持ち上げてアイリーンが笑う。
「所詮は学生の作ったものですからね、効果も短時間だし、効力も好感度をちょっと上げる程度の物ですわ」
ああ、恋のお守りみたいなもんかな、と納得してこくこくと頷く。
「それに、もどかしい関係にちょっと後押し──みたいな?」
くすりと笑んだままで、俺を見るその目がちょっと怪しい光を帯びる。
「もどかしいって何だよそれ」
「手を繋ぐくらいの関係からキスにとか?」
綺麗な緑の瞳が近づいて来て、その瞳に見惚れていると、目の前僅かな場所にアイリーンの顔があった。
「ね、リヴィーにそれを使ってみても構わなくて?」
目の前で綺麗に微笑んで軽くウインクされて、心臓がドキンと跳ねた。
「えっ、えええええっ?」
驚く俺を面白そうに目を細めて見つめるアイリーン、どう返せばいいのかと考えていると、耳に軽いリップノイズが聞こえて頬にキスされてしまった。
「いや、アイリーン、身体はリヴィーのだけど──ちょ、アイリーン?」
そう、身体だけがリヴィーのものだと知ってるはずのアイリーンが、頬に軽くだけどキス?
何で、何で俺に?
「私、リヴィーはもちろんですけど、リヴの事も嫌いじゃありませんのよ?」
くすくすと面白そうに言いながら椅子に座りなおすアイリーン。
俺だけか、俺だけがドッキドキなのかよっ。
からかわれてる気分で、はぁーっと長い息を吐く。
「リヴは私が好きではありませんの?」
「いや、そんな事は──」
無い、と言いそうになって、なら好きなのかと問われると困る。
まで知り合って一週間かそこらで、特訓に夢中でそんな事考えた事もなかった。
「ふふっ、いいですわ。
とりあえずお茶を飲み終わったら、あちこち見て回りましょうね。
ちょうどリーズは忙しくて姿を見せませんから、二人っきりで」
二人っきりで、と言われてちょっとドキドキしつつ、紅茶の残りを飲み干したが──味はちっともしなかった。




