22話
今日は日曜日、お休みの日だ。
全国共通のお休みの日。
まぁ…出勤してる人もいるだろうし例外はあるかもだけどそれでも日曜日が社会人にとっては掛け替えのない安息の日となるのは人類皆共通の認識だ。
その分月曜日は憂鬱になるのだけど…。
しかし今の私は違う!
きっと月曜日を迎えてもこのハッピーな気分は消えたりしないだろう。
なんたって昨日は好きな男の人から告白されたのだ!
今までも告白は心が腐る程されている。
告白は私にとってはされて当たり前。
何も響かない通過儀礼的な催しにすぎないのだ。
なのに好きな人からされる告白にはこんなにも私の心を掻き乱すのか!?
今まで生きて来て良かった!
お母さん!お父さん!
産んでくれてありがとう!!
そんな喜びに満ち満ちている私だけど一つだけ不満な事がある。
それは…私がいまだ処女だと言う事だ。
仕方ない事だと理解はしている。
野村先輩は一種の女性恐怖症みたいな物だ。
その先輩に迫ったりしたらあの女みたいに避けられてしまいかねない。
だから先輩のトラウマが癒えるまでは私は先輩に下手に迫ったりしては駄目なのだ。
いや、コレでは私が性欲を我慢してる変態みたいじゃないか…。兎にも角にも恋人となった先輩と一夜を私の家で共に過ごしこうして朝チュン(未遂)となったのだ!
時間はまだまだ沢山ある!
焦るな私!
落ち着け私!
チャンスは沢山…ある……はず…。
「そんなわけで先輩お出かけしましょ〜!」
「え?お出かけ?」
「はい!やっぱり恋人になったのなら何かソレらしい事したいじゃないですかぁ~!」
「う〜ん…とは言われてもなぁ…結城さんは何処か行きたい所とかある?」
「私は先輩となら何処でも楽しめますけど先輩はそれじゃ困りますよね〜?」
「おはは…ごめんね…どーもこういうのは苦手で…」
先輩はデート慣れとかしてないのだから仕方ない。
デート慣れしてない、イコール女慣れしてない。
つまりピュアなのだ。
世の女はデートプランをまともに練れない男は駄目だとか言うが手慣れてる男の方が私は嫌だ。
別の女の手垢に塗れた男はなんだか嫌だし、好きになった人には私だけをみてもらいたいと思うのが女心だ。
だからこそ一刻も早く彼には私だけを見て欲しいのだ。
「なら私に付き合ってくださいよ、私行きたい所があるんです!」
「行きたい所?」
「はい、私、湖を見に行きたいです!」
「湖?ここからだと遠いね…電車だと何時間かかるか…」
「大丈夫です、私車持ってますし出しますよ?」
「え?結城さん車持ってたの?」
「父のお下がりを貰ったんです、免許は就職前に取りました!」
「あはは…凄いね…」
もっとも車は貰ったと言うより格安で譲って貰ったの方が正しい。
車種に興味は無いので安くで貰えるのなら何でも良かったのだ。
もっともまだ全額払いきれてないので大事に扱わないといけない。
いつも以上に安全運転を心がけないといけない。
「俺なんて車も持ってないし免許も身分証くらいにしか活用できてないし、宝の持ち腐れだよ…本当に情けないな」
「別にいいんじゃないですか?車運転出来るのがステータスなんて考え方は今どき古いですよ?今は普通に女も車運転する時代ですし運転は男の役目なんて考え方押し付けられるのも困りますしね!」
「そう言ってもらえると…助かるよ…でも湖なんてどこ行くの?」
「別に泳ごうとかそんな気は無いんですよ…水着も無いですしね〜、ただ私景色とか見るのが好きなんです、たまに休みの日とか車で海とか山とか行って見て帰るんですよ〜」
「へぇ…なんか意外だな」
「そうですか?」
「もっと派手な物が好きそうなイメージだよ」
「あはは、よく言われます〜、でも私は湖畔とか静かな所でのんびりして〜のどかな気持ちになるのが好きなんですよ〜自然と一体感的な〜?」
「そうだね…たまにはそんなのも良いかもね…」
そんな会話の後、私達は車に乗って湖に向かって出発した。
湖といってもこの辺りで行ける所は限られる。
日本に代表されるような大きな湖は残念ながら近場にはない。
だからこそ個人的には穴場だと思っている。
自動車を約2時間程走らせれば住宅街もビル群も無く、徐々に木々が増えていく。
やがて自然で溢れた木々が生い茂る場所にやって来た。
キャンプなどにはうってつけな場所だけどこの季節は虫も多くちゃんと万全の準備をしておかなくてはならない。
今日は思いつきでやって来た為、備えも何もありはしない。
少し私の思い付きで野村さんを引っ張り回してる事に申し訳無さを感じてしまうが彼はきっと文句なんて言わないだろうと何故か私は確信している。
そんな卑怯な自分に若干の後ろめたさを感じつつも彼は黙って私の我儘に付き合ってくれたんだ。
「綺麗な場所だね」
「はい…ここからなら湖が一望出来るんですよ?」
「よく一人で来てるの?」
「はい、ここだけじゃなく色んな所に…私…嫌な事があると自分も他の皆も誰も知らない所に行きたくなるんです…所謂逃避行ってヤツですね」
「逃避行か…」
「私の事を誰も知らない所に一人で行って、何をするでもなくぼーとするんです…そしたらその景色と一つになれたみたいな気分になれて…私の悩みなんてちっぽけだなって…そんな気持ちになれるんですよ〜」
「……俺は結城さんの事を何も知らなかったんだなってて今日ほど痛感した日はないよ…君はもっと…強い女性だと思ってた…」
「弱い女は嫌いですか?」
「いや…強い女性は怖い…弱さを持ってる方が人間らしくて俺は好きだな」
「それは良かったです」
「………こうして自然の景色を眺めてると……なんてゆうのかな…不思議だけど…確かに落ち着けるよ…」
「でしょ?」
「ありがとうね…結城さん。こんなにリラックス出来たのは久しぶりだよ…」
「先輩には一度全部忘れて気持ちをリセットする時間が必要だったんだと私は思うんですよ〜。」
「そうだね…そうかも知れない…」
それから私達は湖を眺めながら持ってきたお弁当を食べたり下らないことを話したりちっぽけで下らない…でもとても穏やかな時間を過ごした。
先輩は文句を言わずに私に付き合ってくれた。
やっぱりこの人は優しい。
こんな人が学生時代にいたら私の青春はもっと違った物になってたろうか…?
いや、学生時代の私は自分を守る為に多くの男を侍らせていた。
きっと彼は私みたいな女には近づかなかっただろう。
今だから…
今だからこそ出会えたんだ。
だからこそ今を全力で楽しもう。
私はそんな事を思って今を過ごす。




