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第125話 この小さな体が恨めしい



「おもったよりも拍子抜けだったね」



 騎士団からの聞き取りの帰り道。

 思っていたよりもあっさりと解放されたことにほっとしてそんな言葉を漏らす。


「そうね」

「バンダナのことを聞かれた時はちょっと焦ったけど、疑念はあっても無理やり聞き出そうって感じではなかったからね」


 相槌を打つファンちゃん。

 知らない人と話すのは緊張していたみたいだけど、ファンちゃんも成長してしっかりと自分を持っている。

 視線さえ怖がらなければ、仲良くなれるのだから。


「そもそも、魔法騎士学校に魔王の子や神子がわざわざ入学するか? なんて疑問もあるかもね」


 ラピス君の言葉にも頷くしかない。


「そうだとしても疑われているという事実は残りそうね」


 

 とのファンちゃんの言葉も正しい。

 魔王の子や神子が神子がわざわざ入学するだろうか。でもバンダナで髪を隠している。怪しいのは間違いない。

 そういう思考になってもおかしくないのだから。


「ばれたとしても、流れに身を任すしかないし、いざとなったら僕は族長たちの力を借りるよ」

「Sランクのコネね。」

「コネくり回してがっちり守ってもらわないとね」


 魔眼のゼニスにジン。いざとなったらシゲ爺もいる。

 強力なコネを頼りに、自分の身を守っていかないと―――



 なんて考えていたら、周囲の人たちが慌ただしく騒いでいるのが見える



「なんだろう………」


 衛兵さんが焦ったように走っているのを見ると、こちらまで不安になる


「何かあったんですか?」



 ラピス君が近くにいたおじさんに聞いてみると、獣人であるラピス君に眉を寄せたものの、おじさんは面倒くさそうに


「人さらいだよ。黒竜の牙っつう犯罪組織のやつが、どうやらどっかの孤児院で人さらいを行ったらしい。今騎士団と衛兵が一緒になって探してる」


「………なるほど? でも衛兵も騎士団も探しているって珍しいですね。孤児をわざわざ捜索するかな」


 ラピス君が首を捻る。

 この世界の命の重みは驚くほど軽いし、もはや驚くことないほどほど価値は安い。

 奴隷の売買もさることながら、孤児の売買。人さらいもざらだ。

 なんなら僕も攫われた経験があるからよくわかる。 


「いや、攫われたのはその孤児院の院長らしい。この王都ではそこの孤児院の世話になった大人も多い。人望の有る院長だから、衛兵も騎士団も血眼になって探しているみたいだ。」




 人望の有る、孤児院の院長?


 は?


 どういうこと?


「それって、どこの孤児院ですか!?」


 僕は慌てておじさんに詳しく話を聞くと




「たしか、教会に隣接していた孤児院だったはずだ」




「 ―――っ!!? 」


「リオル、それって!」

「アリス先生なの!」


 このタイミングで!? 人さらい。しかもアリス院長を!?



「………バカにしてやがる!」



 いつもいつも、僕の幸せを端から摘んでいく。

 この世界はよほど僕のことが嫌いらしい



「孤児院に急ごう!」

「そうだね!」

「わかったの!」

「ええ!」




 僕は念話でフィアルに『孤児院長のアリス院長が誘拐されたらしい。僕たちはすぐに孤児院に向かうよ!』と連絡を入れると、若干焦ったフィアルから『わかった!』との返答が入る。


 孤児院のアリス院長には糸は繋いでいない。

 糸から見える景色も、自らに隠蔽の魔眼を掛けているアリス院長を映さないので、そもそもアリス院長を見つけることができない。


 

「最悪だ………」




 僕は黒竜の牙という犯罪組織のことを甘く見ていたのかもしれない





          ☆



 孤児院に到着すると、そこには人だかりはなく、衛兵が数名いるだけだった。



「あの、ここで何があったのですか?」


 僕が衛兵さんにそう聞くと


「子供には関係ないよ。」



 と、面倒くさそうに追い払われそうになる。だけどそれで引き下がれるほど僕らは大人じゃない


「関係なくありません。アリス院長は知り合いなんです。個々の子供たちとも友達で、ここで何があったのか、本当のことが知りたいんです。子供たちは無事ですか? 先生は?」


 僕の剣幕に押されたのか、衛兵さんはしょうがなさそうに口を開いた


「被害者はもう見つかってこの孤児院に戻っている。」


 そんなことを言われると、は? となるのは当然のことでなんでそんなにみんなあわてているのかがわからなくなる。


 考えてらちがあかないので、糸を館内に忍ばせてみると


「子供たちはいるみたい。院長室に集まっている? あれ、でもイズミさんがいない?」


「とにかく行ってみるしかないわね」


 衛兵さんの脇を通り抜ける。


「あっ! ………まあいいか」


 衛兵さんは僕たちを止めようとしたけど、知り合いだと言っているからか、懐いている子供だとでもおもったのか、絶対に止めようとはしなかった。



         ☆



 どたどたと館内に足音を響かせながら院長室に向かうと


「アリス先生!」


「あら、みなさんお揃いで………。こんな姿で申し訳ございません」


 院長室で椅子に座って執務をするアリス院長。


「ボロボロじゃないですか! すぐに休んでください!!」



 アリス先生は何度も殴られたようなあざを顔に残し、いたるところに包帯を巻いていた。



「なにがあったんですか!」


「子供達には関係のないことです」



「関係なくないです! 僕たちのせいですか!? 僕たちが、ここに遊びに来ているから、僕らじゃなくて先生に暴力を!」


「関係ありません」


「関係ないことなんてないよ! 何があったのか話してください!!」


 頑なに関係ないと言い張るアリス先生だけど、こちだってそれを聞かないと納得できない。


「はぁ………」



 と、大きく息を吐いたアリス先生は、「みなさん、先生ちょっと大事な話がありますので、部屋から出て下さい」


 と、部屋に残る子供たちを追い出して、僕たちだけを残すと



「………あの、アリス院長、イズミさんの姿が見えないのですが………」


「イズミさんとユーちゃんは地下の方で匿っております。」


 どうやらイズミさんは例の転移装置の前にいるそうだ。

 糸を伸ばして確認を取ると、たしかにイズミさんとユーコちゃん。

 いっしょにリールゥとサナも地下の方にいた。


「………先生のけがと、イズミさんたちが地下にいることに関係性はありそうですね」


「ええ。私を攫おうとしたのは、黒竜の牙と呼ばれるならず者たちでした。」


「………。」


「彼らが押し入ってくる姿を未来視で見えたため、急きょ、ユーちゃんとリールゥ、サナを地下へと避難させました。子守としてイズミさんを一緒に地下へ向かわせました。」


「………うん」


「この孤児院に押し入ってきた彼らはしきりに聞いてきました。バンダナのガキはどこだと。ここに連れてきた赤い髪の女はどこだ、買った子供はどこにいると。」


「っ………!」


「当然、私は黙秘しました。当然です。子供たちを守るのが私の仕事なのですから。」


 そういうと、アリス先生は包帯の巻いてある腕をさする。


「おそらく、彼らは毒物事件の方のアントン教諭が連行されたことがまだ伝わっていないのでしょう。昨日の今日ですからね。彼らはリールゥがいた孤児院から情報を得て、戸籍票を確認してこちらに来たようです。口止めをされていたそうですが、その孤児院の院長が大金をつかまされたことも漏らしてしまったそうで、金の出どころであるイズミさんとリールゥ、サナも狙われていることがわかりました。」


「うう………」


「………ここに来た彼らに連れ出されそうになり、暴行を受けました。私は隠蔽と未来視、偽装などはありますが攻撃用の魔眼を持ちませんので。」


「だから、いいようにやられちゃったの?」


「幸いにして子供たちは無事ですし、騒ぎに気付いた隣の教会の方がすぐに騎士団を呼んで出さったおかげで大したケガもしておりません。」


「でも、殴られたんでしょ!? 完全に僕らのとばっちりじゃないか!! くそっ!!!」


 僕のせいだ。


 僕がリールゥをここに置こうとしたから。


 自分じゃ面倒を見切れないからって、人を頼ったから。


 ………この子供の身体が恨めしい。








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