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第33話 二年ぶりの再会

 盗賊に連れられて入ったのは女性用の牢屋。

 ここには女性と子供たちが入れられている。


 女性は人間が5人と、亜人が3人。子供が2人。


 亜人ってのはまぁ人間じゃない人型の生き物ってこと。ここにいるのは獣人だね。

 白いウサギ耳で赤い目の女性と、そのわきには同じウサ耳の男の子。僕と同い年くらいだろうか


 どちらも僕とキラに同情の表情を向ける。


 はいどうも。新入りのリオルです。よろしくねっと。


 ぺこりと頭を下げる。胸に抱えたリールゥを落とさないようにしっかりと抱えながらだけどさ。


 そうだ、リールゥがここにいるんだから、この子をローラの元に返そう。


「キラ。フードつけて。」

「はいなのです」


 キラに頭を隠すように指示をだしてから、壁に力無く体を預けているローラの元に向かう。


 ローラは胡乱な表情でこちらを見つめた



「ローラ?」


「……………え?」




 僕がローラの名を口にすると、間をおいてからローラが聞き返してきた。

 約二年ぶりの再会だ。

 ちょこっとだけ感慨深いものがある。




「リールゥもここに連れてこられたんだよ」



 僕はリールゥをゆっくりとローラに抱かせる。

 『リールゥも』この言い方は、兄弟である僕も連れてこられた、というかなり遠回しな言い方だけど、はたして気づいてくれるのだろうか。



「リールゥ? リールゥ、なの………?」


「魔法屋のおばあちゃんの店の子、だよね?」



 焦点の合わない目でリールゥを見つめるローラ。

 ローラはリールゥを起こさないように優しく抱きしめ、声を殺して泣き始めた。



「まさか、もう一度会えるなんて思わなかった………うぅぅ………」



 どうやら、僕の事はわからないみたいだ。

 バンダナを取ればたぶん気づくだろうけど、また悪魔と呼ばれるのは耐えられない。

 今度は僕がローラに何をするかわからない。


 あの頃と違って、僕は人を殺すことにためらいを覚えなくなってしまっているから。


 一度捨てられた身だけど、やっぱり人に嫌われたくない。

 それも、生みの親に嫌われるのは嫌だよ………


 だったら、ローラには知らせない方がいい。

 かなりローラが憎くて恨んでいる部分もあるけど、それでも、ローラが僕の無事を知って涙してくれる展開を望んでいないと言ったら嘘になる。


 でも、それ以上に、また嫌われてしまうのが怖いんだ。


 だから、ローラには僕が息子だということを告げずに、捕まっているみんなを助けるつもりでいる。



 そのためにはミーティングだ。


(ゼニス。僕は捕らえられている人たちと一緒に牢屋に入っているよ。何分後にここに到着できる?)



『む、そうだな。到着する時間はわからぬが、日が沈んでからアジトに攻め込むつもりでいる。それで何か問題はあるか?』


(えっとね、たぶんそれで大丈夫。ゼニスはどうするつもりなの?)


『うむ。私が合図をしたら、片っ端から盗賊どもを倒してゆく。』


(ありがとう。実にわかりやすい作戦だね。僕は………そうだね。みんなを脱出させる地下トンネルでも作ってみようかな)


『いや、目立つ行動はやめておけ。そこでじっとしておればよい。』


(………わかったよ)


『私が合図をしたら、目くらましをしてくれれば私達も大いに助かるな。』



(了解。作戦は一瞬だね)



 うまくいけばいいけど。




                  ☆



 僕とキラはローラの隣に座る。

 そういえばさっきご飯が出てきた。


 ごはんは黒いパンが人数分。あとは水。いちおう、見た目は綺麗な水だ。

 リールゥ用に離乳食っぽいものもあった。

 正直、それだけじゃ足りない。


 この辺にネズミかゴキブリでもいたら食べてやろうかと思ってたけど、それすらいない。

 あーあ。幼少の頃から生きるために食っていたから、今更虫を食べることに抵抗はないから、おいしくないけど我慢できるのに。

 なにで腹を満たせばいいんだよ。ちぇっ


 トイレは部屋の隅にバケツみたいなものがいくつか置いてあったから、そこで済ませる。


 牢屋の中は退屈だ。


「(コリコリコリ)」

「ん? キラ、何か食べてるの?」

「ん」


 キラが口の中で何かをもごもごしていたから聞いてみると、キラが口から石を取り出した。


「………」



 石を食べていらっしゃった。

 白竜さんは雑食らしい。

 でも石って………雑食にもほどがあるよ!



「きゃあああ! ダメよ! そんなものを食べちゃ!」


 ローラが慌ててキラの手の上にあるよだれだらけの石を掴んで捨てると


「あぅ~………」


 いやいや、残念そうな顔をしないでよ

 そんなに石が食べたかったの!?


 僕も食べてみようかな………

 あ、ローラにジト目で止められた。


「ふぅ………いい? なんでも口に入れちゃだめよ? びっくりしちゃったじゃない!」

「うぅー………」



 キラは石を取られて不機嫌そうにローラから距離を取り、僕の陰にかくれた

 僕を隠れ蓑にするのはやめてよね。


「隠れてもダメよ。こっちにいらっしゃい」

「やー! にーさまー!」


 ひしっと僕にしがみついてローラを拒絶する

 僕は心の中でざまぁと笑う。


「ほーぅら、捕まえたーっ!」


 でも心の中で笑っていたら、ローラはキラを引っぱり出して自分の隣に座らせた

 楽しそうな声をだすローラも、どこか空元気さを感じる。

 当たり前だ。さっきまで酷い扱いをされていたんだから、当然のことだ。


 リールゥと再開してすこし元気が出たようだけど、それはリールゥも売られるということでしかないわけで、素直に喜ぶことはできないのだろう。


「ふふ、女の子、か。」


 キラのフードを外して頭を撫でたローラ。

 キラの白いサラサラした髪が露出する。


「やーん! にーさま、たすけるのですー!」


 キラは人間語にもだいぶ慣れてきてるようだ。

 ちょっと舌ったらずなところもあるけど、ドラゴンの知能の高さには驚かされるな。


「あら、銀髪かしら。綺麗ね……… あら? それにしては白すぎるような………」


「…………。」


 ローラがなにかに気付いたようだけど、僕は何も言わないよ。

 だってその子は神子じゃなくて白竜だもん。

 フード程度だったらいつかはばれる問題だ。

 隠してても意味はない。無理に隠そうとする方が怪しいからね。



「やーめーてー! 」


 キラはローラのなでなでから逃げ出して、僕を挟んだローラの反対側に座って僕の右腕にしがみついた



「ふふっ………。ねえ、お兄ちゃん。ちょっと聞いてくれるかな?」

「………なに?」


 優しい目でキラを見ていたローラは、自身の左隣に寝かしているリールゥの頭を優しく撫でてから僕に聞いてきた

 まさか僕の正体に気付いたのか!? という期待と不安を込めてローラを見上げる。




「わたしはね、この子の他にもあと二人、子供がいたのよ。

 最後に会ったのは、今のその子くらいの大きさだったかな。

 貴方たちみたいに、仲のいい兄妹だったわ。」




 ………。やっぱり、僕とルスカのことか。

 いったい、僕になんの話をするというんだ。



「お父さんやお母さんから聞かされたこともあるかもしれないけど、神子と魔王の子ってわかる?」


「………うん。」



「わたしの子供がね、神子と魔王の子だったの。双子だったわ。

 神子が白い髪の女の子で、魔王の子が黒い髪の男の子よ。」



 ローラの表情は優しい表情から暗い表情に変わる



「女の子は村のみんなから天使だって祝福されたの。」



「……………。………男の子は?」



「黒い髪の男の子は、悪魔として村のみんなから蔑まれてしまったの。

 その頃はまだ神子や魔王の子だって決まったわけじゃなかったから、髪の色にちなんで『天使』と『悪魔』って呼ばれていたわ。」



 その通りだ。僕は蔑まれて道を歩けば石を投げられた。

 ローラと歩いているときも、一人で歩いているときも。


 産まれた時は、家から出ていなくて僕を虐めていたのは親父の姉であるピクシーだけだったけど、僕の姿をみたことのない村の人からも、僕は悪いように言われていたんだろうね。



「髪の色が真っ黒で生まれてしまった男の子は、村の中では間引きするって話があがっちゃったけど、わたしが必死に反対したの。だってそうでしょう? わたしが産んだ子なんだもの。かわいくないわけがないわ。」



「……………。」



「それに、髪の色が黒だってだけで殺されちゃうなんて、かわいそうでしょ?」



 たしかに覚えている。

 僕が産まれてすぐ、僕は間引きされそうになっていたし、ローラはそれを必死で止めていた。

 正直、あの時はこの世界にも絶望したから間引きしてくれた方がうれしかったかもしれないけど、今は間引きされなくてよかったと素直に感謝できる。



「あの時はまだ、わたしは男の子が魔王の子だなんて信じてはいなかったの。

 確かに女の子は髪の色が白だし、男の子は黒だけど、それだけなら、兎人族でも白い髪の子はいるし、猫人族には黒い髪の子が居る。

 だからまだわたしは信じていられたの。この子たちは普通の子だって。それが髪の色が黒だったってだけでわたしの子が迫害されるのは耐えられないわ」



 ………。普通の子、ねぇ。




「でもね、あの子たちが1歳になった時。あの子たちに異変が起こり始めていたのよ。」



「異変?」


「ええ。背中から羽が生えてきたの。女の子からは白い羽が。男の子からは黒い羽が。

 これは、魔王の子と神子の決定的な特徴だから………。」



 もはや疑いようがないと。

 結局、羽はすぐ毟られちゃったけどすぐ再生したしなぁ。


 でも、思い返すとその後すぐに魔法屋のおばあちゃんの家に行ったような気がする。



「だから、わたしはすぐに魔力の属性を判定するために魔法屋のおばあちゃんのお店に行ったのよ。本当はもっと前から属性判定してもよかったはずなんだけど、男の子の属性を見るのがどうしても怖くて………。」



 そうか。魔力が体から滲み出すのは1歳くらいからだって話だったけど、僕とルスカは産まれた時から魔力の量は多い。

 もっと早くから調べていてもよかったはずなんだ。



「調べてみたら、案の定、男の子は闇属性だったのよ。

 人間が闇の属性を持つことはないから、男の子魔王の子だって確定してしまって………。

 嘘だと思ったわ。………その日からわたしも、あの子が怖くなって………。

 気が付いたらわたしも、魔王の子に辛く当たってしまっていたの………。

 あの子は、何もしてないのに………っ!」



「………最低だね。」



 最低だ。


 僕は吐き捨てる。

 怖くなったらその子を虐めていい理由になるのかよ。

 怖くなったら子供にすべての罪をなすりつけていいのかよ


 ふざけるな!

 いいわけがない!


 やられる本人はどう思う。

 辛いだけだ。

 ヘドが出る。




「ええ………。わたしは最低だったのよ。本当に魔王の子だったってわかってから、わたしはあの子の育児を放棄したの。

 でも、それでもあの子は生きていたの。びっくりするかもしれないけど、あの子は虫やネズミを食べて、ずっとずっと、必死で生きようとしていたのよ。

 あの頃のわたしは、それすら気持ち悪く思っていた。虫を食べるなんて、気持ち悪い。ネズミを食べるなんて、気持ち悪いって。

 わたしも村の人たちも、神子ばかりを『天使だ』って可愛がるようになって。」



 ………。この女、僕がどれだけ必死で生を繋ごうとしたのかも知らないで………!

 僕が虫やネズミを食べていたのはなぜだ!

 お前が育児をしなかったからだろう!


 生きるために死力を尽くしている僕を忌避して、自分だけはいいもんを食って!

 なにが気持ち悪いだ! お前らの性根の方がよっぽど気持ち悪いよ!!



「わたしも、悪魔を産んだ魔女だって言われて………おかしくなってたのかもしれないわ………。

 それから2年くらい経ってあの子たちが3歳になった時に、わたしの旦那が魔物に襲われて死んでしまって………。

 そのころにはわたしのお腹にはこの子、リールゥが居ることはわかっていたわ。

 わたしの旦那が死んだ時にね、そのお姉さんが『お前のせいだ』って言って男の子を蹴ったのよ。ほとんどなにも食べていない、ガリガリに痩せた体をね。」



「………本当にその子のせいなの?」



「そんなわけないわ。………でも、わたしもピクシーも………村のみんなも。あの時は悪いことがあったら全部あの子のせいだと思い込んでいたのよ。」



 顔を伏せたローラ。

 その表情はうかがえない。

 だけど、ポタリ、と雫が地面に落ちた。



「馬鹿らしい。その子は何もしていないじゃないか。ローラの旦那が死んだのは旦那のせい。他の誰のせいでもない!」



 こんな話、馬鹿げてる。僕の話だけど聞くに堪えない

 悪いのは誰だ? 全部自己責任じゃないか!

 それを全部子供のせいにして村人で寄ってたかって虐めて!


 狂っているよ!!



「ええ、その通り。誰のせいでもない。責任があるのは本人だけよ。なのに、本当に馬鹿みたいだけど当時は本当にそう思っていたの。

 そして、村のみんなにバチが当たったの。」



「………。何があったの」



 本当は知っている。

 でも話を進めるために続きを促す。


「ドラゴンがね、村を襲ってきたのよ。

 この付近に出現するドラゴンは紫竜。

 紫竜は人をあまり襲わないっていう話だし、あまり警戒はしていなかったから、ドラゴンに対してなすすべなく村は蹂躙された。」



 紫竜の里に住むからわかる。

 紫竜があまり人を襲わないのはゼニスのおかげだ。


 ゼニスは人間が好きだから。

 だからといって、人間を全く襲わないというわけではない。


 人間の育てた家畜を喰らうし、人間も喰らう。

 そもそもドラゴンはあまり腹が減らないというのもある。



「それも全部、魔王の子のせいになった。

 魔法屋のおばあちゃんは神子と魔王の子を生贄として差し出したら村への危害は加えないんじゃないか、って言ってたけど、実際の所は二人を囮にしているうちに逃げ出そう、という話よね。

 結局はみんな、自分たちの保身しか考えていないんだもの。

 わたしもドラゴンから逃げながら、必死で神子と魔王の子を探したわ。

 囮になんてしないで、一緒に連れていくために。

 でも、二人とも見つからなかった。すでにドラゴンに食べられちゃったのかもしれない。

 そう思うと、悲しくなっちゃってね。おかしな話でしょ。

 わたしもずっと蔑んでいたはずなのに、いなくなったら嫌だ、なんて。」



「………ちっ」



 なんだそれ。綺麗ごと抜かしやがって。

 僕が居なくなったら嫌だったのはイジメることができる人が居なくなるのが嫌だっただけなんじゃないのか

 悲しんだら許されるとでも思っているのか?


 ふざけるな! 今までの事を許せるほど、僕は寛大な心をもっているわけじゃない!



「それから、どこを探しても見つからなかったから、生きている人だけで村から出ることにしたの。

 村の馬車に乗り込んでから出てしばらくすると、ドラゴンたちが飛んでいくのが見えた。

 もう村から居なくなったみたいなんだけど………

 あの村はもう復興できそうになかったから破棄していくことにしたわ。」



 そりゃそうだ。

 あれだけ派手に暴れられたら復興なんてできるはずがない。




「………わたしはね、村と一緒に、息子たちを捨てたのよ。

 二人を失ってから気づいたの。………最低よ………。」




 ローラの表情は自己嫌悪に染まっている。

 自分の行いを悔いている。


 だからと言って、僕を虐めてきたのもまた事実だ。


 後悔しているからといって許されることではない。


 これらの話は、僕に聞かせるために言っているようには聞こえない。

 人に聞いてもらって、懺悔をするために言っている。


 それが、僕だということに気付かずに。


 ローラは泥にまみれた手で顔を覆い、




 (「ごめんね、) (ルー。」)






 蚊の鳴くようなか細い声で、ローラは呟いた。


 ローラは俯き、手の隙間から涙が零れる。





 (「守って)  (あげられなくて)  (ごめんね、リオ。」)






 守ってあげられなくてごめん、か。


 はは、最初にローラが約束してたっけ。


 わたしがまもってあげるって言ったのはいつの事だったかな。













「 ふざっけんな!!! 」




 気づけば僕は、腹の底から叫んでいた。


 牢屋の中の人たちが一斉に僕を見た。

 牢を監視していた盗賊も牢の中を見る。


 僕はお構いなしに続けた



「何が守ってあげられなくてごめんだ!! どの口がそれを言うんだ!!

 あんたはその子供が石を投げられているのを見ているのに助けなかった!

 そのくらい簡単に守ってやることもできたのに、守れなかったんじゃない、守らなかったんだ!!

 あんたは自分の子が髪の色が黒いってだけで迫害されるのは耐えられないって言ってたけど、あんたは耐えられないどころか寝返った!!

 守るとかそういう次元の問題じゃない、あんたは迫害する側なんだよ!

 ふざけるのも大概にしてよ!

 魔物が出るのがその子のせい!? 旦那が死んだのも魔王の子のせい!? 村の作物が不作だったらまた魔王の子のせいなのか!?

 ただ日照りが続いただけだろ!? それすらも魔王の子がやったって言えんのかよ、証拠でもあんのかよ!!

 それにあんたはさっき認めたよね! 当時は本当に魔王の子のせいだって思ってたって!

 いわれのない罪を着せられて!! 何もしていないのに全部お前のせいだって罵られるヤツの気持ちが、あんたにはわかんのかァ――!!」



 目を丸くしてこちらを見る面々


「にー、さま?」


 びっくりして僕を見上げるキラをそっと遠くに押す。

 普段怒りという感情を表に出さない僕だけど、この時ばかりは決壊した。


 なにがごめんね、だ。

 後悔するくらいなら最初から見放しとけばいいんだよ。


 そしたらこっちも変な期待しないで済んだのに。



「あんたみたいな人に流されて子供を見捨てるようなヤツを、僕は人とは言わない。

 ローラは最低だよ………。後悔したら捨てられた子は戻ってくるのか!?

 死んだあとで謝ったら全部許してもらえるとでも思っているのか!?

 あんたは後悔はしてても反省なんかこれっぽっちもしていないんだ!

 話を聞いて同情してもらいたいだけだ! 誰がそんな話に同情なんてしてやるもんか!

 何も食べさせてもらえないで暴行を受ける1歳児よりも、この牢の中で堅い黒パンを齧っている方がよっぽど恵まれた環境にあるよ!!

 いい加減にしてよ! 後悔するなら、最初から守ってよ!!

 中途半端に投げ出されて、そういうのが一番迷惑なんだよ!!

 最後までその子は信じていたはずだよ! 『いつかは守ってくれるはずだ』ってさ!!

 でも、なんだそれ! いなくなった後だったらなんだって言えるよ!

 最後の瞬間まで絶望しかなかったであろう、その子の事も、ちょっとは考えてよ!!

 そうじゃないと、あんたはいつか、その子(リールゥ)も捨てることになるよ!」




 聞きに徹していた僕の激昂に、動揺を隠せない様子のローラ。



「あ、あなたにわたしの何がわかるって言うのよ!

 何も知らないあなたに何が言えるの!!

 それに………反省は、してるよ。でも、もう会えないのよ………?

 どうやってそれを伝えるっていうのよ………。」



 僕はふーっ、と息を吐いて心を落ち着かせる。

 なんだこいつ、と僕は内心でローラを軽蔑していた。

 同情してほしいなら死んでしまえ。楽になる。



 僕は自分の境遇を受け入れた。故に絶対に死なない。諦めない。

 だから同情なんていらない。

 ローラのあくまで自分本位な話し方に、僕は飽きていた。



「僕にはローラのことなんてなんにもわからないよ。

 でも、本当に反省はしているんだね。じゃあ聞くよ。

 その魔王の子に会ったら、ローラはまず、なにをするの?」


「だから………もう会えないって………」


「答えて。神子と魔王の子に会ったら、どうする?」



 じっとローラの目を見つめる。

 ローラはしばらく黙考すると、その薄い唇を開いた。



「………謝るわ。」



 それは、真剣に考えた末の一言か。

 謝っても許してやる気はないけど、ローラの誠意は伝わった。

 謝った後の事を知りたいけど、今はそれでいいや。

 その一言だけでは信用には足りないけど、僕は一度だけ、その言葉を信じてみることにした。




「そうだね、謝って、一発殴られてしまえばいい。

 決して許しはしないけど、それで僕は(・・)チャラにしてあげる。

 腹立たしいけど、一応、産みの親だからね。」





「……………………………………え?」






 先ほどまでの暗い表情から、なにを言っているのかわからないといった表情に変わり、ぽかんとローラは口を開けた。



「そうと決まったら、こんな所で捕まっているわけにもいかない。

 早く脱出する方法でも考えよう。

 ほんっとうに腹立たしいけど、これはもう決めたことだから。」


「え? え? どういうこと?」



 なにがなんだかよくわからない様子のローラ。


 母親は大事にしろっていうゼニスとの約束もあるし、今だけは許してあげる。

 これが最初で最後の親孝行だ。



「ここを脱出して、僕とルスカに謝るんでしょ?」



 僕はローラに黒い髪を見せつけるように、頭のバンダナをはぎ取った。

 牢の中で小さな悲鳴が聞こえる。


 ローラは目を見開いてぼくの頭を見た。










「二年ぶりくらいだよね、ローラ。」






 この日、僕とローラは二年ぶりの再会を果たした。








 あとがき。


 リオル君は主人公に向かない不安定な子です。

 母親は殺したいほど憎い、とか言ってますが、死んでいたと思っていたのにいざ情報が入ると本人かどうか確認しないと気が済まない。

 ローラが実際にひどい目に合っていると、貸し借りは関係なく助けてあげたい、と願う。

 しかし、ローラからの話を聞いて再びドロドロした感情が湧きあがるけど、約束もあるし、やはり母親ですからね、信じたいのです。

 リオル君の思考はぐちゃぐちゃにかき回されるように書いているので、作者も混乱しそうです。



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