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寝て起きたら次は当然……

 朝目が覚めると、隣はもぬけの空。

 寝室から出て彼の姿を探すが見当たらない。


 時間はすでに9時を回ってる。

 今日は金曜日、普通の社会人ならすでに出勤している時間。

 姿が見当たらないことに納得する。


 私は洗濯乾燥機のところへ行って、自分の服を取り出す。


 そういえば、昨夜は結局ノーパンで寝てしまった。

 しかも男の人と1つのベッドで熟睡。

 今までの私では考えられないこと。


 シャツとパーカー、ショートパンツを素早く身につける。

 ニーソックスは履かず、猫耳カチューシャとしっぽのキーホルダーもつけない。

 3月に入って気温はだいぶ温かくなってたし、この部屋は日当たりが良く暖房がなくても十分温かかった。


 窓から外を眺めていると、お腹がきゅーっと鳴いて自分の状態を知らせてくる。

 けれど、人様の家のものを勝手に触るわけにはいかないし、あまつさえ冷蔵庫の物を食べるわけにはいかない。

 かといって鍵もないのに外には出られないし……。


 一度外に出たらここのシステム上、もう2度と部屋には入れないだろう。

 だいたいの帰宅時間は判っているとはいえ、彼が帰宅するのを待ってもまた彼に拾ってもらえる保障はない。


 散々悩んで、結局私は空腹を我慢することにした。


 しかし、お腹すいた状態で何もすることがない。

 そのことに苦痛を感じる。


 私の所持品は、お財布、携帯、家の鍵、極太油性ペン。

 これだけじゃ何も出来ない。


 ちらりとテレビを見る。


 きっと彼は勝手にテレビをつけても怒らないとは思う。

 そう思ってもテレビを点けることには躊躇いがあった。


 馬鹿みたいに真面目な自分が嫌なくせに、こうして私はその枠から出られない。


 私はリモコンをがつっと掴んで電源ボタンを押す。

 テレビの画面が現れると、達成感を感じて嬉しくなる。


 さすがに冷蔵庫を開けることは無理そうだけど、テレビくらいはつけられるんだから!

 そう、自慢げに思いつつ、私はテレビのチャンネルを変えた。

 








 陽がすっかり暮れて、時間はそろそろ10時になる。

 もう少ししたら彼が帰ってくるだろう。


 私はニーソックスを履き、カチューシャとしっぽをつける。


 空腹感はすでにマックスで、お腹はずーっと自分の主張を誇示してきていた。

 人間1日食べないくらいじゃ死んだりしないけど、頭の中は食べ物のことばかり。

 テレビを見ながらごろごろと転がる。


 何をしても空腹感はごまかせない。


 切ないため息をついた時だった、電子音が響いてドアの開く音が聞こえた。


 帰って来た!

 ご飯!


 嬉しさのあまり、急いで玄関へ向かう。


 彼はコンビニの袋を提げて、靴を脱いでいた。

 「お帰りなさい」と言いそうになって慌てて口を閉じる。


 彼がちゃんと話してくれるまで自分から口はきかないと決めたんだった。

 でも、何か話したい。


「にゃ、にゃん!」


 とっさに出た言葉に彼の顔が上げられ、私に向けられる。

 猫だからそれ以外言いようがないのだけれど、猫の真似をするのは凄く恥ずかしかった。


 そして、やっぱり彼の表情は揺るがない。


 彼は何も言わずに私の側までくると、また私を脇に抱えて部屋へ入っていく。

 こう何度も、軽々と私を持ち上げて歩く彼にはほんとうに関心してしまう。


 彼は昨日と同じようにガラステーブルの横に私を降ろすと、キッチンへと入っていった。


 ちょ、ちょっと待って!

 まさか、またミルクじゃないよね?

 水分は水道水で十分満たしました。

 私はご飯が食べたいんだってば!


 泣きそうな気分で慌てて彼を追いかけると、平たいお皿にミルクを注ぐ彼の姿が……。

 それを見たとたん、お腹が彼にも聞こえるほどの大きな音を立てた。


 は、恥ずかしい……。


 恥ずかしさのあまり彼の顔を見るけど、彼は驚いた様子もなく表情には変化がない。

 それがさらに羞恥心を煽る。


 わかってはいたけど、少しは驚いてくれればいいのに……。

 

 自分が顔を赤くしている自覚がある分、無表情な彼が恨めしかった。


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