確かな牙
拳銃の感触は、十万のチップよりも確かな価値を持っていた。
ただのネズミが「牙」を得た瞬間――それが俺の胸に生まれた実感だった。
だが、この街では武器を持つだけでは意味がない。
扱えなければ、逆に命を奪われる。
俺は夜の裏通りを歩き、武器商人の隠れ家を訪ねた。
崩れかけたビルの地下、鉄の扉をノックすると、内側から低い声が響いた。
「誰だ」
「カイだ。新しい玩具を試したい」
ガチャリ、と扉が開く。
中は油と火薬の匂いが充満する倉庫。
壁一面に銃器が並び、義手の男――リーヴが薄笑いを浮かべていた。
「ここはガキの来るとこじゃねえぞ」
俺は無言でコートから拳銃を抜き、テーブルに置いた。
リーヴはそれを手に取り、細部を眺める。
「ほう……サーペンツの制式モデルか。弾倉容量は少ないが、精度は悪くない。……どこで掠め取った?」
「黙って見逃せ」
俺の言葉に、リーヴは笑って肩をすくめた。
地下の射撃レンジに案内され、ターゲットが並べられる。
俺は弾を込め、深く息を吸った。
――パンッ。
一発目は紙の端をかすめただけ。
二発目、三発目は中心へと寄る。
カイは引き金の重さを次第に馴染ませていった。
「……悪くねぇ」
俺は低く呟く。
リーヴがにやりと笑った。
「気に入ったなら、いずれ弾薬や改造が欲しくなるだろう。だがタダじゃやれねぇ。カネを持ってきな」
その言葉に、胸が熱を帯びる。
銃を手にした俺は、もはやただの路地裏の獲物じゃない。
次の依頼さえ成功させれば――必ずさらに上へ行ける。
俺はターゲットの中心に空いた穴を見つめ、心の中で呟いた。
「ここからが本当の始まりだ……」