静かな牙
銃口の冷たい光が、額を狙っていた。
怒りが喉まで込み上げる――だが、俺はそれを押し殺した。
目を伏せ、深く息を吐く。
「……分かった」
代理人の口元に満足げな笑みが浮かぶ。
「それでいい。ネズミが生きたけりゃ、尻尾を巻くことだ」
ガードたちがわずかに気を緩める。
俺はその隙を狙い、わざとよろめくように足を出した。
「おっと……!」
近くのガードに肩がぶつかる。
その拍子に、奴の腰に下がったホルスターへ自然に手が滑り込む。
冷たい金属の感触――拳銃だ。
指先でホルスターの留め具を外し、ガードの身体に隠れる角度で銃を抜き取る。
わずか一秒。誰も気づかない。
「気をつけろよ、ネズミ」
ガードに突き飛ばされ、俺は軽く笑ってみせた。
「悪い。二度とこんな真似はしねぇ」
そう言って、拳銃をコートの内ポケットに滑り込ませた。
鼓動が耳に響く。気づかれてはいない。
取引所を出ると、冷たい夜風が全身を撫でた。
ドライバーが小声で呟く。
「……持ってるな、お前」
俺は答えない。ただ、ポケットに忍ばせた重量を確かめる。
十万のクレジットは奪えなかった。
だが――代わりに、確かな武器を手に入れた。
裏切りを忘れるつもりはない。
必ず、この借りは返す。
俺は拳銃の重みを感じながら、ネオンに染まる路地へと歩き出した。