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第54話 俺ぁ俺が楽しければそれでいいっしょ

 鉄鉱石竜の肉体を乗っ取ったジャックは、リオルとイズミの出方をうかがっていた。


 ジャックが鉄鉱石竜(メタルドラゴン)の肉体の調子を確かめ、少々クラクラする頭を振り、身に“魔闘気”を纏わせる。すると、同時にリオルとイズミの二人は二方向に分かれた。


(さあ、なにをするんだ? 見せてみろ!)



 ジャックは身構えると



「【百倍重力グラビティ・ハンドレットォ】!!!」



 突如巨大な圧力の塊に、鉄鉱石竜(メタルドラゴン)の体が押しつぶされそうになる



(………これほどの魔力を惜しげもなく使うか。それに、発動までタイムラグがほとんどねぇたぁ。こりゃあどういうことだぁ?)



 リオルはフィアルが教えてくれた魔法技術。【最適化】によって魔法のタイムラグをほとんどなくしていた。

 ただし、闇魔法については最適化してなお、少々のタイムラグが残る。

 しかし、ジャックが普段使用するよりも確実に数瞬早く発動していた。


 一人の天才冒険者が編み出したこの技術を、300年以上人間界に干渉しなかった魔王ジャックハルトが知るすべなどありはしない。



 リオルの魔法の衝撃に耐えきったジャックは、周りを見て戦慄する


(ここまででかいクレーターを開けるのか。いったいどういうマジックでそのちっぽけな魔力からこんな威力を引き出してんだぁ?)


 ジャックはそのクレーターから無傷で起き上がる。

 魔王が肉体を支配したから、という理由もあるが、鉄鉱石竜(メタルドラゴン)は元々のスペックも高く魔王の子を探すために体内に【闇水晶】を取り込んでいるという理由もあった。

 【闇水晶】は闇の魔力の波動を感知し、闇魔法に対する耐性を付ける。

 鉄鉱石竜(メタルドラゴン)は様々な鉱石を食すことによって、実に様々な耐性を備えた正真正銘の化け物である。

 そのため、まだ慌てる必要はない。



―――ギィイン!!



 足元で耳障りな不協和音が響いた。

 わずらわしそうに足元を見れば、紅色の髪の女が、刀で足に傷をつけていた。



(魔王の子の隣にいた竜人か。スジは悪くないが、相手が悪いっしょ。俺ぁ魔王だ。一応、俺が“魔闘障壁”を纏っていなかったら半分はイッていたな。こいつぁ将来に期待できる。だが――)




『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』



 鉄鉱石竜(メタルドラゴン)が竜言語で『邪魔するな』と叫ぶ。

 魔王の子を捕獲したいのに、邪魔をするゴミが居る。


 鉄鉱石竜(メタルドラゴン)とジャックは紅髪の女を敵として認識した。


 鉄鉱石竜(メタルドラゴン)の身体でジャックは口を大きく開ける



(クハハッ! 楽しいねぇ! これを防げるもんなら防いでみるっしょ!)



 クレーターの中央からブレスを吐いた。

 狙いは紅髪の竜人、イズミだ。


鉄鉱石竜(メタルドラゴン)のブレスは石化吐息(メタルブレス)。このブレスを浴びたものは、体表面を石で覆われる。吸いこんだら、体の中から石化するっしょ!)



 だが、イズミは避けた。イズミはクレーターの外周を回り、リオルの方へと向かうと

 そのままイズミはリオルの首根っこを掴んでクレーターの外周を走る


―――さあ、これをどうしのぐ!


 ジャックはブレスを吐きながら観察をする


「ちょっ! 僕まで巻き込まないでよ!」

「すみません、リオル、土壁を!! あのブレスには石化効果があります!!」


 その様子に、ジャックは眉をしかめる。


(ああ? 今代の魔王の子は頭がわりぃのか? それとも、鉄鉱石竜(メタルドラゴン)のブレスの効果を知らないのか。………おそらく後者だな。ようやく魔王の子の名前が判明か。リオル。覚えたっしょ。)



 ブレスの効果はしばらく残留する。


 鉄鉱石竜(メタルドラゴン)が死ぬか、一定時間が経てば石化は解けるとはいえ

 リオルがあのまま動かなければ、確実にリオルは石化していただろう。

 それに、イズミはブレスを避けきれる自信は無かった。

 だからリオルを頼ったのだ。


(だが、土壁程度であればブレスの威力で粉々にでき………)


「了解! 鉱物創造(ミネラルクリエイト)、【鉄壁(アイアンウォール)・V】!!」


(なに?)


 魔王の子は鉄の壁を作り出した。

 土魔法における鉱物の創造は極めて難しいとされている。

 ただの土やコンクリート並の硬さの土は込める魔力量に比例して硬く作ることが可能だ。


 しかし鉱物を自分で作るとなると、最低でも超級(イエロークラス)の魔力量を保有し尚且つ魔力圧縮の技術を持たねばならない。

 それでも、圧縮した魔力を鉱物に変えたところでごくごく少量しか鉱物が発生しない。


 そもそも、それが可能となるのは、途方もない量の魔力がとイメージが必要であり、込められている魔力の量が尋常ではないことを意味する。

 つまりは伝説級(レッドクラス)の魔力を込めなければならないということ。


 それに、通常の魔法であれば形を変えることなど極めて難しい技術のはずなのだ。

 だが、リオルはブレスを受け流せるようにスムーズに形を変えて見せた。


 それはもともとリオルが魔導書の存在無しでイメージ力のみで魔法を行使し続けたから可能となったことだ。


 無詠唱やイメージ力だけで魔法を行使する伝説級(レッドクラス)の魔法は普通であれば燃費がかなり悪い。魔力の消費と効果が釣り合わない使い勝手が悪いのだ。

 たとえば、普通のファイアボールの魔法を放つのに10の魔力を使うならば

 イメージだけで同じ威力のファイアボールを作ると100の魔力を消費する


 大技になるとその消費はバカにならない。


 リオルはそれを《最適化》で補っていた。

最適化は魔力の消費を抑え、応用性操作性に富む。


リオルと【最適化】の相性は抜群だったのだ。


(リオルか。こいつぁたまげたぜ、この年齢にして400年前の俺と同等レベルかそれ以上の魔力量を保持していると認識してよさそうだ。見た目からはほとんど見えないのに、対したヤツだ。それに、土壁(アースウォール)は、通常ただの壁にしかならないはずっしょ。なのにあんな形に変えることができるとは………)


 つまり、すでに保有している魔力は伝説級(レッドクラス)であるということ



 ジャックは獰猛に笑う。

 ジャックは【最適化】を知らない。


 魔法に応用性の増すこの最新技術を『なんとなく』で習得してみせたリオルの感性はたいしたものだ。


 ただし、ジャックも魔王である。

 イメージを魔法にすることは同じく伝説級(レッドクラス)であるジャックにも可能だ。

 その程度では少し驚くに過ぎない。


 《闇魔法》は、最初から魔導書など存在しない、口伝により大昔から受け継がれた詠唱かイメージのみでしか使用できない魔法だ。

 ゆえに消費が大きく、その魔力を魔法につぎ込むためにタイムラグが多く発生するのだ。



(―――だが、盾をだしたらこっちは見えねぇ。この俺様が攻撃の手を緩めるはずがねぇだろ!)


 ジャックは鉄鉱石竜の肉体を操作し、尻尾をやや石化し始めた鉄壁に向けて照準を合わせ、鉄鋼砲弾(メタルキャノン)を発射した。


―――ドバァアアアアアアアアン!!



 土埃が舞う。


 しかし、リオルは地面を隆起させて防いだ。

 見事に防いで見せたのだ。


 ジャックは笑う。

 そうでなくては、と。


 そうでなくては、俺の後釜にふさわしくない、と。


 ジャックはすぐさま次の鉄鋼砲弾(メタルキャノン)を再装填し、再び発射しようとしたところで、またも驚愕することとなる



「―――【火炎障壁(ファイアオブスタクル)ex】!!!」



 (ゴウ)! という音が鉄鉱石竜(メタルドラゴン)の尻尾の中で響き渡る


(ほう?  視界外への魔法行使か。)


 それは通常の魔法使いにはできないことだ。

 通常は自分の掌から魔法を出すか、射出した魔力から魔法を具現化するしかない。


 それを、尻尾の内部でできるとすれば、同じく【軌跡陣(コード)】を持つ先代魔王ヨルドハルトか、今代の魔王であるジャックハルト、現在の神ダゴナンライナー、もしくはあいつ(・・・)でなければ。


(なるほど、やはりテメェも【軌跡陣(コード)】を使えるのか、上等!)



『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』


 咆哮。これは鉄鉱石竜(メタルドラゴン)の本体が痛みに苦しむ絶叫である。


 しかし、肉体を支配しているだけに過ぎないジャックには痛みはない。

 そのまま鉄鉱石竜(メタルドラゴン)の支配を続ける


―――楽しい。楽しいねぇ! 血湧き肉躍る命がけの勝負ってのはこうでなくっちゃな!!



「イズミさん、今なら逃げられるよ! ここから出よう! 今すぐに! 急がないと鉄鋼砲弾さっきのがもう一発くるよ!」

「あ、はい!」



 二人を見れば、逃走を計ろうとしていた。

 竜人の女はリオルを抱きかかえて鉄壁から抜けて走り出す。



 狩猟本能を刺激されたジャックは一瞬だけ何も考えずに追いかけようとするが、はたと足を止め、 ふむ、とジャックは思案する。


 ここで追いかけてもいいのだが、一計を案じてみた。



(ま、後回しでいいっしょ。おい、さっき向こうに逃げた連中から片づけるぞ!)


 ジャックはおいしいものは最後に食べるタイプである。

 邪魔者を徹底的に排除したのち、再び魔王の子と戦ってみたい、そう思った、思ってしまったのだ。



『ガルルルルルル、グルルル』



 すぐさまジャックの意をくんだ鉄鉱石竜(メタルドラゴン)は、竜言語で先ほど逃げたルスカ達の方へ向かうことを呟く


「「 え!? 」」



 予想通り、動揺し始めた。

 ジャックはニタリと笑う。

 弱点を見つけた、と。


 どうやら、そちらには食われて欲しくないヤツが居るのだろう。

 そちらに向かって、そいつらをぶっ殺したら心置きなく、今代の魔王の子と対峙できるだろうか。


 ジャックの心の中で戦闘欲が掻きたてる


「イズミさん!! 戻って!!! あいつの好きにさせちゃダメだ!!」

「はい! わかってます!!」




 ジャックはあざ笑うかのようにリオルの方に尻尾を向けて、鉄鋼砲弾(メタルキャノン)を発射する。


 だが、もともと尻尾の内部が焼け爛れていたためか、尻尾の内部で暴発。

 その結果、鉄鉱石竜(メタルドラゴン)の尻尾が根元から爆発した。



(クハハハハハ!! 俺ぁ俺の好きなようにやらせてもらうっしょ!!)


 ジャックは鉄鉱石竜(メタルドラゴン)の肉体を操作し、地中から先ほど逃げ出した人間たちの方へと向かった


 ジャックはリオルの捕獲については忘れてはいない。

 ジャックは短慮なこともあるが、馬鹿ではない。




 ただ、一つだけジャックの大きな欠点を上げるとすれば




 ジャックは、戦闘狂だった。






 


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