9話
仕事は嫌いだ。
生活の為…生きていく為…やりたくもない事を強制させられている感覚が苦手だからだ。
俺は昔から何かを強制させられるのか嫌いだった。
子供の頃から勉強するのも嫌いで夏休みや冬休み等の長期連休にやらされる膨大な数の宿題には辟易とさせられたのは遠い過去の記憶だ。
テスト前なんかもまともに勉強するのが億劫でしかたがなかった。
その勉強をおざなりにしたから今の俺があるのだろう。
やりたくもない仕事をするために出社して夜遅くに帰る。
この無駄としか思えないサイクルを熟し、日々を浪費して、歳を食い、人生を消化していくのがこの俺、野村立樹という人間だ。
よくラノベ等に時間逆行して人生をやり直すなんて展開がテンプレートの如く存在するが仮に俺があんな自体に直面してもきっと何かが好転する事は無いだろう。
何をやっても駄目な奴は結局駄目なままだ。
それでも…それでも俺が立ち直るターニングポイントがあったならそれは一つしか無いだろう。
あいつの浮気…裏切りを知ってる今ならそれを事前に防げば俺達の関係がここまで拗れる事もなく今頃はあいつと結婚でもしていたのだろうか…?
「はは…ありえないな…」
タラレバを言っても仕方が無い…。
そもそも時間遡行してあいつの浮気を正してもしょうが無い。
それはあいつの浮気を正すべく行動するのがあいつの今を知る今の俺が行う行為だからだ。
どう足掻いても過去の俺が…あいつの罪を清算する事はできない。
俺はあいつへの恋愛感情を失っている。
たとえあいつの浮気を時間遡行して未然に防いでも俺はあいつへの恋愛感情を取り戻せたりはしない。
あの頃のあいつへの思いはあの頃に壊れて無くなったのだから…。
「はぁ…」
ため息が漏れる…。
ここ最近は結城さんの活躍や主任が変わった事でこの部署での仕事もいくらか楽になった。
つまるところ定時時間に帰れる事がボチボチと増えてきたのだ。
最初こそ喜んだ。
早く帰れたら例えコレといってやりたい事とか無くともそれだけで嬉しいのだから…
しかし…俺は忙しさの余り失念していた。
家にはアイツがいたと言う事を…。
「えへへ…たっちん最近帰るのが速いから私は嬉しぃよぉ〜えへへ〜」
「別に偶々だよ…」
「本当は私に早く会いたくてお仕事頑張ってるんだよね?もぉ~」
「はぁ…」
「ちょ、冗談だよ〜」
中岸佳代
俺を過去に裏切った実績のある元幼馴染。
元なんてつけていてもコイツが俺の幼馴染だと言う事実は何も変わらない。
ガキの頃に結婚の約束なんてしたのも事実だし、コイツに青臭い恋心を抱いていた過去があるのも紛れも無い事実だ。
しかし…裏切られ、俺の心は叩き壊された。
今更その事に対してとやかく言うつもりも無いしそんな気力もない。
もう10年以上も前の事だ。
10年は心に色々と踏ん切りをつけるには十分過ぎて余りある期間だ。
怒りや悲しさは風化し、当時あれ程思い悩んでいたのか何故なのか本気で分からなくなる程に考えた悩むのが馬鹿らしくなる。
早い話がどうでもいいのだ。
元カノ面で媚びて依存してくるコイツに面倒くささを感じてるのに追い出さないのは揉める事になるのが目に見えてるからだ。
今以上に面倒くさい事になるからと言うのもあるが、なにより帰れば飯が作ってある事や、みてくれだけは良い女が家にいるのだからそれを追い出す必要も無いだろう。
「はぁ…屑だなぁ…」
「?どうしたの?」
「いや…なんでもない…」
「………ねぇ…」
「なに?」
「どうして最近は帰りがはやくなったの?」
「え?」
「前まではあんなに遅かったのに突然こんなに早くなるなんてなんでかな〜って思って…」
なんだ?
どうしてそんな事を気にするんだ?
そりゃ隣人の帰る時間を把握したいってのは当然の事だと思うけど……なんだこの違和感は…?
「あぁ…俺が所属してる部署の上司が降格処分されて部署全体の空気が変わったんだよ」
「ふーん…そうなんだ…上司が変わるだけで残業しなくても良くなるんならその上司の人余っ程駄目な人だったんだね〜」
「まぁ…否定は出来ないな…」
「でもこれからお仕事が早く終わるならこれからは二人の時間とか作れるね?」
「作ってどうするんだよ?言っとくけどお前と何かするつもりとかないからな…?」
「べ…別にそんなの期待してないよ…」
「なら良いんだけど…」
以前みたいによりを戻したいとか言ってこないのは良いけど何を考えてるのか分からないのも怖いな…
まぁ…コイツとどうにかなるなんて有り得ないのだ…
俺にそんな気持ちは一㍉も残ってはいないのだから…




