逃亡
赤い瞳が、まるで機械のセンサーのように俺を射抜いていた。
その圧に一瞬でも怯めば終わる――そう直感した俺は、迷わず動いた。
荷台の屋根を蹴って跳び出す。
全身の筋肉を悲鳴させながら、夜風を切り裂く。
手にしたパルスナイフの刃先が、赤い瞳へと真っ直ぐ吸い込まれていった。
――やった。
そう思った刹那、金属音が耳を裂いた。
奴の腕が変形し、蛇のような金属骨格がナイフを受け止めていた。
瞳がわずかに光を強める。
「……遅い」
次の瞬間、衝撃。
奴の蹴りが脇腹を撃ち抜き、俺の体は宙に弾かれる。
肺が潰れ、息が吸えない。
だが――まだ終わってない。
俺は必死に片腕を伸ばし、ナイフを奴のバイクの動力コアに突き立てた。
EMPが走り、回路が焼け焦げる。
赤い瞳が初めて揺らいだ。
「……チッ」
バイクがスパークを散らしながら横転。
火花と共に滑走し、道路脇の壁へ叩きつけられる。
爆炎が闇を照らす。
だが奴は――炎の中から歩み出てきた。
身体のあちこちが焼けただれながらも、赤い瞳はまだ光を失っていない。
「また会おうぞ……ガキ」
低い声を残し、瓦礫の影に消えていった。
俺はトラックの屋根に転がり落ち、必死に息を整えた。
追撃は来ない。敵は、いったん退いた。
――逃げ切った。
生き延びた。それだけで十分だ。
だが、胸の奥にこびりついた感覚があった。
あの赤い瞳は、必ずもう一度俺を狙ってくる。
そして、次は殺しに来るだろう。
俺は荒い息を吐きながら、震える手でナイフを握り直した。
「必ず……三十万稼いで、強くなってやる」
夜のネオンが、再び遠ざかっていった。