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その上で、見捨てられたらもうどうしようもない。
「……リヴィーじゃないけど、その身体はリヴィーのだしね、私──貴方の手助けをすることにするわ」
「アイリーン……」
「わ、私もっ」
少し遅れてリーズも口を開いた。
「リーズ……。
二人共ありがとう……助かるよ」
「貴方の為じゃないわ、リヴィーの為なんだから、そこの所は誤解しないように!」
うん、それでも助かるのは助かる。
「それで、貴方の名前は?」
アイリーンが言い、リーズも気になるとばかりに頷いている。
「それが、名前も思い出せないんだ」
「えっ、じゃあ……本当に何も覚えてないの?」
リーズが驚いたように口に出し、アイリーンが困ったなという顔をしている。
「困ったわね、それじゃあ貴方を呼ぶ時はどうしましょう。
まさかリヴィーって呼ぶのもねぇ……」
アイリーンが頬に手を当てて溜息をつく。
「リヴは?
うっかり人前で呼んでもそれならリヴィーのいい間違いって言えるし」
ああ、それはいいかも。
リーズがうきうきしてそうな感じで言った。
「そう、ね。人に聞かれてもそれなら平気だろうし、リヴでよろしくて?」
「ああ、じゃあそれで頼むよ」
リヴか、り……ぐ? 何となく音に聞き覚えがあるような気がしたが、それ以上は思い浮かばなかった。
「リヴ、では人前では貴方をリヴィーとして接しますので、よろしくお願いしますわね」
「よろしくねっ、リヴ」
よかった、二人に打ち明けて本当に良かった。
ほっとしたら力が抜けて足がへなへなと崩れてしまった。
「ではリヴ、しばらくは気を失っていたせいでという言い訳も使えますけど、とりあえずここでの生活に差支えがないように説明をしますわ」
「はいっ、お願いします」
思わず床に座って、二人を見上げる。
少しばかり床の石畳が固いが、感謝の気持ちにと、頭を下げる。
「えーと、じゃあ学校の事はクラスが一緒だから私が説明するね」
「私は、主に寮の事を、それでひとまずはよろしいでしょう」
リーズが学校の事、アイリーンが寮の事をか。
「あのね、リヴ、この学校は普通の学校じゃなくて良家の子女とか貴族出身とか、あ、あと奨学金で来てる人が、剣の使い方とか、騎士団に従事する為の訓練──うん、騎士の訓練校なの」
「騎──士?」
聞き覚えがあまりない騎士という言葉に、俺の世界では騎士はいなかったんだろうと思えた。
それでもあまりないだけで、騎士という言葉がすんなり入るのは、何かで知ってたんだろうと思う。
「そう、騎士の訓練校なの、このアークランド学院は。
リヴィーは優等生で、学年で五位に入る剣の使い手でね、ファンクラブとかあるの」
「ファン……クラブ……」
ああ、それで食堂でも注目を浴びていたのか……と漸く納得する。
「まぁ、リヴィーの人気は剣だけじゃないんだけどね」
くすくす笑いながらリーズが片目を瞑る。