後悔が押し寄せてきて
あの日のことを覚えている。
『ふざけないで!!私が、四代目を継ぐ!四代目は、この私です!』
お嬢は、生まれて始めてと言うぐらいの大声で叫んだ。
覚えてる。
その日は、綺麗な満月だったということを…。
話す相手に必ず笑顔で話すお嬢。
そのお嬢が最近、元気がない。
いや、笑顔が見られないと言ったほうがいいのかもしれない。
俺の部下と話していても、三代目と話しても、恋人である川原さんと話していても、お嬢に笑顔が見られない。
笑顔がとても素敵な方なだけに、笑顔が見られないのは右腕としてとても辛い。
「お嬢?」
「……え?ヒ、ヒロ?」
今もそうだ。
俺が話しかけても、お嬢は笑顔を見せてくれない。
前のお嬢は笑顔を見せてくれたのに…。
――― 笑顔をみたい。
そう思うのは、いけないことだろうか?
「大丈夫ですか? 顔色が悪いですけど…」
「…?大丈夫…だよ?」
「本当ですか?」
「本当だよ。ヒロってば、心配し過ぎ」
ニコッと、笑顔を見せてくれたお嬢。
その笑顔は、俺が見たいと願った笑顔と少し違っていて…悲しくなる。
「ヒロ?」
「俺のせい…ですよね…?」
お嬢から笑顔が見られなくなった理由、それは俺のせいだ。
俺が…。
「俺が自分勝手な行動をしたせいで、三代目が撃たれて…!お嬢が…、」
「…ヒロ」
「お嬢、幼稚園の先生になりたがっていたのに…俺のせいで…!!」
「ヒロ…」
「俺のせいで!お嬢が、組を継がないといけなくなったんだ!」
「ヒロ!!」
お嬢に大声で名前を呼ばれて、お嬢を見つめれば静かに言った。
「いいよ…気にしないで、こうなる運命だったんだから…」
さぁ、この話はおしまいにしてお菓子食べよう。
とお嬢はリビングへと向かった。
「お嬢…」
俺は、リビングへ行ったお嬢の後をついて行けなかった。
『ヒロ、俺はな…。夏帆には、組を継いでもらいたくなかったんだ』
お嬢の恋人である川原さんが淋しそうに呟いたのは『あの日』から一週間後。
お嬢が組を継ぐという話は、すぐに原口組にぞくする組員達や原口組と同盟を結んでいるヤクザ達の耳に入り、お嬢や三代目(お嬢の祖父)、世話係である俺におめでとう、などたくさん祝辞を聞くようになった。
三代目は、とても喜んでおられたが、俺は喜べなかった。
「……お嬢」
昔の自分だったら、喜んで祝辞を受け取ってたと思う。
なんたって、お嬢の右腕になるのが夢だったのだから。
でも……、今の自分は祝辞を聞くたびに罪悪感が増す一方だった。
「……あの時、ちゃんと……」
あの時ちゃんと…、ちゃんとしていればこんなにも、悩むこともなかったのに……。