第96話 ☆いたずら心
リリン王国国立魔法騎士学校。
「広いなぁ」
「それが自慢だからね」
ボクの呟きにそう返してくれた騎士様。
大きな校舎。
大きな体育館。
大きな武道館
大きな校庭。
大きな演習場
リョクリュウ伯爵領のシゲ爺の館ほどではないが、立派な武術館が一番の目玉だと思う。
ボクは今日からここの生徒になるんだ。
1カ月の旅の末、リリン王国の王都にたどり着いた。
馬車に揺られっぱなしだったからおしりが痛い。
当然ながら、ボク以外の6歳~9歳の少年たちが思い思いに馬車でくつろいでいた。
1カ月の旅だからか、ボクが馬車に乗った時にはすでに2週間も馬車に乗っていた子もいたので、すでにホームシックを起こして夜に寂しそうに泣いていた子もいた。
獣人族は魔力値が人族に比べて低いらしく、ボク以外の獣人族は居ないようだ。
そんなボクが珍しかったのか、ボクの耳をふにふにと触る子供たち。
ちょっとビンカンだからやめてほしかったな。
でも、このウサ耳のおかげでボクと一緒に乗っていた子供たちの精神安定にもなった様で、助かったよ
ボクの乗った馬車ではボクが中心としてまとまり、全員が平民出身だったこともあり、すぐに仲良くなった。
でも、ボクが自己紹介で軽くボケても、首を捻られるだけだったのがすこし恥ずかしかったかな。
外で聞いていた騎士様だけがクスリと笑ってくれたけど、ボクはツッコミが欲しいんだよね。
「む、なぜ神聖な国立魔法騎士学校になぜ薄汚い獣人族が居るのだ! 平民が居るだけでも空気が穢れると言うのに」
何事かと思ってそちらを向けば、貴族風の恰好をした男の子が現れた
「キミは?」
「ふん。バン子爵家の長男。神童、レイザ・バンを知らないとは、とんだ田舎者が来たようだな」
ふーん。それって、魔王の子とどっちがすごいんだろう?
面倒くさい子だね。
「ふーん。騎士様。この王国国立学校って“卒業するまでは国立学校は独立した一つの機関であって、その中ではすべての人が肩書に関係なく平等であるべし”………なんだよね」
「あ、ああ。」
「ふーん。じゃあ遠慮はいらないね。」
【威圧眼】を任意で発動。
ボクの眼を見たものは、例外なく怯む
「っ!」
「どうしたの? 顔色が悪いよ? さっき騎士様に案内してもらったけど、医務室は向こうだって」
そう言って指差す場所は、もちろん医務室。
しかし、眼を逸らせずにダラダラと冷や汗を流すレイザくん
ふーん。神童っていう割にはたいしたことないね。
ボクの冗談についてこれるリオルくんの方が頭いいだろうし、魔力量や魔力操作技術だって、確実にルスカちゃんにも負けているだろう。
まぁ当然か。彼女も“神子”なんだしさ。
興味もなくなったので視線を外すと、レイザくんは荒い息を吐きながら膝に手を着いた
「っ! 覚えてろよ!」
「明日にはわすれるよ!」
捨て台詞を吐いてどこかに行こうとしたのだろうが、その言葉に対して即答すると
再び顔を真っ赤にしたレイザ君。そんな彼に向けて、今度は【魅了眼】を発動する。
「………っ! ………」
すると、覚えていろよと言ったくせに、今度はポーッとボクを見る。
あっははは! この反応の違い。本当に面白いよね
「じゃあねー♪」
視線を外しても、どこか焦点の合わない瞳をこちらに向けるレイザくん。
怒っちゃったかな。
ま、先にケンカを売ってきたのはあっちだから、まぁいいかな。
きっと、憎いのに、怯えていたのに、なぜか好意を持って視線を送ってしまう自分の内心に自分自身がよくわからなくなってしまったのだろう。
人の精神を弄ぶ。そういう魔眼なのだから。
「ん? なにこれ」
ちょっとすっきりした気持ちで校内を騎士様の案内に従って歩いていたら、足元に光るものが落ちていた。
「指輪?」
指輪を拾ってまじまじとその指輪を見てみると、ズキンと目に痛みが走った
――――――――――
個体名:言語把握の指輪
効果:この指輪を嵌めた者は、竜言語、各大陸人間語、獣人語各種、魔人語、怪人語など、全ての言語がわかるようになり、相手にも言葉が伝わるようになる
呪い:指輪の魔力が尽きるまで外すことができない。魔力が尽きると、指輪は効力を失う。
備考:この指輪は魔力が切れており、効力を失っている。
所有者:リコッタ・リリライル
――――――――――
あいたたた、また眼が勝手に発動しちゃった。
呪いの指輪? あ、でも呪いって言う割には困らない程度の効果しかないや。
ふーん。魔力が切れてるんだ。だから落ちてるんだね。
だったらためしに“魔力譲渡”をしてみようかな。効果が復活するかも
やり方はファンタの街にある魔法屋『クロムル』のおばあちゃんに教えてもらった。
まだ拙いし7割は空気中に霧散してしまうけど、やってみる価値はありそう。
☆
「ボクはラピスドット。ラットって呼んでもいいよ」
「「「 ………。 」」」
いきなりスベッた。
自己紹介で仲良くなろうと思ったんだけどなぁ。普通にそう呼んでほしいと思っちゃったのかも。
兎獣人であるボクの渾身のギャグだったのに。真顔でスルーされると、ちょっとさみしい。
校内の見学があってからさらに1か月後の今日。
新学期の始業式を経て、クラス分けが発表されたわけなんだけど、どういう訳か、ボクは貴族がたくさんいるクラスに配属されてしまった。
年齢は6歳の子達だけなんだけど、1クラスだけで50人は居る。
国中から才能ある子供たちを片っ端から引っ張ってきたんだから、そうなっても仕方がない。
ボクは魔力の量だけなら学年で一位だったらしく、貴族たちを差し置いて、ボクが首席で入学してしまったんだ。
そりゃあ、いい血筋を家に取り入れている貴族の子は魔力の量も多くなって当然か。
6歳にして中級魔法使いの子も居る程だ。
それを差し置いてボクが首席ってのもどうかと思うんだけどさ。
ボクの学力はそんなに高くはないけれど、この学校では魔力の量と実力ですべてが決まるからね。
獣人族でありながら首席で入学してしまったボクに対して、非難の視線を浴びせるクラスメート。
獣人を差別しているらしい。
辺境の村や獣人族とばかり交流を持っていたから、こういう純粋な憎悪に慣れていなくて、ボクが怯んでしまいそうになるけど、それを堪えて明るくみんなに自己紹介を済ませる。
「バン子爵家の長男。レイザ・バンだ。属性は火。せいぜいおれの足をひっぱるなよ。」
レイザくんは簡潔に自己紹介を済ませ、騎士爵や男爵級の生徒たちを一瞥して、最後に平民で、しかも唯一の獣人であるボクを睨みつけてから席に着いた。
子爵、ね。子爵って男爵の次の爵位だよね。
まぁ確かに、ボクらの年代は男爵や準男爵、騎士爵が多いし、そう都合よくポンポンと伯爵や侯爵、公爵のご子息が現れるとは思えないし、子爵でも十分すごいことは伝わる。
次の子が席を立って自己紹介をするはずなのだが、様子がおかしい。
「………?」
次の子が席を立って自己紹介をしないのだ。
不審に思って振り返ってみると、ぽっちゃりした体系の女の子が俯いて震えていた
「どうしたのですか? 次はリコッタ・リリライルさんですよ………?」
担任の先生が声を掛けるが、聞こえていないのか、それとも“理解できていない”のか。
青い顔をしたぽっちゃり体型の女の子は答えない
何とはなしに、彼女を“鑑定”してみると
――――――
個体名:リコッタ・アルタ・リリライル
性別:女
年齢:6歳
種族:人間族
状態:緊張、微熱
装備:――
称号:リリライル王国第二王女・癒し手
属性:光
耐性:――
加護:――
備考:出身は南大陸リリライル王国王都中心街リリライル城。
――――――
あれ、そういえばこの子の名前に見覚えがある
しかも、うわぁ、この子、お姫様だぁ
第二王女って見えるよ!
つまり、レイザくんは子爵で威張っていたけれど、クラスには王族が居るってことじゃん!
うへー、恥ずかしい。かわいそうに。
それにしても、ボクはどこでリコッタちゃんを見たのだろう?
うーん………あ!
と思ってポケットの中を探ると、ひと月前に手に入れた一つの指輪を取り出してみた。
鑑定してみると、そこには所有者が『リコッタ・リリライル』と書いてあった。
やっぱり、これはリコッタちゃんのなんだね。
リコッタちゃんは南大陸出身で、ダゴナン教の総本山。リリライル王国のお姫様ってことだ。
南大陸と中央大陸では言語が違うって聞いた。
ということは、この指輪の効力が切れちゃってて、そのせいで指輪が外れてしまい、さらには予備の指輪もない状態でここにいるということ。
怖かっただろうなあ。
それだけでも勇気があるよ。言葉のわからない世界に一人で飛びこむのは、本当に怖いと思う。
ボクにはできそうにないや。
でも、言語がわからなくても、ボクには行動力がある。
「ねえ、コレつけてみたら?」
さっそく、ボクは席を立ってリコッタちゃんの近くまで移動する。
皆の視線がボクに集中しているのがわかる。
その視線を無視して、彼女の手に指輪を握らせる。
「っ………!? !!?」
眼を見開いてボクを見つめる。なぜ、これを持っているのかと。
そんなリコッタちゃんに、ニッコリと微笑んで見せた。
すると、やや懐疑的な視線を向けながらも、右手の人差し指に指輪を嵌めこむリコッタちゃん
「な、なぜあなたがコレを………?」
気の強そうな声だった。
口元と聞こえる声が違う。やはり、そう言う効果の指輪だったんだ。
「この間拾ったんだよね。」
「あなたが? 盗んだのではなくて?」
獣人というだけで信用されない世の中。
うーん、本格的にアウェーだね。なんでボクが首席なんだろう。
本当に不思議だ。こういうのは王族が賄賂を積んで主席は王族だとか貴族だとかになるはずなのに。
平民で、しかも唯一の獣人であるボクが首席。
もしかしたらこの学校は国立ではあるものの、本当に国から独立した一つの機関なのかもしれないね。
「クスクス。おかしなことを言うね。この指輪はキミが着けていたものなんでしょ? 指輪の魔力が切れたら効力が切れる。効力が切れるまで、この指輪は取り外しができないはずだよね。変な言いがかりはやめてほしいな。まずは“ありがとう”っていうのがスジだと思うんだ。親切を受けたら悪魔にでも頭を下げる。ボクの流儀だけどね」
なんだか青ざめた顔で見つめている担任の先生。
きっとリコッタちゃんが王族だっていうことは知っていたんだろう。
王族だからって贔屓しないでね。
「………。」
「ボクが指輪に魔力を通しておいたよ。これでしばらくは使えるよね、お姫様。」
「あなたが………? いえ、礼を言うわ。ありがとう」
王女というくらいだから、いいご飯を食べているんだろうね。
そのぽっちゃり体型の20%くらいをリオル君に分けてあげたいくらいだ。
そんなことを言ったらどっちにも怒られそうだから言わないけどさ。
それにしても、彼女は翻訳の指輪なしでひと月も生活していたのか。
言語がわからない土地でそれはあまりにも窮屈で生きにくい生活だっただろうね
従者とかはいないのかな? 居ないはずがないか。王族なら居て当然だ。
“魔力譲渡”は高等技術。この学校の先生でも、ごく一部の人しかできないだろう。
それをボクがやってのけたと言っても信じられないのが普通かな。
でもボクには“魔力眼”があるから、魔力をどういう風に操作すればいいのかがわかるし、多少魔力の操作が出来るようになればできて当然なんだよね。
さてと。返すものも返せたし、ボクは自分の席に戻ろう。
「気を取り直して、リコッタ・リリライルさん。自己紹介をお願いします」
「はい。リリライル国立魔法学校より留学でこちらに参りました。リコッタ・アルタ・リリライルです。魔法属性は“光”。どうぞよろしくお願いします」
今度は言葉がちゃんと通じるからか。はきはきと受け答えをするリコッタちゃん。
そうそう。やっぱり自信を持っている女の子はかわいいね。
相手が王族?
だからどうしたの?
ボクは“神子”と“魔王の子”の友達だ。紫竜の族長とも知り合った。
王族。そんなものに臆することはない。王族よりも立場が上の子と。実力が上の人と。そんな人たちの方がよっぽど威圧感がある。まぁ、リオルくんは威圧感なんてなかったけどね。
【心眼】で見た彼の心の中にあるのは“不安”と“絶望”と“執着”だけだ。均衡が崩れたらすぐにでも壊れてしまいそうな、そんな危うい魔王の子を支えるためには、王族程度で臆しちゃダメだからね。
クラスメートたちが“光属性”持ちにどよどよとしている中、ボクはまえだけを見て、クスクスと笑っていた。
「クスッ♪ さあ、おもしろくなりそうだ。」
リオル君たちが編入してくる1年後が楽しみだね。
あ、そういえばレイザ君はリコッタちゃんが南大陸の王族だって気づいて急におとなしくなったよ。
王族に意見したいなら、公爵くらいにならないとね。血縁じゃないと無理だろうけど。




