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第46話 別れは一瞬で、唐突に


 ルスカをおんぶしキラを宙に浮かせながら屋敷をすこーしだけ探検しつつ、ゼニスたちが居る部屋を目指す。


 屋敷が思いのほか大きいから迷子になっちゃいそうだ。



「というか迷子になった。」


 どこだここ。


「にーちゃん、ここどこー?」


 僕の後ろをちょこちょこと付いてくるマイケル。

 ここはどこかって? 僕が聞きたいよ。


「んー。わかんない。探検しすぎたね。ちょっと待ってて。屋敷全体を糸で探索してみるから」


 糸魔法を使えば現在地がどこにあるのかわかるよ。

 というわけで、糸魔法発動。空間認識力があがるって便利だね。



 屋敷の中を縦横無尽に駆け回る僕の糸。

 ゼニスの部屋はどこだろう。


「お? ミミロだ。」

「みみろおねーちゃん?」


 探索していたらミミロを見つけた。あの特徴的な紫紺の髪とアホ毛はミミロで間違いない。

 ミミロにゼニスたちが居る部屋を聞けば一発でわかるね。


 というわけで、ミミロの所に行ってみた。



「おーい、ミミロー!」

「あ、リオ殿! もう見学はよろしいのでありますか?」



 ミミロも僕を見つけて手を振った。


「みみろおねーちゃーん!」

「うわっとと、よしよしマイケル。いい子にしていましたか?」

「うん♪」


 ミミロは自分に抱き着くマイケルの頭を撫でる。

 その表情は母親の顔だ



「見学は終わったよ。ルスカとキラが寝ちゃったからね。みんなはどこに行ったの? 」

「あはは、本当ですね。二人ともよく寝ているようでわちきも安心しました。

 族長殿とフィアル殿は赤竜の戦士長殿がお部屋へとお連れしていました。わちきもそちらに向かうところであります!」

「あ、そうなんだ。一緒に行っていい? 僕はちょっと道がわからなくなっちゃった」

「あはは、リオ殿はドジですね。着いてきてください、こちらであります。申し訳ありませんが、キラの事をもうしばらくお願いしますね」


 常にテンションの高いミミロと行動するのは楽しい。

 こちらまで元気になる。



 僕が迷子になっていたことをミミロにからかわれながら屋敷を歩いていると、一つ前の部屋から赤竜戦士長のイズミさんが出てきた。

 そこからゼニスとフィアルの話し声が聞こえてきた。

 おや? 部屋を通り過ぎてないかい?


「おやおや? リオ殿をからかっていたら目的の部屋を一つ過ぎてしまいました!」

「ミミロも案外おっちょこちょいだね!」

「はややー! 今回は言い返せません!」


 眼を><(こんなふう)にして自分の額をペシンと叩いたミミロは、マイケルの手を引いて僕から逃げるようにイズミさんが出てきた部屋に入って行った。


 その様子を、イズミさんは微笑ましく見送ると、こちらに歩いてきた。

 そういえばご飯を作ってくれたのはイズミさんなんだよね。


 最終的に片づけも任せちゃったし、ちゃんとお礼を言っておこう。


「ねえ」

「はい。どうしました?」


 声を掛けると、凛々しい顔で、腰を折って僕に目線を合わせてくれた


「ごはんを作ってくれてありがとう。すっごくおいしかった!」


 僕がそういうと、目を見開いて柔らかい表情をした後、僕の頭を撫でてから寂しそうに微笑んだ


「ありがとう。そう言ってもらえるとうれしい。」


 それは本心から言っているが、イズミさんは何かが物足りなそうだ。

 ちょっと興味がわいたので聞いてみる。


「どうしたの?」


「いえ。男の心をつかむには胃袋を掴もうと思って料理を始めたのですが、本命の胃袋を掴むのは、なかなか思うようにいきませんね。」



 なるほど。イズミさんはジンの事が好きなのか。

 頑張ってね! 僕は応援するよ!


「ジンのことが好きなんだね」

「ええ。」


 あ、でもゼニスはなんていうだろうか。NTR?



「………ゼニス殿には許可はもらいました」

「へー。」


 というかゼニスには言ったんだ。ジンが好きだと。

 まぁ、この様子なら『む? 構わんぞ。そもそもなんで私に聞いたのだ?』とか言ってそうだ。


 そもそも、竜は特定の相手としか生殖活動をしないというわけではない。

 それに、結婚という概念がない。

 だから別に浮気とかいうものはない。


 竜の個体数が増えるのはいいことだと思うし、僕は応援するよ。

 頑張ってね!



                  ☆



 イズミさんと別れ、ルスカをおんぶしたままキラを闇魔法で浮かせ、ゼニスたちの部屋に入った。


「んにゅふふふ~~~~ん♪」


 気持ちよさそうに僕の背中で寝息を立てるルスカ。

 ごめんね、僕の筋力じゃルスカをおんぶするのは結構精一杯なんだよね。


 それでも、おんぶされたルスカは僕の首筋にグリグリとほっぺを押し付ける。

 こしょぐったくてぞくぞくする。


 ほんとに寝てるのかしら、と僕とルスカを縛っていた糸魔法で作ったおんぶ紐をほどいて床に寝かせると、おめめぱっちり。

 つぶらな瞳とこんにちは


「おはよう、ルー。」

「おはようなの、りお♪」


 起きていらっしゃった。


「いつから起きてたの?」

「にへへ、さっきなの!」


 起きてすぐにこの元気。

 子供はすごい。


 僕だったら二度寝の魔力に逆らえずに寝てるね。

 ルスカが手を伸ばしてきたので、その手を掴んで起き上がらせる。


 ついでとばかりにルスカが僕に抱き着いた。

 僕を好きでいてくれてありがとう、ルスカ。

 僕もルスカが大好きだよ。

 ルスカの体温を肌で感じながらルスカの背中をぽんぽんと撫でる。


「~~~~♪」



 このとろけきった笑み。守りたい。



「来たか、リオル。話がある、ちょっとこちらに来い。」



 部屋の隅に居たゼニスが、ちょいちょいと手をこまねいて僕を呼んだ。



「なに? どうしたの?」


 ルスカと手を繋いでゼニスの近くに寄る。

 キラはマイケルの近くに寝かせてあげた。


「………私は、いったん紫竜の里に戻ろうと思う。」

「ああ、うん。そうなんだ。」


 忘れ物とかではないだろう。


 ゼニスだって肩書きは『族長』なんだ。ひと月以上も紫竜の里を留守にしているのだからいろいろ問題があるだろう。



「そこでだ。リオル、お前は赤竜の里に住め。」

「………ん? 僕だけ?」

「もちろん、ルスカやキラ、マイケルも一緒だ。」

「うーん。いいけど、なんで急にそんなことを言うの?」



 なんだか不安になってきた

 ゼニスと離れたくない。

 今まで、ずっと一緒に暮らしてきたんだもん


「もしかして、僕たちが一緒に居るのは、ゼニスには………迷惑、だったの………?」


 考え出したらすごく怖くなってきた。

 どんどん不安が押し寄せてきて動悸が激しくなる

 そんな僕を心配して、ルスカが不安を紛らわすかのように僕の手を強く握った


 ちらりとルスカを窺うと、ルスカも僕と同じように不安そうな顔をしていた


「そんな顔をするな。もちろん、リオル達の事は好きだ。ずっと離ればなれになるわけではないし、ほんの少しの間だけだ。」


 ゼニスのほんの少しは僕にとって、どれだけ長い時間なんだろう。

 ゼニスは時間にルーズだ。


 ゼニスが時間を正確に測ったことなんて一度もない。



「それに、他の竜と交流を持つことはリオルにとってもいい事だろうからな。」

「そうかもしれないけど………。さみしいよ」

「私もだ。だが、リオル達の為でもある。ゆくゆくは自立して自分で稼ぎ、生きていくのだろう?

 いつまでも私におんぶにだっこでは格好がつかないだろうからな。私も心を少々鬼にしてでも、今回は赤竜の里にリオル達を預けることにしたのだ。ジンにもこれから話を通しておく。」

「………そっか。」



 ゼニスと別れるのは確かに寂しいけど、それは嫌いだからではなく僕たちを思ってのことなんだよね

 嫌だけど、それは受け入れるしかないのか。


「あと、リオルがおいしそうにご飯を食べている姿を、私は初めて見た。

 リオルは肉付きが薄いからな。赤竜の里にいる方がリオルの身体もすこしはふくよかになろう。」


 そう言う計らいもあったんだね。

 あの時、赤竜の里に住む、なんて心の中で思ってしまったけど本当に赤竜の里に住むことになろうとは思ってもいなかった。

 数日滞在して紫竜の里に戻るものだとばかり思っていたよ。


「ぜにす、さよなら?」

「うむ。さよならだ。ルスカにはリオルがおる。それに、キラやマイケルだっておるのだ。何も心配はいらん」

「うゅ………。すぐあえる?」

「もちろんだ。私がいない間、いい子にしているのだぞ。」

「うん!」


 ゼニスはポンポンとルスカの頭を撫でた。

 ルスカもゼニスと離れたことはないよね。

 そしたら、これはルスカにとってはつらい体験だ。


 僕もつらい。


 僕がローラの住んでいる町であるファンタの町で知り合ったウサ耳少年のラピス君と別れた時は、こんなに辛い思いをしなかった。


 あの時はその日だけで知り合って別れた仲だからだろうけど。

 ゼニスは僕たちとずっと一緒に暮らしてきた家族だ。


 別れるのは、つらいよ。



「ゼニス、いつ赤竜の里を出るの?」

「うむ。今日はここで休んでから、明日の早朝、紫竜の里に戻るつもりだ。すぐにここを行き来できるようにフィアルには頼んである。」

「そうそう、私が赤竜の里(ここ)に《ゲート》を設定したよ。だから紫竜の里からここまで、一瞬で来れるようになるよ!」


 誇らしそうに胸を反らすフィアル先生。

 あ、そうか。フィアルの魔法なら距離はあまり関係ないんだ

 でも、これで《ゲート》のストックが残り1個だ。魔力量が増えたらストックが増えるらしいけど、今の所その兆候はないっぽい。


 だから、現時点で《ゲート》は5つまでしか使用できない。少し不憫になってしまうな。




「それでも、リオル達にはいろんな経験をしてもらいたいという親心もある。しばらく連絡は取れないと思え。」

「………。うん」

「新しい土地で、新しい人と、新しい関係を築くのだ。しっかりするのだぞ」

「うん! 今まで大切にしてくれてありがとうね!」

「ふん、これからも大切に決まっているだろう。《族長会議》の日程が決まったら、迎えに来よう。」


 そう言ってゼニスは、口元を緩めた。



 その日の夜。僕とルスカはゼニスと一緒の布団に入って一緒に寝た。

 両側からゼニスに抱き着くと、ゼニスはくすぐったそうにしていたが、僕たちを安心させるように頭を撫でてくれた。


 瞼はすぐに落ちた。




 とんとん拍子で話がすすんだけど、これからはケリー火山で生活することになるのか。

 ………いつもと違う環境だ。慣れるのにも大変そうだ。



                   ☆




 翌日



「じゃあね、リオル。私達とはいったんお別れだね」

「………うん。フィアルはどうするの? 僕たちの先生役だったのに」


 フィアルは僕たちの先生だ。

 魔法を教えてくれたし、文字を教えてくれた。


 物知りだからいつも頼りにしていた。だけど、フィアルまで戻るなんて………



「えへへ、私はゼニスさんと迷宮に潜る訓練をするよ。ほら、私は採取の冒険者だから戦闘はあまり得意じゃないんだけど、迷宮の中の珍しい鉱石とか魔石とか、魔力付加具(マジックアイテム)とか手に入れるの。お金を手に入れるチャンスなんだよね。それに、私の無属性魔法で一気に迷宮から脱出できるから、私もゼニスさんも負担が減るんだよ。だから、せめてゼニスさんの足手まといにならないように訓練するよ」


「………そか。じゃあフィアルは修業期間ってことだね。」


「まあね。次に会うときには《ゲート》のストックを増やせるようになっているといいんだけどね」


 頬をポリポリと掻きながら言った。

 フィアルの 《ゲート》は魔力総量に比例してストックできる個数が増えるんだって。


 今は最大で5つしか《ゲート》を開ける場所を記録できない。

 その代り、《ゲート》は記録したらいつでもそこに行くことができる。


 ちなみに、旅の途中で何度か王都で買い物したり実家に戻ったりしていた。

 瞬間移動系の無属性魔法って便利で羨ましい。



「それはフィアルの修行しだいだよ。キングアルノーを食べなさい。」


 キングアルノーっていうのは、紫竜の里があるアルノー山脈の頂上に生る木の実である。

 僕の身長くらいの大きさの、§←こんな形をした果物。


 魔力量を増やす果物でもあるんだけど、標高5000mだから登山に日数がかかるし危険も付きもの。紫竜のテリトリーだから希少な果物だ。


「あはは、リオルはお母さんみたいなことを言うね。キングアルノーは粘っこいからあんまり食べたいとは思わないなー。でも私はリオルやゼニスさんのおかげで紫竜と懇意になったし、食べ放題なんだよね。がんばってみることにするよ。」


 ただ、効果と値段はすごく高いけど、後味が最悪だ。

 おいしくないし、二度目はいいやと思わせる何かがある。


 『好き嫌いはいけませんよ』って言ったらフィアルが吹き出した

 おいしくないけど頑張ってね


 


「フィアル、そろそろ戻るぞ。」


「あ、はーい。今行きます! じゃあね、リオル。」

「うん、元気でね」



 ゼニスに呼ばれて、フィアルはゼニスの所に走って行った。

 ゼニスの近くにはルスカが居て、ルスカは少し泣きそうな顔をしていたけど、ルスカはゼニスに優しく頭を撫でられていた。



 どうせすぐに会えるさ。一生の別れなんかじゃないなら、寂しくなんかないよ。

 ………ちょっとうそ。やっぱりさみしい。



「ではな。私も子供たちだけを残して戻るのは忍びないのだが、これもお前たちの経験の為だ。なに、ジンならお前たちをよく扱ってくれる。心配はいらん。」


「うん。ゼニスが信用している人なら、僕も信用できるよ。今まで本当にありがとうね、」


「うむ。すぐに会いに来る。それまで、元気にな。」




 ゼニスは最後に僕の頭を撫でて、フィアルのゲートをくぐった。


 行きは一か月。帰りは一瞬。


 あっさりとした別れだった。

 寂しさに涙が出そうになった。



 おかしいな。

 僕は殴られても泣いたりしないのに。

 こんなことで涙が出てくるなんて。


「りお………ぜにす、いっちゃったの………」


「そう、だね。でもね、ルー。これからずっと会えないわけじゃないんだよ。確かに今は寂しいけど、僕たちは一人じゃないんだ。マイケルやキラもいる。それに、ここにはジンだって居るんだ。」


「………うん。」



 素直でいい子だ。

 ルスカは目元を拭って僕の手を握った。

 信用している人が離れるのは寂しい。


 昔、前世で僕の親友が『もう話しかけるな』と言った時は、もっと辛かった。

 状況はわかるけど、胸が張り裂けそうになった。


 それに比べれば、今回はなんて愛されていることだろう。

 いまは寂しさと感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。


「ジンのところでいろんなことを学ぼう。今までと同じ、これまで通り、きっと楽しいよ」

「うん♪」



『別れの挨拶は済みましたか。では屋敷に戻りましょう。わちきはおなかペコペコであります!』

『ぎゃう!』(さんせー!)

『きゅー!』(おなかすいたー!)



 三人とも竜形態でミミロに賛同する。

 ミミロもキラケルも、先ほどゼニスたちとの別れをした。


 竜たちは気持ちの切り替えは早かった。

 寿命が長いからだろうか


「あ、そういえばミミロは紫竜の里に戻らなくてよかったの? ミミロは紫紺竜だし、幼いままだと赤竜の里は厳しい環境かもしれないよ?」

『あはは、それはキラとマイケルも同じであります! それに、わちきはこの子たちの事が心配ですからね。族長殿は私が残ることも許してくださいましたし。わちき自身、赤竜の里に興味がありました!』


 紫紺竜がビシっと敬礼をする。

 この子の高いテンションのおかげで、少しだけ沈んだ空気もすぐに明るくなる。




「そっか。これからもよろしくね、ミミロ。」

『もちろんであります!』




 こうして、僕たちの新しい生活が始まった。

 ケリー火山の赤竜の里、これから僕たちはどんな体験をしていくことになるんだろう


 別れの寂しさはあるけれど、それ以上にわくわくもしていた。




 あとがき


 おはにちばんわ、作者です。


 2ヶ月続いた早出残業休日出勤地獄が終わりました。

 これから更新頻度を高めていきたい


 と、思っていましたが、今はキリがいいところなので、一旦書き溜め期間に入ろうかと思います

 1章を完成させてから1日おきずつ投稿かな


 次回新章


 いつもと違った書き方をしているので、ちょっとだけ不安です


12/07

現在八話まで作ったよ

一話一話が今までより少しだけ増量してるよ

もうちょっと待ってね、加筆と見直しするから



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