01.「大事件」その後
2007年1月17日のこの日、大事件とも言える虐殺が行われた。死者は数百人程度だったが、被害者は全て陰陽師の家系だったらしい。
この事件をきっかけで日本各国で息を潜めていた怪異たちが活性化してしまう、日本は墜ちたかに思われたが六名の陰陽師が立ち上がり、怪異たちを再び影へ戻した。
「とっ…このように―2030年の現状、陰陽師は社会的に認められた組織となったと教科書にも載っているなっ」
「霊払先生〜、陰陽師はどうやって妖怪を退治するの?」
薄暗い教室で二人、授業の真似事をする青年と幼女がいた。
「いい質問だね…」
教科書には載っていない内容、陰陽師について多少なりとも知る青年、霊払 新太はこのように語る。
「初めに陰陽師の血族には、皆身体のどこかに術式と呼ばれる印が刻まれている、その印に活力を込める事で術式の能力を発動して妖怪を祓うことができる···らしい」
「へぇ、霊払先生は物知りだね!」
霊払の授業を楽しく受ける髪の毛が異様に長い色白の幼女、素顔は見えにくいが髪の毛の隙間から笑っているのが多少なりとも分かる。
なぜなのだろうか?目の前の少女の笑顔が目に入ると息が詰まりそうになる。
人が悲しい時に表れる感覚に近い、何かが腹部の中心部で膨らみ続ける感覚、胸を圧迫させて息苦しさを引き起こす。
俺は目の前の彼女を知らない、ここが何処なのかも分からない。
「誰なんだ、キミは…」
その言葉を聞き、幼女は霊払に微笑み返した。その瞳には光が無く、呑み込まれそうな闇そのものだった。
2027年1月25日、貴殿から見れば過去とも未来とも、現代とも言える現状の日本国、その中心都市に存在する施設「陰陽公安局︰東」にて"霊払 新太"の生と死が決まる裁判が行われていた。
手錠で両手を拘束された状態にも関わらず、約十名の公安陰陽師たちが霊払を注視して監視する。偶然居合わせた公安陰陽師たちも集まり、見学席は満席となる。
アーチ状の席から霊払を見下ろす三名の公安責任者たちは、最終判決について議論を続けていた。
「祓うべきです!――彼の存在は我々陰陽師にとって危険すぎる」
「あらっ、虎はお嫌いですか陰陽師総監殿? 私としては陰陽師のペットとして飼っても宜しいかと···」
「お言葉ですが鮒雪委員長、彼を飼える檻、そして飼育員は公安の陰陽師にはいません」
「それは残念ですね…」
鮒雪国会公安委員会委員長、彼女の言葉一つで俺の生か死かが決まる。もうどうでもいい、何も思い出せない自分に腹が立つ、覚えていたのは名前だけだった。
捕まった理由は聞いている、公安所属の陰陽師の前で妖力?を使ったことがまずかったようだ。
どうやら向こうは議論を終えたようだ。
「では、霊払 新太を即刻死刑に――」
「まちなさい、その死刑に異議を唱えるわ !!」
冷たくそして力強い声の主は、見学席から軽く挙手すると裁判に割り込むかのようにヒールの音を響かせて、霊払の横へ立った。
「あなたは確か、陰陽六天の···」
鮒雪委員長は乱入してきた意外な人物に少々、驚くものの一呼吸で平常心を保つ。そんな彼女に対して白髪の髪をなびかせながら威風堂々と立つ彼女こそ今年で二十歳を迎える、皐月家次期当主"皐月 小香"本人だ。
「私のこと、知っているのなら滑稽な裁判を今すぐ止めて、彼の処遇を私に譲りなさいよ」
その時、鮒雪委員長の隣の席に座る陰陽師総監が皐月 小香を怒鳴りつけたが。
「ふざけるなぁ!そんな傲慢が通るはずが!」
「もちろん、構いませんよ♪」
鮒雪委員長は満面の笑みで皐月家の傲慢を承諾した、これには隣で聞いていた俺も驚いた。
「ということよ、霊払 新太くん」
「えっ···」
「勿論拒否権は無い、裏切れば私があなたを祓うわ───せいぜいボロ雑巾になるまで私の為に働きなさい、よろしくね、霊払くん♪」
これが彼女との初めての出会いだった、それから"三年"の月日が流れる。
あの出会いから三年後の2030年の春、俺は己の力と向き合いながら、皐月 小香さんの独立事務所『怪奇事務所』でアルバイトをしている。
小香さんは凄い人だ、独立後でその評価はうなぎのぼりで妖怪退治の依頼が絶たない毎日だ。
小香さんは妖怪退治の専門家として名を派しているが、稀に妖怪以外の依頼が舞い込むこともある。地縛霊、悪霊、怨霊は、妖怪とは似て非なる存在で陰陽師は幽霊に関して専門外と言っていた。
どうやら俺の力は怪異全般に効果があるらしく、今は小香さんの代わりに幽霊退治を引き受けている。
︎✧︎✧︎✧
これは怪奇事務所へ依頼が送られる数時間前の話、依頼主は四十代の男性、ごく普通の一般家庭で小学生の娘と二人で生活していた。
そんなある日、娘の少女Aは美術の授業で必要となる『美しい絵』を借りたいと父親にお願いする。
すると父は、自身の書斎に飾ってある一枚の花の絵を少女Aに貸したのだ。
「ありがとう、パパ♪」
「気おつけるんだよ、それはパパとママの大事な絵だから···」
「うん!」
少女Aの頭を軽く撫でる、小学生へ向かう娘の背中を見ながら柔らかい表情で見送った。
場面は切り替わり美術の授業中、同級生たちはその美しい絵見て、目をキラキラと輝かせながら筆を走らせる。「凄く綺麗な絵だね」「誰が描いたの?」「何の花なの?」一部の同級生たちは少女Aに詰め寄り、困らせていた。
そんな光景を見ていた美術の先生は重い腰を上げる、困っていた少女Aの代わりに、先生がこの絵を見て思ったことを語る。
「この絵には白いパンジーが沢山ありますね、皆さんはご存知でしょうか? 花には花言葉と呼ばれるものがあり、一種に様々な想いが込められています」
白いパンジーの花言葉は温順と心の平穏、そして愛の思い。
「今日は花の見た目だけではなく、その花に何が込められているのか調べて、描いてみてください♪」
美術の先生はにっこり笑顔で生徒達に伝えると、少女少女は黙々と絵を描き、学校のチャイムがなる頃には絵を完成させていた。
そして夕日が消えかける夕方頃、美術の先生は小学校の屋上で街の風景を眺める。背中を伸ばし、伊達メガネを屋上から投げ捨てると彼女の表情は豹変する。
キャプを被り、ピンク髪をなびかせる。
―妖怪解放鏡怪『国津 文美』―
「ほんとうにキュートだよね、子供ってさ。従順で無知で、この世の事もなーんにも知らない!良い餌になるよね、そう思わない?」
―妖怪解放鏡怪『冥童』―
「私はただの従者ですので、お嬢様のお言葉が全てですので」
脱力感が声に出たようなダウナーなメイドさん、スカート丈の長いヴィクトリアンメイド服を着る女性で、その瞳は夕日に赤く照らされた。
「お嬢様、本日のご予定は、この学び舎で?」
「実験だよ、都市伝説を使った蠱毒♪ でもここの子は温厚だから、学校に大きい〜大きい〜毒虫を入れておいたんだァ〜、楽しみだよね♪」
この日、夕日が完全に落ちた頃、6年1組の生徒24名が神隠しとなり、学校から姿を消したと異例の事態が発生。
痕跡すら残さずに公安陰陽師の手も借りたと聞いているが未だ見つからず、一日が経過しようとしていた。




