本編最終話
あれから俺は引っ越しを決意した。
佳代はここを出て実家に帰って行ったが何となくこれ以上この家に居たくないと言う思いが強かったのが大きな理由なのかも知れない。
ここには良くも悪くもアイツとの思い出が多いのだからそれを忘れ去りたい…。
しかし皮肉なものだ…高校の頃…あれだけ好きだった相手と同棲しておきながら俺は一度たりともアイツに手を出さなかった。
男としてアレ程の美女とひとつ屋根の下にいながら手を出さないのは腑抜けとか腰抜け以前の問題なのかも知れないが…。
俺はアイツとそう言う関係になるのが怖かった…そう…今にして思えば俺は佳代が怖かったのだろう…。
理由はいくらでも思い付く…。
高校の時みたいにまた裏切られてしまうのが怖かったから…
男として軽視されるのが怖かったから…
恋人と思ってるのは俺だけで向こうは何とも思ってないのが分かるのが怖かったから…。
本当に理由はいくらでも思い付く…。
思い付くが…どれも自分の中ではしっくりこない…。
どの理由も当てはまるのだが自分のなかでしっくり来ないのだ…。
しかしこれらが間違いなんかでは断じて無いのもまた事実なんだ。
裏切られたのは本当にショックだったし浮気されたのは男としての自分を軽んじられている様でショックだった。
そう思って見ても自分の中で釈然としないのが事実なんだ…。
結局アイツは何がしたくて…何が欲しくて俺に迫って来ていたのか…
結局俺にはそれが最後まで分からなかった。
仲居さんなんかと関係を持ったのはただの偶然で成り行き任せな所が多かったのだろう…。
アイツはもともと面食いな所のあった。
いい歳したおっさんなんて本来相手にもしない筈なんだから余程追い詰められていたのだろう…。
…
まぁ…そんな仲居さんとその後どうなったのかは知らないし知ろうとも思わない。
職場で仲居さんは相変わらず肩身が狭そうにしているが離婚したとかの噂は聞かないので結局あのまま話が通ったのだろう。
まぁどうでも良いことだ。
これから引っ越しに向けて色々な手続きやら新居探しやら色々とやらなければいけない事が沢山ある…。
職場から近くてスーパーやらのお店が近い立地ともなると色々と割高となってくる。
それにこれからは家事や掃除など家の事は全部自分でやらなければならない…。
なんのかんの俺は佳代にだいぶ助けられていたのだなと実感する。
それでもアイツと一緒になるなど御免こうむるのだが…。
とそんな話を職場の昼休み時に結城さんに話すと彼女はとんでもない事をいってきた。
「なら私と一緒に暮せば良いじゃないですか!」
「………、……え?」
「わぁお!すっごい間がありましたね!」
「いや…その発想は…無かったといえば嘘になるけど…流石に……」
「一回来てるんですから遠慮なんていらないですよぉ〜?一緒に暮らしましょ〜よぉ〜」
「結城さんはいいのか?プライベートスペースに他人が来るんだぞ?」
「私はもう野村さんを他人だなんて思ってないですよ?それとも野村さんは私を他人と思ってるんですか?」
「……他人か…他人と割り切るには俺は君と交友を持ち過ぎた…もう他人とかそんな見方は出来ないよ…」
「なら良いじゃないですかぁ!」
「…よし!結城さん!俺と一緒に住んでくれるか?」
「はい!喜んで!エロい事いっぱいしましょうね!」
「はは…」
普通そんな事を言うのは男側なんだけどな…
意気地なしな俺を気づかって彼女が言ってくれてるなら間接的に言わせてるのと同義だ。
なら彼女には本当に敵わない。
しかしそんな俺の杞憂も彼女にとっては些事の如く小さな事なんだろう。
何故なら彼女は自由人なのだから…。
「私ぃ〜!えっちな事するなら一方的に甘やかされてトロトロにされたいんです!耳元で甘い言葉を囁いて欲しいです!野村さんお願いしますね!」
「へ?ちょっ!結城さん?そう言うのはこんな所では…」
「私は気にしませんよぉ?」
「俺が気にするんだよ!」
余りにも自身の性癖をぶっちゃけ過ぎな彼女の圧に圧倒される俺。
今は会社の食堂で一部の社員はこちらに聞き耳を立てている。
射殺さんばかりの視線を感じてしまい背筋がゾゾゾっとっする。
元が陰キャにはとても辛い。
しかし
「ふふ。」
彼女のこんな笑顔を見ていたらまぁ…こんなのも悪くはないか…
とそう思ってしまうくらいには今が充実している。
これにて本編を終了とさせて貰います。
後は佳代の後日談をぽつぽと投稿出来たらなと思ってます。




