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第122話 自爆

昨日も投稿してるよ



 念話で『ついたよ』と連絡を貰ったので玄関を開けると



「こんにちは」


 とフィアルが菓子折りをもって立っていた


「ようこそおいでくださいました。わたしはここの孤児院長を務めさせていただいております、アリスと申します」

「わたしはフィアル・サックと申します。リオルたちがお世話になっております。どうぞこちらつまらないものですが、みなさんで食べてください」



 ぺこりペこリと営業スマイルの挨拶合戦。

 どちらも社会人だと丁寧だね

 フィアルは僕らが迷惑をかけていると判断して菓子折りを用意するなんて………いや、まあ当然っちゃ当然か。

 


「そ、そんな、すみません、わざわざ………」

「いえ、ウチの子たちがご迷惑をかけているのですから、このくらいはさせてください。面倒を見てくださってありがとうございます」

 

 そうまで言われてはアリス院長としては受け取らない訳にもいかないらしく、申し訳なさそうに受け取った。


「それじゃあ、リオル、帰るよ。みんなを呼んで――」

「あ、まってください! 事情はリオルさんたちから聞いています!お忙しいところ本当にすみませんがおねがいします!」



 さっそく僕らを連れて帰ろうとしていたフィアルだけど、それをアリス院長が引き留めた。


「え、えっと………」


「僕からもお願い。この人、子供が大好きでさ、僕らから毒物事件のこと聞いて、詳しい話を聞きたいんだって。」

「そ、それは………」

「お願いします。子供たちが危険な目に合っているというのは、私には耐えられないのです!」

「アリス院長の子供を想う気持ちは僕が保証する。頼りになる具合は族長レベルだ。」

「………わかりました。あまり他人を巻き込みたくないですが………」

「僕もそう思っているんだけどね………」


 いや、さっきのセリフを聞いて、心苦しいけれど、頼ることにしたよ。



          ☆



 さっそく、院長室に全員集合してもらって、作戦会議だ。



「狭くて申し訳ございません………。」

「いえ………うちの子たちの人数が多すぎてもうしわけないです」



 院長室は広いといっても、本来はアリス先生の事務室だ。

 書斎といってもいいかも。

 そんな本来一人だけの部屋に何人も押しかけている状態の方が申し訳ないよ。


 対談くらいはできるけど、会議室じゃないもんね。


 僕とルスカとラピス君、ファンちゃんといった子供組は椅子に、キラケルとミミロの竜族僕らの後ろで立って、フィアルとイズミ先生はアリス先生にも座ってもらうために椅子に腰かける。


 

「毒物事件についての結論から言うと、アントン先生が毒を混ぜた犯人。騎士団の調べた動機によると、腹いせだって。」


 と、騎士団の取り調べの結果を僕らに報告するフィアル先生。

 ただ、アリス院長の書斎で、ほぼ初対面のアリス院長に説明しているからか、若干の緊張が見られる。


「やっぱり、サナを無理やり引き取ったから、かな」

「おそらくね」


 ラピス君のつぶやきに応えると、ラピス君がギュッと胸の服を掴む。 


「あのときは最善だったよ。気にしないで」


 そんなラピス君の背中に手を当ててポンポン。

 ラピス君が居なければ僕は何もできなかったはずだし、ラピス君が気にすることじゃないのにな。


「うん………」


 ぽてっと僕の肩に頭を預けるラピス君。長いウサ耳が頬をくすぐってこそばい。

 というか、どさくさで何してんの。


「あで!」


 側頭部で頭突きしといた。



「それと………実は、結構前から学食に毒を混ぜていたみたいでね………最近、学校を休んでいる子が多いでしょ? それも、アルミナの毒のせいなんだよ」

「えええ!?」

「本当!?」

「ボクも今まで気づかなかったのか………未来視や鑑定眼を持っているのに………意味ないよ………」

「わかるほうがすごいの、ラピスくん」

「そうよ。ラピスが気づかなかったらもっとたいへんなことになっていたはずよ」



 みんなでラピス君を励ますことになった。

 いつも快活なラピス君がへこむところなんてみんな見たくないんだよ。


「どくどく草の毒が使用されたのは?」

「今日が初めてみたい。あまりにケロッとしているからしびれを切らしたんじゃないかな?ほら、リオルって魔力測定の時、魔力を一切出さなかったから、赤クラスに居るのがインチキみたいに思われていたし、本当に中級の魔力を持っているとは思っていなかったんじゃないかな」

「ああ………だからインチキ小僧って………」



 魔力譲渡で無理やり水晶を光らせたんだった。

 僕はほら、過剰にありすぎる魔力をカッチカチに圧縮しちゃってるから、身体から魔力が漏れないんだよね………



「そもそも、アルミナの毒は魔力が多い人相手には効かない。中級以上の魔力を持つ人には効果はないの。被害にあった生徒で2年生の生徒が多いからね。毒を無効化できるほどの魔力を持った子なんて赤クラスでも少ないのよ」


 賢人級以上の魔力をもつ僕らには当然、効果はない、と。

 編入の時に水晶を光らせたから中級以上の魔力を持っているのは間違いないから赤クラスに通されたはずなんだけどね


「僕らに大事無くてよかったよ。」

「そうなんだけど………被害は上級生や貴族にも及んでいるから、アントン先生は詳しく取り調べ、尋問を受けることになると思う」


 自業自得じゃんか。


「経緯はわかった。アントン先生の処遇は?」

「本人も貴族とはいえ、多数の貴族が居るこの学校で、しかも他国の姫までも害そうとしたことは非常に重いのよ。極刑は免れないでしょうね」

「ふぅん………」


 南大陸の第二王女であるリコッタちゃんは王族であるがゆえに豊富な魔力を持ち、それゆえ魔力量の多い子にしか聞かない毒は効かなかったと。

 だからといって、人体に害成すものを混ぜていた事実はかわらない、と。


「なんか、見事な自爆を見た気がする」

「全部ラピスのおかげよ。あの時食堂でみんなに注意していなかったら、もっと被害が出ていた可能性があるし、わたしたちだっていつかどくどく草を食べてしまう日が来たかもしれないもの」

「ラピス君のおかげなの!」



 ため息を吐く僕と、ファンちゃんは少しだけラピス君のことを苦手としているようだけど、ラピス君の能力のことは評価しているらしい。

 ルスカも同じように便乗してラピス君を褒めていた。


「アントン先生がどうにかなってしまうのはわかった。でも、尋問の結果、私怨だとしても孤児院でのことが表ざたになることってありえるんじゃない?」

「………そこが気がかりでありますね。アントン先生の置き土産として、暴力団とリオ殿たちに細い線がつながってしまいました」

「ああ………たしかに。はさみで切りたい」

「そうそう切れないものですよ。縁も私怨も関係も。」



 はぁ、と僕がさらにため息をつくと


「あ、そうだ。リオルにも騎士団から聞き取り調査が来ると思うよ」


「逃げたい」


「そうも言ってられないよ。リオルだけ殺意マシマシでどくどく草なんて混ぜられているのだから、重要参考人だよ」


「どんな言い訳すればいいんだろう? ほぼ確実に例の孤児院まで調査が行きつきそうだけど。リールゥとサナが弟妹だから売られる前に買い取ったなんて言ったら詳しく調べられたら僕が魔王の子だってことまで辿られない?」


「そんな馬鹿正直に言ったらそうでしょうね。でも、リオルには頼れる大人は多いでしょ。買い取ったのはイズミよ。そこを話す必要まではないわ」


 と、フィアルがイズミさんを指す。

 いつの間にか呼び捨てになる仲なんだね。


「シナリオとしては、私とリオルたちは、シゲ爺の道場で知り合った。というていで、ええと、わたしはフィアルに会いに来たという感じでしょうか………サナとリールゥを買い取る理由にはなりませんね」

「孤児院に一緒に居た理由は、僕らの第二の保護者であるから。例の孤児院の柵から王都の外に生徒たちがが出て行ってしまったのを聞いて事実を聞きに来たから。ついでに僕らみたいな身元不明の子供達から弟子を取ろうと思った、とか」

「言い訳として、くるしいの」


 イズミさんが顎に手を当ててシナリオを作り、僕が補間するが

 眉根を寄せながらルスカが指摘する。

 やっぱりそうだよね………


「ルスカちゃん、多少苦しくても、だいたいこういう路線になるとおもうよ。ただ、ボクらが示し合わせる必要はない。こういうのは詳しいことは子供だから「わかんない」と言っておくんだ。一緒に行動していた理由は知り合いだから。」


 ラピス君が頭を人差し指でトントンと叩きながら穴のあるシナリオをさらに穴だらけにしていく。

 無理に設定を詰め込む必要はなく、ふわっとしたシナリオだけ用意しておく、と。

 あとはイズミさんに丸投げってね。


「責任重大、ですね。」

「気負わないで、イズミさん。僕の個人的な事情でなんだか大事に巻き込んで申し訳ないけど、いざとなったら逃げればいいんだよ。」

「いえ、優子に会うためでしたらこのくらい、なんでもないですよ」



 頼りになりすぎる。

 イズミさんが僕らのために人肌もふた肌も脱いでくれている。

 そんな彼女を見てからラピス君が僕にこそっと耳打ちする


「リオっち、リオっち」


 と僕をそう呼ぶときはだいたいからかう時だ。


「なに?」

「リオルくんって、頼れる大人に恵まれているよね」




 実は僕もそう思う。






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