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「ごめん、嘘じゃないんだ」
「じゃあ……、じゃあ貴方誰なの?」
アイリーンが俺に詰め寄りながら聞いてくる。
リーズは呆然とした表情で固まっている。
「俺は──記憶がなくて、誰だか俺にも分からない。
けど、リヴィエールじゃないのは確かだ。
──多分、俺は一度死んだ──と思う」
覚えているのは赤い月と赤い空、それを見上げるでなく見ていた。
「死んだ──って」
リーズが漸く口を開いた。
「ああ、多分、な。
それに、俺の居た世界でもない──と思う。
俺の世界に、リヴィエールのような髪と瞳の者はいなかった、と記憶がなくてもそう感じるのは確かだ」
「えっと……リヴィーの中の貴方はひょっとして──男……なの?」
おそるおそるリーズが聞いてくる。
「──多分」
リヴィーの胸に初めて触った時の感動は、俺が男だという証拠だろうと思う。
「……アイリーン、どうする?」
「リーズ、どうします?」
俺から少し離れて二人がこそこそと内緒話を始める。
ああ、そりゃあそうだよな。
友人が(そうじゃないのかも知れないけど)いきなり中身が別人で、しかも男だって知ってショックを受けないはずがない。
けど、ここでこの二人に離れられると、俺としてはちょっと困るわけで──。
だからこそ、打ち明けたんだけど、本当に離れられたらどうしよう……不安だ。
そんな不安を胸に二人の内緒話が終るのを待っていると、アイリーンが振り向いた。
ああ、やっぱり日の光の下でだと、緑色の瞳の色は宝石みたいにキラキラしてて綺麗だ。
気の強そうな緑の瞳が俺を見ている。
やがて、一度目を瞑ってから溜息をついて、軽く肩を竦めた。
「リヴィー、いえ、貴方の言う事が真実として、本当のリヴィーはどこにいるのかしら」
「分からない、それは俺も知りたい」
「これから──どうするの?」
「とりあえずはリヴィエールの振りをするしかないって思ってたんだけど、君らはどうしたらいいと思う?
この身体はリヴィエールのものなんだし、その内に精神も戻って来るんじゃないかって思うと、このままリヴィエールとして過ごすのがいいのか、それともどこかに行った方がいいのか、正直この世界の事も分からないし、途方に暮れてる」