自分の気持ち
一定のリズムに揺られ、私は途方にくれる。
表情を変えない彼の驚いた顔を見るためだけに実行したイタズラ。
安易な気持ちからだった。
しかし彼はまったく驚ろく事もなく、私を拾い歩いている。
まったくの予想外……。
脇に抱えられて運ばれつつも、これからどうしょうか悩む。
女が1人、男によってどこかへ運ばれている。
それがどんな危険をはらむものだということは理解しているけれど、彼がこれからどうするのかという興味もあった。
好奇心を満たすにはリスクが高すぎるかもしれない。
しかも、恋人はいたことがあってもその彼とは性的な関係はなく、私はまだ男性を知らなかった。
結婚する相手に操を捧げるなんて古い考えなわけではないけれど、それでも好きでもない人とそういったことが出来る人間でもない。
彼を良く知っているわけではないけれど、彼が性的な対象として私を持ち帰ろうとしているようには思えなかった。
容姿や体格からしてもその気になれば女性に不自由しなさそうに思える。
キレイな顔立ちにすらりとした体格、長身。
私の好みから考えても十分範囲内なくらいだ。
無表情ではあるけれど、こんな恋人だったら欲しいと思う。
ふと、私と彼が……。
そう考えた瞬間だった。
胸がきゅっと鳴る。
想像したのはキスシーンだったけれど、彼とキスすると想像してもまったく嫌悪感は湧かなかった。
それどころか鼓動がどんどん早くなって顔が熱くなっていく。
……ちょっと待って?
なんで想像しただけでドキドキするの?
もしかして、私、彼の無表情以外を見たいと思ったのは好きだから?
名前も知らないし、コンビニで会計した時の会話しかしていないのに?
違うと否定して、ここから逃げ出すことを考える。
コンビニのアルバイトは先日、家に戻ってから辞めてしまった。
通うには遠すぎるからだ。
彼は私を探せない。
彼とはもう会うことはないからと、このイタズラを実行する決意をしたのだ。
今逃げ出せば何事もなく普通の日常に戻る。
でも2度と彼とはもう顔を合わせることもない。
……そんなのは嫌だ。
彼の容姿より、「交換は必要ない」と言う彼の低い声が好き。
細身でスーツが似合っていて、長くキレイな指がそろった手が好きだ。
彼の涼しげな瞳が好き。
私は……彼が好きなんだ。
まったく予想外なのは私の気持ちだった。
やっと状況を認識した私が少し動いても、腕一本で人ひとりを抱えているはずの彼はよろけることもなく歩いている。
細身に見える彼は意外と力があるらしい。
突然自覚してしまった想いに困惑していた私は迷いつつも、結局彼に運ばれるままとなった。
この後の長さを考えてここで切りました。
少し加筆しました。