第3話 心の力≪メイド≫と適格者≪メリス≫
時刻はもう朝になっていた。太陽が昇りさんさんと光を撒き散らしている。
紅の機体の操縦士は白井勇美という堅苦しい外見とは違い可愛い名前だった。そして今俺らは一つの室内にいた。
会議室のような部屋で前に二人偉そうな人が座っていてそれを中心にコの字になってみんな座っている。俺らはそのコの中にいる。
まず俺が転移した場所は横浜だった。ここまで来て日本かよ!!って言う突っ込みはなしにしてくれ。そしてここは全国に四つある大型軍基地のひとつらしい。外から見たが大きさが半端なかった。俺が通っていた高校の10個分以上普通にあると思う。
「それで君たちは一体何者なんじゃ?見たところ軍関係者でもあるまいし、しかし見たこともない機体にのってあの侵略者≪ウィード≫達を倒したらしいじゃないか。」
一番偉いっぽい人が質問してくる。俺らは顔を見合わせて悩む。
「俺たちは兄妹でありまして、あの逃げ遅れたところを白井さんに助けてもらったんですよ。そして逃げてたらあの機体があった・・・じゃだめですか?」
「ハッハッハ。実に面白い答えだね優哉君よ。別にそういう話であってもワシは一向にかまわんよ。だけど一つはちゃんと答えてくれい。この世界はウィードが現れると電気などを消すのじゃ。なぜだと思う。」
まずあの化物たちと初めてあったんだから分かるわけがないだろ。習ってないテストは解けるわけがない。
だが隣にいたミツキはいつも通りの自信ありげな顔で立ち上がる。
「そんなの決まってるじゃない。あの化物に居場所を教えないためでしょ。質問するまでもないわよ。」
ミツキの強気な発言に周りからはヤジが飛ぶが老人が手を挙げ静かにさせる。
「そう。被害を最小限にするために消しているのだが・・・君たちがいた場所は点いていた。なぜかな?」
「そういうことね。そんなの簡単よ。」
ミツキはそういうと右手の人指し指を上に向けてくるくるとまわし始める。何をしているかは分からなかったが周りに座っていた人たちから悲鳴がでる。ミツキのまわしている向きにイスが勝手に回っている。
おいおいどんな原理だこりゃあ。ミツキは調子に乗って最高速度ぉぉおおお!!!とか言いながらスピードを速めている。
「これぐらいでいいかしら?」
ミツキは自慢げに言うと先ほどとは打って変わってどっしりと座る。俺に向かって『どう?』という笑顔を向けてくるが正直怖いな。
「局長。この少女からは生体エネルギーを感じません。隣にいる青年の『心の力≪メード≫』の力だけがはっきり見えます。」
老人の隣に座っていたもの静かな女の子が局長に声をかける。みたところ中学生っぽいのにあそこに座ってるなんてすごいな。
黒髪のショートカットで背は低めだな。キランッと光る眼鏡が印象的な静かそうな子だな。んっなんだよミツキ肩叩いて?えっ耳かせってなんか重要なことか?
「ユウヤ。」
「なんだって!!」
「・・・殺すわよ?」
重要な会議でこんなことを考えてるのも確かにどうかと思うが、なんで分かったんだ!!てかそれだけで殺すなって。
「・・・そうか。君たちは特に優哉君。君の心の力≪メード≫は凄まじいな。こうやって一つの集合体を作れるなんて、美月君といったかな?確かに君なら電子機器を操作するなんて余裕じゃったな。」
老人は驚いたと思ったらすぐに笑いだした。
「あのぉ質問いいですか?心の力≪メード≫って何なんですか?」
さっきから分からない単語ばかり出てきて頭はパンク状態だ。
「簡単に言えばロボットを動かせる唯一の動力じゃな。その名の通り思う力。それは誰にも宿っているのじゃがそれを表に出せる奴らは人握りじゃの。その選ばれた者たちを適格者≪メリス≫と呼ばれているよ。」
「えっじゃあミツキは俺の心の力≪メイド≫ってこと?」
頭がたしかに認識できたことを隣のミツキに問う。
「言ってなかったっけ。私達は一心同体だって。」
ミツキのとびきりの笑顔。言っていた意味がようやくわかった。そういう意味だったのか。
「ここまできたら分かると思うのじゃが優哉君。君の心の力≪メード≫はとてつもなく強い・・・むしろ強すぎると言っても過言ではない。なにしろ人の形をして普通に生活を美月君がしているからな。普通じゃありえんよ。」
「・・・救世主。」
「そうじゃ。君は我が軍の・・いや、人類の希望じゃ。君がどんな経緯でこれまでの事をしたのかなんてワシはどうでもいい。優哉君・美月君。ワシらと一緒に戦ってくれないか?」
老人の隣にいる少女が静かに言う。それにつられて老人は頷き熱い視線を送ってくる。答えは決まっている。
「そのつもりです。」
「当然よ。」
俺らの答えを聞いて満足げに老人は頷いた。
「ありがとう。みんなを代表してお礼を言わせてもらうわい。あと美月君。もう聞かれても大丈夫だから彼らのイスを止めてやってくれんか?皆吐いておる。」
「あっ!忘れてた。」
俺らは運がいいのかもしれない。一番軍の偉い人が優しそうな人で。審議の結果(老人の独断)により俺らはこの軍に入隊することになった。
「ミツキ。一回にあった休憩室で少し待ってくれないか?局長に話がある。」
「ユウヤの事話すの?」
ミツキの問いに俺は困った顔を浮かべて頷いた。ミツキは感が鋭いと改めて認識した。
「別にいいわよ。ユウヤが決めたことだもの。」
「そっか。ありがとな。」
ミツキの頭に手を置きポンポンと叩いてから局長の方に向かっていく。
「局長。話があります。」
部屋の前につきドア越しに挨拶をする。会議室のすぐ隣だったので普通に見つけられた。部屋からは元気のいい笑い声と共に許可の声がした。
「優哉君。来てくれたってことはワシを信用してくれたと思っていいのかな?」
「はい。大丈夫ですよ。俺だって少しは他人を見ればその人が信用できるかなんて分かるぐらいの人生経験はあります。」
「ハッハッハ!!!ほんとにおもしろい性格をしとるの。ここは誰にも盗聴はされてないから存分に話してもらって構わんよ。」
局長は笑顔のまま言う。
「まずはじめに、俺はこの世界の人じゃありません。」
躊躇することなく話を切り出した。俺が今まであったことすべてを細かく言った。すべて言い終わるのに昼を過ぎてしまった。
「大変じゃったな・・・。にわかに信じがたい話だが君の今の状況を見れば誰だって信用するしかあるまい。まぁ安心せい。誰にも言わんし・・・どうせならおじいちゃんと呼んでもいいぞい。」
局長は最後まで黙って聞いて一言そう呟いた。最後の質問には綺麗な45度の礼できっぱり断っておいた。
「後々気づくとは思うがこの世界で適格者≪メリス≫となりあのウィード達と戦ってるものはほとんどが若者だ。なぜだか知らないがそういう運命になってしまった。ワシは出来ることならば君達を戦いには出したくない。」
局長はまじめな顔で肘をつき手を顔の前に組みながら。語り出す。
「昨日のウィード襲撃は突然だった。あの戦いに駆り出せれた兵士のうち五人が死んだ。どの子もまだ中学生だった。」
言葉に怒気が混ざる。
「その子が最後に親に助けを求めながら喰われてったよ。こんな所から見ているだけの奴がこんなこと言っても偽善だが我々は君たちに助けてもらうことしかできないんじゃ。今日会ったばかりの君にこんな話をするのも失礼じゃがの。」
局長は席を立つ。その目は俺と混ざり合う。覚悟を決めた綺麗な目をしている。
「ワシは君の言ったことを疑いはせん。君はワシに全部を話してくれた。全力で君たちをここからサポートする、君は戦場でみんなの希望になってくれ。」
「やるからには頑張りますよサツキと。でもあんまり期待しないでください。俺はプレッシャーに弱いんで。」
冗談を入れつつ笑顔で返事をする。この人を信用しようと今誓った。
「ハッハッハそうじゃの。期待に答えるというのは案外難しいものだからの、無理せずに頑張ってくれ。命が危なくなったら逃げてもいい。誰も責めはしないだろうに。」
それから少し話して部屋を出る。昼食を一緒にどうかと言われたがこれ以上時間をかけると待たしている人が怖いので遠慮しといた。
「優哉君。この地図の所に行ってみなさい。ワシの孫が一人でいるから住むといい。困るじゃろ野宿は?」
「いいんですか?」
頷く局長を見て差し出された地図をもらう。
「孫にはワシから言っとくから心配せんようにな。」
そういう局長に一言お礼を言って部屋を出た。だけど最後の笑顔だけはなにか怪しい気がしたのは気のせいだと思いたい。
極秘重要ファイルNO.3
名前 笹間 辰之助 (男)
69歳 横浜軍基地の局長
身長 172.5 体重 59キロ
瞳黒 髪 白髪(手入れはちゃんとしてある)
好きなこと
時代劇・子供の遊ぶ姿・孫と話す・狂言・将棋・囲碁・仕事に人生をささげてきた
嫌いなこと
侵略者・金にものをいう人・腰痛