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第32話 災厄と庇護の魔女 ローラ



 ファンタの町から馬車で4時間ほど離れた場所にそれはあった。


(………ゼニス、アジトに着いたよ。)



 盗賊団のアジトに着いたと同時に糸魔法による念話でゼニスたちに報告する。


 アジトは炭鉱跡地。人工の洞窟だ。

 アジトの規模はわからない。

 僕の糸で内部の様子を隅々まで見て回る。


 内部にいる盗賊の数は32人。入口の見張りに5人。



 そして、僕たちを馬車で攫った盗賊が一人。

 規模は大きいのか小さいのかわからないけど、盗賊の稼ぎでこれだけの人数を食わせていけるのは驚いた。

 この盗賊団は相当腕が立つ連中が多いようだ。



 いつの間にか僕たちの見張りをしていたグッヂが消えていることに気付いたが、それを説明できないようで


「………おい、ほかの4人はどうした。」


「ああ? しらねェよ。しくったんじゃねェのか? 俺は悠長に待っている暇なんてなかったし、時間が来たらすぐに出発した。冒険者から邪魔も入ったしな。死んだかもしれねーが、馬鹿の口減らしができてよかったじゃねェか。とくにグッヂは頭が悪いからいない方がマシかもしれねぇぞ。あいつはすぐ商品を壊しちまう。」


「ハッ、ちがいねぇ」



 冒険者に邪魔されたという実際に合った出来事を報告し、そこで4人が死んだということにしたようだ。

 馬車から消えたとか、逃げたとか言われても理由がわからんものは説明できない。

 嘘も方便。この男、状況を切り抜けるために何をすればいいのかを一瞬で判断できる頭を持っているようだ。

 あと、グッヂ。本当にただ頭の悪い盗賊だったんだな。

 仲間からもそんな風に言われるって………。


 リールゥを抱えて歩く盗賊。

 その後ろに続く僕は、キラの手を引いて、決して逆らわない従順な姿勢を通す。


 糸魔法で洞窟内を調べ回り、宝物庫を見つけた。宝石商人から奪ったのか、宝石や見事に装飾された展示用の剣などが乱雑に置かれていた。


 なるほど。この盗賊団はやっぱりそうとう稼げているようだ。


 次に捉えられている人間がいる牢屋を発見した。


 見張りが二人。


 牢の数は3つ。

 一つは女部屋。一つは男部屋。もう一つは堅く閉ざされていた。隙間くらいはあるだろうから、後で糸で侵入してみよう。


 男部屋といっても12歳以上の少年か17歳くらいの青年までだ。数は3人。

 表情は暗い。

 ファンタの町にいた兵士は女や子供が攫われていると言っていた。

 男がいないわけではなかったのか。


 女部屋には、子供たちも一緒に入っている。

 子供は女性が近くにいる方が安心できるのだろう。


 授乳期の乳児までいた。

 ………ということは、そういうことなのだろう。


 この盗賊団はどんだけ下種いヤツなんだろう。


 牢のなかでは、みんながみんな、絶望の表情をしていた。

 人生をあきらめた人間の目だ。


 気持ち悪いったらありゃしない。

 とりあえず、見たまんまをゼニスに報告する。



 男も女もボロ布を体に巻いていた。

 奴隷として売り払うならば衣服も売っちまって金にするってことかよ!


 そしたら、僕のバンダナも外さないといけなくなる


 くそっ、予想外だった。

 さらっとローラが居ることを確認して脱出する予定だったのに………


 こんなところで魔王の子だとバレるわけには………ん?

 いや、キラがすでに神子だと勘違いされているならば、僕が魔王の子として名乗り出てもいいんじゃないか?

 ………もうなんだっていいや、考えても仕方ない。どうせ裸に剥かれるなら、その時に考えよう。



「なあ、団長は居るか?」


「ああ? 団長なら『あの部屋』で楽しんでるよ。」



 僕たちを運んできた盗賊は団長さんとやらの場所を聞くと、なにやらニヤニヤした盗賊が洞窟の奥を指す。

 そっちは攫われてきた人たちが捕らえられている牢だったはず………

 その方向には 堅く閉ざされた部屋しかなかったはずだ。


 盗賊の下卑は笑みに僕は吐き気がした。

 楽しんでいる。その言葉で僕は理解した。




 あの閉ざされた部屋は、女性を蹂躙するための部屋か!




『いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』



 洞窟の奥から女性の甲高い悲鳴が聞こえてきた


 女部屋の女性たちは顔色を悪くし、子供たちは泣き叫び、寄り添って互いに震える肩を抱き、みんながみんな、涙を流していた

 次は自分かもしれないという恐怖。

 売り飛ばされた先で待ち受けるであろう地獄。


 もはや想像すらできないだろう。



「あぅぅ………にーさま………ここ、こわい………」


 僕は黙ってキラを抱き寄せる。

 キラの教育上、一番よろしくない場所だ、ここは。



「それよりも、おい。お前以外の4人は町から戻っていないって言ったが、頼んでいたものは持ってきたのかよ」


「ああ? ったりめぇだろ。俺を誰だと思ってんだよ。おらよ。」


 僕たちを攫った盗賊が放ったのは道具袋。


 体積に関係なく、指定の重さまで物をいくらでも保管することができる魔法の袋だ。

 その中から数着の服を取り出すと


「ほら、奴隷共に着せてやれ。明日の朝の競りに出す商品が風邪ひいちまったら大変だからな。」


 どうやら服屋をも襲っていたみたいだな、この盗賊。

 そのうえリールゥまで攫うなんて………。あれ? リールゥを攫ったのはグッヂっていう珠になった盗賊の方だっけ? まぁどっちでもいいや。


 ゼニスを出しぬくほど狡猾な頭を持っているこの男、油断はできないね。



「おい、お前らはこっちに来い。あっちの奥の部屋で団長を待つ。」

「………」


 リールゥを抱きかかえた盗賊に促され、牢屋とは逆方向の広い空間のある部屋に連れてこられた。

 壁際に油の入った紐に火がともされた簡易ロウソクみたいなものが等間隔に飾り付けてあって、洞窟の中でも視界には困らない。



 この部屋で盗賊たちが集会などをするのだろうか。

 部屋の中で2,3人ほど寝転がっていた。


 ここは仮眠室代わりの場所でもあるのか?


 男の汗の匂いがきついな、この洞窟。

 盗賊の中に風属性の魔法使いはいないのだろうか。

 そもそも魔法を使える人材というのが少ないし、魔法が使えたらわざわざ盗賊なんてしなくても設ける道はいっぱいあるはずか。


 せめてちゃんと喚起してほしい。

 それとも、盗賊たちはすでにこの匂いに慣れきって鼻が利かなくなっているのか?




『ぁっぁっぁ、ゃっ ぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………………!!!』





 洞窟の奥で女性の悲鳴が聞こえる洞窟。

 胸糞悪い。


 散々最低な人間を見てきた僕だけど、ここまで最低な人間を直接見たのは初めてだ。


 こんなことなら途中でこの盗賊を殺してゼニスに回収してもらった方がマシだった。

 そもそも、僕はローラを救出する気はあまり無い。


 だって、生みの親と言っても、僕を蔑んだ張本人だよ。

 ゼニスは母親は大事にしろって言ったけど、それは今の僕には難しいよ。


 僕はそれを母親だとは認めたくない。


 ローラは僕の“初めてのお母さん”だ。

 なのに、僕の母親をしてくれるのは、ゼニスだ。

 親としての責任を果たせない人を、僕はどうして親だと認めようものか。


 一応、生まれてから1年まではローラに育ててもらった『借り』がある。


 恩は感じない。借りだ。


 僕はそれを返済したいんだ。



『おい、リオル。母親は見つかったか?』




 ゼニスが糸を伝って問いかけてきた。


(ううん。捜索してるけど、それっぽい人は居ないみたい。)



 僕を攫ったこの盗賊はローラが魔王の子と神子を産んだということを知っていた。

 それはそうかもしれないな。


 魔王の子や神子はみんなが知っているような物語に出てくる英雄と悪者の典型なんだ。

 それが産まれたとあっちゃ騒がれないほうがおかしい。


 今までは触らぬ神や悪魔に祟りなしってことであの村で何者にも干渉されることなく育てさせてもらっていたけどさ。

 それでも僕は石を投げられたから腹は立っているけどね!



 それにしても、2年くらい経ってても一応は母親だ。

 顔を忘れたわけではないし、姿が多少変わっていても見分けは付くはずなのに


 ………いや、待て。


 まだ一つ見てない部屋があったじゃないか。



 嫌な予感がする中、『あの部屋』と呼ばれた部屋に、糸で内部に侵入してみようとすると、おっとっと、『あの部屋』のドアが開いた。


 その中から、男が一人の女性を抱えて出てきた


 その女性は金髪で、年は20歳くらいに見えるが、実年齢はもうすこし低いだろう。



『ちっ! こいつが本当に神子と魔王の子を産んだ母親かよ。もうちょっと楽しませろっての』



 男の年は40代後半。

 肉付きがよく、無精ひげを生やしている。

 不衛生な感じがするいかにもな盗賊の親玉だ。


 男は抱えた女性を女性の牢へと放り込むと………ありゃりゃ、こちらに向かって歩いてきた



 僕は涙とよだれでぐしょぐしょになった女の人の顔を糸で回り込んでよく見てみる。


 ――――っ!!


 あー、くっそ! 悪い予感が的中してしまったみたいだ



(ゼニス。母親を発見したよ。でも、あまりにもむごい状態だ。)


『………状況を話せるか?』


 ゼニスは言いにくそうに切り出すと、僕は少しためらったけど見たまんまを伝えることにした。


(………犯されて牢屋に放り込まれた。僕を捨てた母親とはいえ、いい気分はしないね。

 あとどれくらいでここに着く?)



 そんなことを話すだけで気分が悪い。すぐに話をそらした。


『糸だけでは距離が掴めんから何とも言えんな。――――ん? おい、リオル。糸を辿っていたら赤い珠と血まみれの衣服を見つけたんだが、これはお前の魔力がかすかに残っている。一体なんだ?』


(ああ、それ? 僕に向かって切りかかってきた愚か者の末路だよ。ちょっとぎゅっとしたら花火みたいにブシャーン! って赤い花が咲いて面白かったよ。)


『………』


(あの、冗談だからね? ちょっと新技試したらそうなっちゃった)


『ふぅ………。お前をすぐに追わなかった私のミスだな。リオル。絶対に感情的に動くな。

 そして、絶対に相手を挑発するな。お前は無意識に挑発してしまう癖があるように感じる。

 自らの身を危険にさらしている原因を作ったのは自分だという自覚を持て』



(む、心外だなー。僕はいつだって平常心だよ。僕は自分から喧嘩なんか売らないもん!)


『………ふむ、それならいいのだが………心配だ。気をつけるのだぞ。』



 わかってるよ。


 と返事をしつつ、ローラの方に意識を向けると、女性たちが駆け寄って介抱していた。


 僕には彼女の気持ちはわからないけど、表情に絶望しか浮かんでこない

 みているだけで可哀想な光景だ。

 貸し借りは関係ないな。早いところ助けてあげたい。




「う~~い。おっ! ダズ! 帰ってきたみてぇだな!」


 僕たちが居る部屋のドアを開けて先ほどの男が入ってきた。

 何日も風呂に入っていないようなツンとした臭気がただよう。


 キラが鼻を押さえたのも無理ない。


「おう。団長もな。元気そうで何よりだ。」

「アホ。てめぇがアジト出発したのは昨日じゃねぇか。それよりよ、そのガキがァ、あのローラって女のガキか?」

「ああ。こいつがリールゥだ。つっても見た目は普通だな。《魔王の子》《神子》を産んでんだから、今度も得体のしれないなにかを産むのかと思いきや、がっかりだな」



 僕たちを攫った方の盗賊はダズと言うらしい。

 戦闘能力が高いので要注意人物だ。


 それにしても………僕とルスカを産んで、次はリールゥ? 

 なんだそれ? それに、ローラの子供? 訳が分からない。


 その言い方だと、このリールゥはローラの息子ってこと?


 じゃあじゃあ、リールゥは僕の弟なわけ?

 意味が分からない。わからないことだらけで混乱する




「ねえ、リールゥって、ローラの子供なの?」




 混乱しすぎた僕がつい、口を挟んでしまった


 ダズは大男にリールゥを抱かせる。さすがにこいつらは赤い珠(グッヂ)よりは子供を丁重に扱うようで安心した。

 ちなみに、リールゥは今は寝ている。


「あん? そっちのガキどもは?」


 団長と呼ばれた大男。この盗賊団のボスだろう。

 ようやく僕の存在に気付いた団長が僕とキラを見下ろす。

 足が震えた。ぎゅっとキラの手を握ると


「う~~~~~!!」


 キラは僕の背中に回って団長を威嚇する。



「キラ、静かにして。」

「………むー!」


 キラを庇いながら、僕は返答を待つ。



「団長の読み通り、魔王の子と神子はあの町に隠れていたみたいだ。

 腕のいい冒険者を雇って宿屋で匿っていたみたいだ。俺とグッヂ以外の連中はみんなそいつにやられた。グッヂの奴は途中で怖気づいて逃げたのかもしれん。

 こいつ、(リールゥ)だけでも御の字だってのに、まさか本当に魔王の子や神子が居るとは思わなかったぜ。コレはでかい商売になるぞ!

 つっても、魔王の子は取り逃がしたが、このガキでも奴隷商に売りゃあ結構な金になんだろ。」


「ほう! ダズー! いい仕事すんじゃねぇか! さすが俺の相棒だぜ!」


 バシバシとダズを叩いた団長は、そのあとしゃがんでぼくの頭を鷲掴みにした。

 バンダナがずれないか内心かなりドキドキ。

 そして臭気によって鼻がねじ曲がるどころか、ドリルしそうです。

 どっかいってくれないかな。


「坊主は災難だったな。リールゥを拉致する過程で攫われたんだろ? おっと、そういやさっきなんか聞いてたな。なんだったか?」


「リールゥは、ローラの子なの?」


「ああ、そうそう。そうさ! あの災厄と庇護の魔女、ローラの子だ! 噂じゃ《魔王の子》と《神子》はドラゴンが村に攻めてきた過程で死んだそうだが、オレぁ二人の存在をごまかす嘘だと思っててなぁ。案の定、ここに神子がいるってんでオレもびっくり仰天よ!」


 災厄と庇護の魔女、ね。魔王の子と神子を産んだ女って意味か。


 僕たちがファンタの町に到着するちょっと前にローラが攫われた、と。

 ババアが『まだ帰ってきていない』的なことを言ってたような気がする。



 それでタイミングよく僕たちがファンタの町に到着

 さらにタイミングよくマイケルとキラの擬人化

 もっとタイミングよく盗賊の襲来。

 結局、タイミングがズレてマイケルではなく僕が攫われた、と。


 ふざけんな。タイミング合いすぎだろ、いい加減にしろ!


 ………どうやら本当にリールゥは僕の弟だったようだ。

 リールゥの年齢はわからない。こんなところで初めて弟に会うとは。

 運命とは奇妙なものだね! ちくしょう!


 この子は見た目で言えば、生後1年半くらいだとおもう。


 となると、ローラは二年前に紫竜が村を襲った時、すでに妊娠していたということか。


 ちょっと脳みそを高速回転させてみる。


 リールゥが1歳半だとすると、僕が3歳の時、僕に無関心のパパが死んだ。その時、ローラはすでに妊娠していたことになる

 紫竜が村に攻めてきたとき、ローラは17歳で妊娠20週くらいかな。


 親父が居ないのにとくに働いたりしていなかったから不思議だったけど、なるほど、妊娠していたからなのか。

 そして、なんとか逃げのびて僕が4歳になったころくらいにリールゥは生後半年。このくらいがフィアルに出会ったころだと思う。

 で、今はもうすぐ5歳の僕と、リールゥは生後1年半。ローラはもう18歳とそこそこってところかな?



「坊主はともかく、神子と魔女の方は明日朝の奴隷市で出品する。

 これは大きな金が動くぞ! おいダズ! こいつらを牢屋に放り込んでおけ!」


「ハハッ! あいよ!」



 リールゥをダズに返し、団長は笑いながら洞窟の奥に行った。

 団長の部屋だろうか。



「おい、ついて来い」



 ………げ! やっぱりこの時が来たか………

 僕の服も脱がされてボロ布を渡されるのだろうか。


 キラは僕があげたフードつきの上着しか着ていないけど、僕は肌着とズボンとバンダナがある。

 それを外されるわけには………!


「ほら、こいつを持って、ここに入れ。」


 と思っていたら、リールゥを押し付けられてから背中を押されて、女性や子供たちが入れられている牢屋の中に入れられた

 おや? こんな怪しいバンダナを外さなくてもいいのかい?

 服もこのままでいいのかい?


 まぁ、僕が気にしているだけで、他の人にとってはバンダナなんて心底どうでもいいだろうな。


 それなら都合がいいね。


 盗賊がずぼらで助かった。




 こうして、僕は牢屋の中に投獄させられた。



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