8話
結城さんを任されてから丁度1週間がたった。
結城さんは俺が思ってた数倍優秀だった。
彼女の印象はここしばらくで大きく変わっていた。
最初はオタサーの姫みたいな人に媚びるだけで自分からは率先して何かをやるタイプだと思って無かったし、期待も正直な所していなかった。
しかしここ最近の彼女は真面目そのものだ。
それでいて勉強熱心。
彼女は俺なんかより飲み込みが早く、大抵の事は教えれば卒なく熟せてしまえる。
あと数日もすれば追い抜かれそうで少し焦りが生まれている。
やはり持って生まれた人間は違う。
改めて自分が小さな人間なんだと痛感させられた。
仕事を覚え、独自にノルマをさばける様になって来た彼女がいる事で能率が上がり今まで以上に効率が上がって来ている。
もう少しすれば残業しなくても定時時間で帰れる可能性も出てくる…。
凄い事だ…。
いや、本当に。
しかしあのクソ上司…中居さんはこれ程優秀な彼女の面倒を見れなかったのだ。
挙げ句、匙を投げ俺に押し付けて来た。
今では感謝しているが本当に口が立つ以外はアレな人だ…。
と、頭の中だけで噂をしてれば…
「野村君、悪いけどこれやっといてくれる?私も忙しくて手が回らないんだよ」
「はあ?」
「はあ?とはなんだね?その態度は?」
いきなり仕事を押し付けられれば「はぁ?」とも言いたくなる。
軽く目を通した所、これは主任であるこの男の仕事で俺には関係無いはずなのだから…。
「いえ…いきなりやっておいてと言われましても…引き継ぎの記録やら情報がないと私には…」
「はぁ…君ねぇ…毎回言ってるでしょ?そうやって分からないからと逃げてばかりで何ができるの?やってみようって気概は君には無いの?そんな事だからいつまでも下から舐められるんだよ?わかってるの?」
「っ……、……」
「全く黙ってたら終わると思って無い?君いくつよ?30手前の人間のやる事なの?それ?もうちょっと自覚「すいません、少しいいですか?」を、もって……え?」
「結城さん?」
クソ上司の長ったらしい説教に唐突に割込んで来たのは結城さんだった。
「な…なんたね…結城君…」
「ちょっと聞くに堪えなくて〜余りにもめちゃくちゃ言ってますから口挟んじゃいました〜。」
「めちゃくちゃ?いったい何がめちゃくちゃだと言うのだね?私はね野村君の事を思ってだね?」
「野村さんの事を思って?は?…面倒な仕事野村さんに押し付けて断られそうだから逆ギレしてるだけじゃないすか?マジでありえないんですけど?」
「なっ!?なにを?私はね…野村君のことを「違いますよね〜?面倒だから押し付けてるんですよね〜?私の時もそうでしたよねぇ?」お………うぐぅ…」
「なんですか?うぐぅ…?中居さんの方が子供みたいな反応ですね?いい歳してうぐぅとかウケますねぇ〜」
「グググぅ…いい加減にするんだな!上司に向かってなんだねその口のきき方は?舐めるのも大概にしたまえよ?君の事は上に報告させてもらうから覚悟しておきたまえよ?」
「好きにすれば良いんじゃないですかぁ~?」
「な!?…良いだろう…君のことはしっかりと報告させてもらうからね!フン!」
クソ上司は顔を真赤にして去っていった。
こころなしかドスドスといった擬音が聞こえて来るかの様だ。
しかし…
これでは…。
「すまない…俺のせいで君に迷惑を…本当に俺は駄目な奴だ…」
「先輩は駄目なんかじゃないですよ?少なくともアイツよりは数倍有能ですよ!」
「あんな事になったら君は最悪どんな扱いになるかわからない…先輩の俺が守ってやらないといけないのに……」
「大丈〜夫ですよ〜何とかなりますよ〜ふふ」
お気楽に彼女はそんな事を言う。
あのクソ上司があそこまで言われてただ黙ってるはずが無い。
言った通り彼女の態度を誇張して上に報告するだろう…。
そうなれば彼女は部署移動とか左遷…最悪クビにさせられる事も十分に考えられる…。
最近楽しそうに仕事をしていた彼女には余りにも酷な仕打ちだ…。
俺があのハゲオヤジの言いなりになっていなければ…
俺がもっと強く反発なりしていれば少なくとも彼女が巻は込まれる事は無かった…。
本当に情けない…。
しかし…俺の懸念などまるで必要無いかの様に彼女が何かしらの処分を言い渡される事は無く逆に中居さん…あのクソ上司が降格処分を言い渡されていた。
今は主任では無くなり俺達と同じヒラとなった彼は新たにやって来た新任の主任の監視の下おっかなびっくり仕事をやっている様だ。
そして俺達にとっては周知の事実…わかってはいた事実だが彼が口先だけで仕事が出来ない人間だと言う事が露呈し、肩身が狭そうに仕事をしていた。
これまで他人の成果を横取り、掠め取ってのし上がって来た彼には元々大した能力が備わっていない。
今回の降格によってヒラに落とされ、俺達と同じ仕事をやる事になった事でそれが露呈していた。
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「課長さ〜んありがとうございます〜」
「いやいや〜私は当然の事をしたまでだよ〜ぬふふ」
目の前でデレデレした顔をしているキモオヤジは私が所属する部署全体を束ねる課長だ。
あのハゲオヤジが鬱陶しかったのでなんとかしたいと常々考えていたのだが早い話があのハゲオヤジよりも立場が上のキモオヤジに頼れば早い話なだけだ。
幸いあのハゲオヤジの汚点は3ヶ月の間にコレでもかと集まってるし後はこのキモオヤジを適当に操作すれば十分あのハゲオヤジを落とせると私は考えた。
50手前のおっさんは私みたいな若い美人に弱い。
高校や大学の頃より容易に操作できた。
その結果ハゲオヤジを降格させる事に成功した。
「それじゃ今日は約束通り…」
「は~い、一緒に飲みに行きましょう〜?でもお触りは禁止ですよ~」
「はは…わっ…分かってるよ〜あはは!」
触る気まんまんだな…コレは…
ガードが固いなら酔い潰してお持ち帰りとか考えてるのだろう…。
浅いモノだ…。
まぁ適当に相手して帰るとしよう…。
創作ならこの後私はこの男に酔い潰されてお持ち帰りされ初めてを散らされ快楽に落とされたりするのだろうが残念ながらここは現実だ。
そんな男にだけ都合の良い世界は存在しない。
まぁ…ここ最近…初めてそんな風にされても良いかもと思える男が現れたけど…。
彼はきっとそんな事をしては来ないだろう。
無駄に真面目だし…。
私自身まだ戸惑いが整理し切れていない。
こんな風に異性を思ったのは初めての事なのだから…。




