第41話 そして、勇者になった。
オレの親友は元々友達が多く、誰からも好かれるヤツだった。
帰り道、ギプスもつけていない、松葉杖もついていない頃のスバルと話していた。
『ねえ侍刃。僕、バイト探してるんだけど、いい所ないかな?』
『バイト? なんでまたそんな。金欠か?』
『あはは………借金しかないから、金欠で当たり前だよ。』
オレの親友は、ことごとく運が悪い。
小学4年生の時、両親が死んだ。
引き取られた伯父は、借金だらけで碌に働きもしないクズ野郎。
碌に飯も食べていないのか、スバルはガリガリに痩せこけている。
体重は30kgあったらいい方だろうか。
力無く笑う親友に、なんて声を掛けたらいいのか、わからない。
『うーん。本屋でバイトしたいんだけど、この身体じゃ難しいかな?』
難しい、なんて問題じゃない。
入院していないとおかしいくらい、すでにボロボロの体だ。
なのに、なんでこいつは、無茶をするんだ
すこし服をめくるだけで、痛々しい傷跡が顔をのぞかせる。
押し付けられたタバコの後。痣。
伯父に虐待された痕だ。
すでに、スバルの心は壊れかけている。
本人はそれに気づいていない。
だから、オレがこいつを守ってやらないといけない。そう思っていた。
……………
………
…
『侍刃―! 聞いて聞いて! 僕がんばって働いたら、バイト代弾んでもらっちゃった!
5万円だよ5万円! 1カ月深夜まで頑張ったかいがあったよ!』
うれしそうに報告するスバル。
給料はしっかりと払っているようだけど、中学生を深夜まで働かすのはどうかと思う。
しかもスバルは全身がボロボロだ。
死ぬ日よりはマシな身体とはいえ、すでに足の骨が変な方向に曲がっており、自由に歩くことができない。
さらには、スバルを快く思っていない連中から、陰湿ないじめを受けているんだ。
それでも、そんなそぶりも見せないでオレに笑顔を向ける。
『これを全部返済にあてたら、あと1175万円かな。』
徹夜明けで本屋から直接学校に来たのであろう、給料袋を大切に抱えている。
ひと月前より、怪我は酷くなっていた。
最初の給料は、伯父の酒代にすべて消えた。
……………
………
…
ふた月たった
『あっれ~? 俺の5万円が盗まれたぞー! 誰が盗んだんだー?』
銀介のその一言により、急きょ持ち物検査が行われた。
その日はたまたま給料日明けで、スバルは本屋から直接学校に登校していた。
なぜ、そんなに働きづめるのか。
金の為とはいえ、本屋もスバルを使い潰すつもりでいるのか。
さらに、最悪のタイミングでの持ち物検査に、オレは悪意を感じた。
『おい、この封筒はなんだ?』
『そ、それは………』
学校でバイトは禁止されている。
それを言うわけにもいかず、スバルが一か月深夜まで働いて稼いだ給料は、すべて没収され、銀介の金を盗んだ汚名を着せられた。
オレは、その金はスバルの物だと言った。
だけど、『貧乏人のこいつが大金を持って来ている理由がない』
教師にまでそう言われた。
そこで、スバルがバイトで稼いだ金だとオレが言うと、先生は確認を取り始めた。
本屋から返ってきた答えは『そのような名前の人物はバイトには居ない』
その日から、伯父からだけでなく、クラスメートからも迫害されるようになってしまった。
後から知らされたことだが、銀介は初めからスバルに濡れ衣を着せるつもりだったらしい
さらに、本屋は銀介の親父の息がかかっていた。
つまり、本屋もグルだったんだ。
スバルの伯父は闇金から金を借りていた。
その闇金は、銀介の親父の系列だ。
伯父はそこかしこから怨みを買っているらしい。
そのせいで、クラスメートからも敬遠されている。
そこで、スバルからも搾り取れるだけ搾り取るつもりだったんだ。
一生終わらない負債。
返済に充てることすらできず、巻き上げられてしまう金。
理不尽だ。
オレは銀介をボコボコにした後、金を回収してからスバルのカバンにこっそり入れておいた。
その日、オレの親父が不慮の事故で入院した。
ひき逃げらしい。
……………
………
…
数週間後。
スバルに対するイジメは苛烈を極めた。
オレに気付かれないように、陰湿に。
日に日に傷が増えていく。
しかし、診療所に行ったのは1度だけ。
道端で襲われて救急車で運ばれた。もちろん、伯父は治療費を出せるはずがない。
応急処置だけして診療所からも放り出された。
その病院も、マフィア御用達だった。
左腕はもう、動かないそうだ。
オレはスバルを虐めている現場を見かけては、そいつらを懲らしめた。
それでも、スバルに対するイジメは終わらなかった。
購買まで何度も走らされ、焼きそばパンを買いに行かされる。
何回も、何回も。
見かけるたびに、オレがそれを諫めていた。
でも、オレの気づかないところで暴行を受けていた。
……………
………
…
トイレに立ち寄れば、汚物にまみれたスバルが気絶して居た。
………殺意を覚えたのは初めてだ。
『おい、侍刃。面かせ。』
数人の取り巻きを連れて、銀介トイレに居た。
こいつらがスバルをここまでしたんだ。
オレは拳を握りしめて殴りかかろうとしたら
『まぁ待てって。』
そう言って携帯で写真を見せてきた
オレの親父が、病室でスーツの男と肩を組んで映っている写真だ。
楽しそうにしているようには見えない。親父の顔色は真っ白だった。
『これはな、おまえの親父さんと、ウチの組のモンとの記念写真だ。よく撮れてるだろう?』
『………っ! 銀介! 貴様ァ!!』
『お前が今日から2,3日、俺の命令を聞けば、容体が急変するようなことはないんじゃねーかなー。』
『馬鹿なことはよせ!』
『ククク、馬鹿はどっちだよ、お前に選択権があるとでも思っているのか?
なに、2,3日でいいんだ。それからはこの薄汚い親父も開放するし、スバルに今まで通り接すればいい。
そうだな、そうすれば、もうスバルにちょっかいを出さないと誓おう。
お前が言うことを聞くだけでスバルが解放されるんだ。安い買い物だろ?』
『………本当だろうな』
『ああ。俺は嘘はつかないからな。』
嘘つけ。
なにを白々しいことを。
『信用できない』
『それなら、お前の親父が死ぬだけだ。俺がそれをためらうような人間だと思うなよ?』
『………っ!』
オレに選択の余地はなかった。
苦虫をかみつぶしながら、オレはスバルをそのままに、トイレを出た。
……………
………
…
すまない、スバル。
『ねえ侍刃』
『………オレに話しかけるな。』
『え………?』
オレに裏切られ、スバルは表情を歪ませる
(命令その一。『スバルを相手にするな。』)
今まではオレの存在が抑止力になっていたが、オレがスバルを無視するようになってから、スバルに対するイジメが過酷になって行く。
初日には階段から転げ落とされた。
離れていたため、守ってやることができなかった
すまない、スバル。
3日。3日だけ耐えてくれ!
そうすれば今まで通り、いや、全て正常に戻るはずなんだ!
二日目、感覚の無くなった左手の小指を面白半分で切り落とされた。
そこまでするなんて聞いていない!
オレは銀介に掴みかかった
『ギャハハハ! 殴りたきゃ殴れよ、そうすればお前も、お前の家族も、スバルも! みんなぶっ殺してやるからよ!』
『………クソッ!』
乱暴に銀介を突き放す。
(命令その2 銀介に手を挙げてはいけない)
(命令その3 スバルの助けをしてはならない)
ふざけやがって!!
三日目。
スバルが死んだ。
どうやらオレも、精神が疲弊していたようだ。
スバルが死んでから、自分がおかしくなっていたことに気付いた。
守らないといけないはずなのに、自分の保身に走っていた。
醜い。自分が醜い。
世界が醜い。
醜い世界の中で、純粋なのはスバルだけだった。
スバルを殺したのは誰だ。
銀介?
違う。保身に走り、親友を見殺しにした、オレだ。
その時、オレは銀介を殺し、オレも死ぬことを決意した。
オレは銀介の持つ銃を奪って頭に突き付けた。
『ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
『くそがあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
―――ドウン! という爆音が聞こえる。
オレは、確かに引き金を引いた。
撃った反動もあった。
しかし、その直前、床に幾何学模様の魔方陣のようなものが現れ、視界が真っ白に塗りつぶされ、体からすべての感覚が消えた。
銃口から出た弾丸は、銀介の頭を穿つことは無かった。
この日、銀介とオレの二人は、この世から姿を消した。
★
「χξ◆ДЮ§」
「―――――。―――――!!」
ようやく眩しい光が収まり、人の声のようだけど聞いたことのない言語が聞こえ、目を開ける
「「………なんだ、ここ?」」
声がハモった。
そちらを向くと、地面にうつ伏せに倒れる銀介? の姿があった
初めはそいつが誰なのか、わからなかった。
なぜなら、銀介の髪の色が《銀色》に変わっていたからだ。
「テメェ侍刃! なにしやがっ―――? おまえ、その髪どうした?」
銀介が血相を変えてオレに掴みかかってくるが、その前に、オレの髪の方に衝撃があったようだ。
髪? 髪が、なんだって?
前髪を降ろして確認してみると、自分の髪の色が《真紅》に染まっていた
「………なんじゃこりゃ。いや、それよりも!
銀介! よくもスバルを殺してくれたな! 絶対にオレはテメェを許さない!」
髪なんか今はどうでもいい。
こいつを、殺さなくては気が済まない!
右手に銃を持ったまま、左手で銀介を掴みあげて睨みつけた。
「っ――――!」
その瞬間、オレの眼に激痛が走り、視界に異変が起きた
――――――――――――
個体名:篠原銀介
種族:異世界人
状態:良好
装備:異界の服
武器:マカロフ拳銃(改) 装弾数8発+1
称号:勇者
属性:―――
耐性:火水風土光闇魔法耐性
加護:???の加護
特殊:???
――――――――――――
視界に表示された文字は、わけわからないことが書いてあった。
くそっ、邪魔だな、コレ。
視界を邪魔する表示にうんざりしながら、銀介を銃を握った右手で殴ろうとすると、背中から衝撃が襲い、誰かに羽交い絞めにされた。
実際はすぐに振りほどけるが、振りほどこうとすると、そいつが折れてしまいそうなほど細い身体だったため、思いとどまる。
17歳くらいの女だった。
「χ§ξ£∽!!」
「なんだよ」
「χ§ξ£∽!!」
「わけわかんねぇよ」
舌打ちし、銀介の腹を蹴り飛ばしながら銀介から手を離すと、オレを羽交い絞めにしていた女は、オレに指輪を渡してきた
「ξ£Д!」
「あ? つけろって?」
なんか指に嵌めろ、ってゼスチャーをされた
「………!(こくこく)」
仕方がないから、指輪を嵌めてみた。
銀介も、同じように指輪を嵌めていた。腹を押さえながらオレを睨みつける。死ね。
指輪を凝視してみる
――――――――――
個体名:言語把握の指輪
効果:この指輪を嵌めた者は、竜言語、各大陸人間語、獣人語各種、魔人語、怪人語など、全ての言語がわかるようになり、相手にも言葉が伝わるようになる
呪い:指輪の魔力が尽きるまで外すことができない。魔力が尽きると、指輪は破壊される。
――――――――――
なにこれ。なんなんだよ、この表示は。
意味わかんねえ
なに。
これでなんかあんの?
なんかくれんのか?
「よくぞ召喚に応じてくださいました、勇者様。」
司祭服っぽい何かを来た老人が、そんなことを言い放った。
よく周りを見れば、神聖な雰囲気のある建物の内部だということがわかった。
なんだよここ、教室はどこに行きやがった
ここは………教会、か?
「あ?」
「勇者だぁ?」
オレ達の混乱をよそに、この日とある世界に2人の《勇者》が誕生した。
あとがき
個人的な脳内声優
銀介=岡本信彦
侍刃=鈴木達央
できれば一日置きに投稿したかったんだけど、忙しくて執筆できなかった。申し訳ない。
やっと寝る時間を確保できそうなので、これから少しずつ更新頻度が高くなっていくと思います。
髪の色:この世界のコトワリ。ちなみに、白髪は存在するが、完全な白にはならず、本来の色が薄くなったり部分的に白だったりする。
脱色、着色は不可能である
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