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6話

私…結城咲菜は美人でかわいい。

自意識過剰と思われるかもしれないけど、これは自惚れなんかではなくれっきとした事実だ。

自分の事を可愛いと自覚しておきながら、えぇ~そんな事無いよぉ〜私なんて可愛いくないよぉ〜などと謙遜するのは悪手でしかない。


あぁ言うのが一番敵を作る。

私は貴重な学生時代を犠牲にしてそれを実体験から学んだ。


学生時代は敵だらけだった。

女友達なんていない…。

彼氏喰いだとか泥棒女だとか寝取り女とか性悪だとか影でも表でも色々言われた。

そんな奴に友達なんて出来るわけが無く私の学生時代は女友達と呼ばれる存在とは無縁の時間だった。


でもボッチでは無かったと思う…。


少なくともボッチでは無かった…と思ってる…。

私の回りにはいつも色んな男がいた。

ブサメンもいればイケメンもいた。

物事を理屈で考えるインテリ男もいれば運動好きのさわやか好少年もいれば根暗なオタク少年もいた。

皆私の取り巻きだった。


さながら私は彼等のインテリア。

飾って楽しい照明台。


気分は何処かのお姫様……ていうより教祖様に近った。

まるで何処かの宗教みたいだった…。


でも皆から持ち上げられて悪い気はしなかった。


あの女共が私の事を泥棒女だとか彼氏喰いとかいうならお望み通りにやってやる!

私に毒を吐いた奴や陰口を言ってる奴の彼氏を誘惑したりして別れさせたりした。

結果…学生時代は広まった通りのクソ女としての時間を過ごした。


それから大学に上がってからも私の立場は変わらない。

オタク向けサークルに入った私は所属している男共で囲いを作ってお姫様気分を満喫した。

もう妬まれるのもしんどかったので彼女とかいなさそうなオタク達に的を絞って小さな王国を小さな部屋の中で作り上げた。


異性にはとてもモテた。

私が一声かければ誰だって鼻の下を伸ばしてよちよちと赤ん坊みたいについて来るんだからお笑いだ。


でも彼氏は学生時代…一人も出来た事は無かった…。

そんなの…作っても良いことは一つも無い。

ハーレムモドキの維持に彼氏なんてご法度だし、私自身そんなのに興味は無かった……。


まぁ…嘘だけど…

ホントは彼氏が欲しい。


彼氏なんていても面倒くさいだけ…

そんな言い訳を私は昔からしている…今でもしてる。

本当は欲しい。

私の事を大切にしてくれる優しい彼氏が欲しい。

私の孤独を埋めてくれる彼氏が欲しい…!


私よりも可愛くないのに…。

私よりブサイクなのに…

私より貧乳なのに…

私より服が微妙でダサいのに…

私より厚化粧でブスなのに…


彼氏がいる奴らがうらやましかった。


だから私の事を泥棒女だとか寝取り女だとか言って来てる奴らに中指を立ててザマァ!って心の中で唾を飛ばしていた。


でも一つだけ心外だった事がある。

寝取り女なんて言われる事が…

彼氏なんて出来た事は一度もない。

当然経験もない…

20を越えて処女なんてみっともなくて絶対にバレたく無かった…。

誰かと寝た事なんて一度もない…

寝取りなんて言われてるなら誰かと寝た経験の一つも欲しい所だ…

まぁ好きでも無い奴に私の初めてをくれてやるつもりなんて無いけど…。


まぁそんな事はどうでもいいんだ。

とにかく私は男共に守られてこれまで生きて来た。


それはこれからも変わらない…。

そう思っていた。


しかしそのツケが回ってきた。

就活が全然思うように進まない。


回りの連中は次々と内定をもらいハーレムモドキから抜け出て行った。

オタクに囲まれてチヤホヤされているのは心地良かったけど見てくれが良いとは決して言えないオタクと付き合いたいとは決して思えない。

誰も私を自分のモノに出来ないと悟ると皆現実を優先しはじめた。


慌てて内定を取るために奔走したけど遅すぎた。

結果今の会社に転がり込む形で入社したけど案の定、碌な所では無かった。


入社した時は楽勝だと思った。

幸い私の所属した部署は男ばかり。

これなら今まで通り適当に男を利用してのし上がって行けばいいとそう思っていた。


私の直属の上司はその部署を束ねる主任だった。

見た目は小汚いハゲ親父だけど少し甘えてやれば鼻の下を伸ばして私に猫なで声で接してくる。

キモいけど我慢だ…こいつを利用すれば私はこの部署でこれまで通りお姫様でいられる。


そう思っていた。

甘かった…


そんな甘い考えは一日と持たなかった。

ハゲ親父は私に見たこともない仕事を碌に教える事もなく投げつけて押し付け自分は私の教育だの指導だとかいって見てるだけで何もしなかった…。


こんなの出来ないわからないと言えば


「はぁ〜君ねぇ?わからない出来ないで何でも他人に頼ってたらいつまでも出来ないままだよ?少しは他人に縋る前に自分で頑張ろうって気にはなれないのかい?そんな事じゃ困るんだよ?もう君も立派な大人、社会人ならその自覚を持ってもらわないと困るんだこどねぇ?」


正直あり得ないと思った…

こんなのはモラハラと何も変わらない

ろくに教えもしないまま仕事を新人に投げつけて説教をたれる。

そのくせ胸や足は鼻の下を伸ばして見てくる…普通にキモい。

こんなのが大人なのかと愕然とした。

もちろん同部署内の人間に助けを求めた。

得意の媚びる姿勢も忘れない、

すると、


「あぁ〜まぁ頑張って!そのうち飽きて誰かに投げると思うからそれまで我慢我慢てね?それよりさ、今日暇?俺良い場所知ってるんだ?どう?」


話にならない…

話しやすそうなチャラい先輩がいたから助けを求めたらナンパだけされてスルーされた。

なんだコイツ…


それ以降頻繁にナンパだけしてくる。

これまでの男の中で最低ランクだ…


その他にも私は見境なく助けを求めたがあのハゲ上司と関わりたくないのか誰もがそそくさと逃げて行った。


そんなこんなで3ヶ月程が経過した…。

既に私のメンタルはボロボロだった。

いつもは1時間以上かけるメイクを数分で済ませ惰性で会社に行く。

残業させられる事も多く新人だからと甘やかされる事なんて無くセクハラとモラハラの中で私の精神は摩耗していた。


辞める事は既に決めていた。

もう十分に苦しんだ。

早くこの地獄から解放されたい…


そんな時だった…。



「今日から君は野村君の所で仕事してね、彼もそこそこ長いからまぁ教える事も出来るでしょ…はぁ…まぁそういう事だから彼から色々学んでね?」



なんだそれ…?


丸投げじゃないか…

私を下に付けた時はへらへと鼻の下を伸ばしてたくせに使えないとわかったら他人に丸投げ…クソハゲオヤジめ……。


野村と言う男は第一印象からぱっとしない…。

いつも残業ばかりしていて無能なのがろくに話した事も無いのに察する事が出来た。

ハゲオヤジよりはマシだけどマシと言うだけ…

見るからに冴えないおっさんで追い詰められてる時もこの野村という男にだけは声をかけなかった。

無駄だとわかっていたから…。


最悪だ…


そう私はその時まで思っていた。

でも私は彼との出会いを生涯感謝していくことになる。

この出会いに。












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