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そう──いえば、トイレに入った記憶もない。
「何なら着替えも手伝いますわよ?」
「えぇっ?」
「あなた騎士の鎧なんて着たことないみたいだしね」
「あ──ああ、鎧なんて着たことはない、な……多分」
「来週、試合がありますのよ、リヴィーが欠席とか成績下がるなんて真似はさせませんから、覚悟なさってね?」
「し、試合?」
「そうー、学院全部で試合して成績優秀者にはご褒美!
リヴィーはいつも五位以内には入ってるから、がんばってねーリヴ」
「い、いきなりそんな事を言われても……」
考え事をしている間に学院行事の話になっていたらしく、俺はリヴィーがしていたように五位以内に入れ──とそういうことになってしまっていた。
「じゃあ、今日の午後から訓練しなきゃねっ」
「ええ、リヴィーの名を汚すような真似は許しませんから」
アイリーンとリーズがにっこり笑って俺を見つめる、その目が笑っていないのに本気だと分かる。
「リヴィーの鎧は軽いし、胸当てと篭手くらいだから付け方は簡単ですわ」
「大丈夫よぉ、その制服の上から付けるだけだから、そんなに重くないしねっ」
気のせいか、リーズが楽しそうに笑っている。
「訓練はアイリーンに任せるから、訓練後のマッサージは任せてねっ」
ああ──そうですか、マッサージ……。
「えええ──っ?」
「訓練後のシャワーを浴びて桃色に染まったリヴィーの足を優しく揉み解して上げるわねっ」
わぁ、すごく楽しそうな顔してる。
「ずるいですわって言いたいところですけど、リーズのマッサージは確かにいい腕ですから、我慢しますわ」
ちょっと拗ねたような顔のアイリーンが言うと、リーズがえへんって胸を張って腕を腰に当てていた。
拗ねたアイリーンの顔が、何か──可愛い。
選ぶってるリーズの胸が揺れたのが目に入ってしまって、目のやり場に困る。
困ったことに、一日中こんな綺麗で可愛い女の子たちと一緒に過ごすって、ある意味嬉しいけど、やっぱり困る気がする。
「あ──」
「どうしましたの、リヴ」
「いや──何でも、ない」
心の中で、何か嬉しいとか楽しいとか、そんな気持ちが湧いたような気がして、それは一体どれになのかと考える。
騎士戦なのか、彼女たちなのか、これからの生活に対してなのか。
「改めて、よろしく。
アイリーン、リーズ」
二人に頭を下げて、顔を上げて笑いかける。
「ああ、もう……リヴィーの顔でそんな顔しないでよ」
「いやー、ほんと。
リヴィーがそんな顔で笑うとなんかなかもんねぇ」
二人に言われて、リヴィーらしい顔っていうのはどんな顔で、らしくないのはどんな顔なのかを考えてしまう。
「えと、そんなに違う──のかな?」
「そりゃあもう、まるっきり。
今のリヴィーとは別人ですわ、まあ文字通り別人なんですけどね」
あははは、と笑って返すものの、リヴィーとして生活出来るのかちょっと不安になった。
とりあえずは、二人に手伝ってもらいながら、リヴィーとして過ごすことになった。
うまく、いきますように。




