3話
3話
「私とやり直す気とか…ない?」
「はい?」
コイツは今更何を言ってるんだろうか?
やり直すとは何を意味してる?
「やり直すって何をさ?飯は美味いぞ?作り直す必要はない。」
「あ…ありがとう…でもそうじゃなくて…わ…私と恋人として…さ?」
「はぁ?」
「ほら?私…料理も洗濯も掃除も出来るし…たっちんはズボラでそういうの出来ないでしょ?だからさ…私と…恋人になったら色々良いと思わない??」
「何いってんのお前?」
「何って私はたっちんと恋人に…」
「お前と恋人なんて二度とゴメンだ…どうせ高校時代の二の舞いだ。」
「そ…そんな事無い!私もう二度とあんな事しない!だから…だから!」
「そもそも恋人ってなんだよ?俺別にそんなの求めてねーから?」
「でもたっちん私が家にいて良いって言ったじゃん!」
「はぁ…お前が泊めてって言うから良いって言っただけじゃんか?何?追い出して欲しかったの?」
「そ…そんなワケじゃ…」
「そもそも恋人ってことは年齢的に結婚とかも視野に入れてるんだろ?俺結婚願望とかないぞ?」
「どうして?将来は結婚しょうって?約束してたじゃん?」
「どの口が言う…よりによって教師と宜しくやってたヤツが言う事かよソレ。」
「あの頃は…私子供だったの…目先の事しか見えて無くて周りが見えてなくて……」
「だろうな…俺との恋人関係もあの教師との快楽を楽しむための味付け程度の価値しかない、だから俺が当時別れ話持ちかけた時も一応止めたんだろ?」
「ちがっ!私本当にたっちんが好きで!だから!」
「もういいだろ?な?俺はお前と結婚も恋人になるつもりもない…」
「どうして?たっちん昔は私と結婚するって言ってくれて…」
「まだその話続けるのかよ…そもそもお前の容姿なら他にも男なんて沢山いるだろ?」
「他の男は皆私とエロい事する事しか考えてない…何かあったら直ぐに足とか胸とか触ってくる、昔はソレも良いと思ってたけど最近は凄くいやで…それに比べてたっちんは紳士的で…私を大切にしてくれてるから…」
「俺の場合お前に興味無いだけだ、そもそも男なんてどいつもこいつも大差ない…みんな頭の中エロい事で大半しめてる、そういうもんだ。」
「でもたっちんは実際私に手を出して来なかったし…」
「お前に興味無いだけだって言ってるだろ…だいたい恋人になってどーするんだ?結婚視野に入れてるなら俺はハズレ物件もいーとこだぞ?勤めてる会社はブラックで蓄えなんて殆ど無いからな」
「そんな!嘘だよ!」
「嘘なもんかよ…。文無しだよ文無し今が良ければそれで良いんだよ俺は!」
これは嘘だ。
5年間闇雲に働いてきたしそれなりに蓄えはある。
それに、それまでだってなんだかんだで色んな所を転々としてきたから金に不自由はしてない。
もっともこれからも1人で生きていくつもりで蓄えて来たから世帯なんて持つ貯金ははっきり言って無い。
結婚して世帯を持ち、コイツとコイツとの間に出来る可能性のある子供を養って行く金など何処にあるのか俺が聞きたいくらいだ。
まぁ今から切り詰めてあのブラック会社の社畜になる覚悟を決めて行けばなんとかなるかもしれないがコイツにそこまで俺がする価値があるのかと聞かれたなら迷わすNOと答える。
仮に結婚を受け入れたとしてまた浮気されない保証等何処にも無いのだ。
つーか教師と生徒とか何処のエロ漫画の世界の話だと突っ込みたいくらいだ。
こんな常識の欠如した奴と結婚なんて自殺行為と変わらない。
「じゃどうして私を半年も家に置いてたの?お金結構かかってたんじゃないの?」
「一人暮らししてる時点で月々の費用は決まってる、人一人増えたくらいでそこまで変わらない、食費とか電気代とかが多少上がるだけだし、帰ったら飯できてるし掃除とかしてくれるなら対価としては上々だ。」
一人暮らしは何かとデメリットが多い。
飯の用意や掃除洗濯に皿洗い。
仕事から帰ってそこまで手が回らない事はざらだ。
コイツはこれ等を文句一つ言わずにやってくれる。
置いとくのにコレ以上の理由はないだろう。
自分でも中々のクソ発言だと自覚してるが何だかんだて帰ったら美女が諸々の用意を済ませて待っているのだからソレを自分から追い出す阿呆はいないだろう。
浮気されたのはもう10年以上も前の話だ。
いつまでもその事を引きずる程俺も若くない。
利用できるなら裏切り者だって利用する。
当たり前の話だ。
「じゃ私たっちんに利用されてただけじゃん!私馬鹿みたいじゃん!」
「お前が勝手にしてた事だろ?誰も頼んでねーよ。」
「ヒドイ…。」
酷いか…
俺は酷い事をしてるのだろうか?
してるんだろうな…。
でも浮気して裏切ってた奴を信じて生涯を添い遂げるなんて考えに行き着けるならソイツはよっぽどの聖人か、はたまた阿呆のどちらかだろう。
頼んでも無いのに勝手に炊事洗濯を率先してやってくれるんだ。
働く事に疲れきったおっさんがおいそれと美女を手放せる選択など取れるワケが無いのだ。
しかし結婚ともなると話が変わってくる。
潮時と言う奴だな、これは。
「なら出ていくか?」
「え?」
「確かに俺は駄目人間だよ、自炊なんて出来ないからお前が来る前はコンビニ弁当ばっか食ってたし洗濯も最低限しかしてなかった、人間としてギリギリの生活をしてたさ。」
「だっ……だったら私がひつよ…」
「でも結婚なんか真っ平ゴメンだ…。」
「うだよ…嫌だ…いやだよ……そんなの…」
「だから出ていくか?」
「嫌だ…嫌嫌嫌ぁ!!嫌だ…!」
そのままアイツは部屋を出ていった。
安心して欲しい。
家出とかではない。
アイツにあてがっているアイツの部屋に立てこもっただけのことだ。
実のところアイツは限定的な引き篭もりだ。
スーパーとか行き慣れた所には行けるがそれ以外は行けない。
連れて行こうとするとさっきみたいに癇癪を起こしてああして自分の部屋に引き篭もるのだ。
俺の知らない10年間の間に何があったのか知らないが随分と変わったようだ…アイツも…。
まぁ…他人の事に深く干渉する気はない。
当たり前だ。
そんな事をしても疲れるし無駄なだけなんだから。