ネオンシティの亡霊
酸性雨が打ち付ける路地裏。腐ったゴミの臭いと焦げた電子部品の匂いが混ざり、喉の奥にまとわりつく。
この街――《ネオンシティ》は、光と闇が極端に分かれた場所だ。上層には輝くタワーと企業の役員たちの楽園が広がり、下層には飢えた犬より価値のない人間が這いつくばっている。
俺――カイは、その最底辺に生きるクズだ。両親は薬物に溺れて死に、戸籍すらない。公式記録では「存在しない」人間。だから企業の労働登録もできず、合法的に飯を食うことすらできない。
唯一の生きる手段は、違法なサイバーウェアの運び屋や、電脳空間での小銭稼ぎだ。命を削るような仕事をしても、稼げるのは合成フード数日分。
だが、俺には夢があった。
この腐った街の頂点に立つこと。すべてを支配する《タワー》の住人に成り上がることだ。
無謀? 笑わせる。
底辺に沈んだままなら、俺の未来は明日死ぬか明後日死ぬかの違いしかない。ならば這い上がるしかない。
そのきっかけは、ある夜に訪れた。
ジャンク屋で拾ったオンボロのデータチップ――そこに刻まれていたのは、失われた軍事 用サイバーウェアの設計図。
それは、肉体を「進化」させるための鍵。
だが、それを自分のものにするには金がいる。莫大な金が。
俺は決意した。
どんな汚い仕事でもやってやる。殺しだろうと強奪だろうと、構わない。
この街のネオンに照らされて、俺は亡霊のように歩き出した。
――最底辺の俺が、支配者に成り上がるために。