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私なんて

作者: 相口夏来

 半年ぶりの再会という事で、随分わくわくしている。



 池袋駅を出て何駅を過ぎただろうか、懐の招待状に記された駅にたどり着き、私は他の乗客と同様に電車を降り、階段を登って案内板を確認しながら左手に曲がり、少し広めな改札口を出た。


 そこから歩いて三分もせずに、ホテルは見つかった。

 逸る気持ちを抑えて、ホテルの雰囲気に相応しい落ち着きを持って、会場まで向かった。


 到着すると、口を閉じた扉だけが待ち構えていた。

 ドアボーイもおらず、受付もない。


 まあ、受付がないのは分かる。別にこんな人気のない廊下に誰か一人を残すこともない。

 きっと中で、既にクロカワくんが私が来たことを見ているのだろう。


 その事に気付いて、私は扉の前で逡巡しているのが急に恥ずかしくなり、慌てて身なりを整え、さっそく中に入った。


「ほうら! お前の分も取っておいたぞ!」


 入るやいなや声を掛けてきたのは、やっぱりクロカワくんだった。

 シャンパンの入ったグラスを渡してきた。


「どうしたんだよ、ちょっと遅くなかったか?」

「仕事押し付けられちゃて…」

「仕事って、あの事務?」

「そうよ」


 クロカワくんに続いて、次にやってきたのはニシザワさんだった。


「あーっ! 久しぶりーっ!」

「あっ、いっちゃんじゃん! 今日は来れたんだね!」

「半年前のはタイミングが悪くてね…でも、元気そうで何より」

「お互いに」


 ニシザワさんと思わず微笑みあった。

 すると、その陰からナカムラが出てきた。


「なに、まだあの事務やってんの?」

「え? いっちゃんって事務やってるの?」

「そうだよ。印刷会社のOL」

「嘘でしょ! せっかくの力、なんで使わないの?」

「こんな力がおおっぴらに使える場所なんてあると思う?」

「それはそうだけどね…」

「もったいねえ! なあ、ヒグチもそう思うだろ!」


 ナカムラが勝手に誰かを呼んだ。聞き慣れない名前だった。

 振り向いてみると、ナカムラと同じくらい背の高い、けれど黒髪の、どこか清潔な印象を持たせる男性が立っていた。ヒグチというのか。


「こちら、どちらさま?」

「ヒグチさん。俺が三ヶ月くらいまえに知りあって、今回はじめて連れてきたの」

「へえ。あなたは、何が使えるんですか?」

「私は機械関係です。磁石をベースにした能力でして」

「マジメに話すんじゃねえよ! せっかくの場なんだから、もうちょっと盛り上がっていこうぜ」


 ナカムラが茶々を入れると、ヒグチさんは困ったような笑みを浮かべた。

 ホテルに相応しい、もっといえば一般的な人のように見えた。


「そういえば、あなたのお名前は?」

「あ、私はカミヤと云います。カミヤイチコ」

「イチコさん、ですか」

「そうそう、いっちゃん」

「いっちゃんさん、ですかね」


 思わず吹き出してしまった。自然と笑いがこみあがってきた。


「まあ、そうですね。はい、じゃあいっちゃんさんで」

「いっちゃんさんは、事務の仕事をなさってるんですか?」

「ええ。印刷会社で」

「となると、やっぱり読み取る方面の能力なんですか」


 すかさずナカムラが言ってくる。


「違う違う! コイツは真逆。力持ちなんだよ」

「あっ、ちょっと!」


 慌ててナカムラに向かって声を上げてしまい、私は急にしおらしくヒグチさんの方を見た。

 思わず目が合った。意外そうに丸くした目をまっすぐ向けてきていた。


「えっ。では…サイコキネシス」

「…は、はい」

「随分と華奢なお体ですので、意外でした」

「だろお? こいつ、自分の能力全然使わないんだぜ」

「いっちゃん、いつも疲れるって言って」


 居た堪れない心地だった。

 能力の暴露でさえ顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに、何より同じ能力者に向かってそんな事を言わなくても、と声を荒らげたくなった。


 それでも、ヒグチさんの笑みは大人びていた。


「面白いですね。皆さん、見た目相応な能力の中で。良いと思いますよ」


 とくんと心臓がはねた。

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