14話
「先輩中々イケる口ですね〜」
「そんな事は無いよ…」
「またまた〜全然酔ってないじゃないですか~」
俺は今、居酒屋にいる。
対面に座る相手の女性は俺の後輩、結城咲菜さんだ。
彼女はニコニコ笑顔で俺のコップにビールを注ぐ。
正直ビール…と言うより酒は好きでは無く、付き合いで嗜む程度にしか飲まない。
コレまではボッチだったので忘年会やら新年会やらの強制参加飲み会イベントでもとやかく言って来る奴はいなかった…、
まぁ、例の元先輩上司に絡まれる事はあったが基本的には飲み会での俺のマストはボッチだ。
飲み会が終わるまでの数時間を酎ハイや麦茶やらを適当に頼んでやり過ごしていたのだが今日は彼女とマンツーマンだ、そんな訳にもいかず決して美味しいとは思えないビールを飲んでいた。
対面の彼女は何がそんなに楽しいのかニッコニコだ。
今にもニコニコの最後にニーと付け加えて某スクールアイドルの様に愛らしい決めポーズを取りそうなくらいに上機嫌だ。
「それでお酒弱いって言ってたら世の男の方は皆下戸になっちゃいますよ〜」
「ビールくらいで大袈裟な、普通そこまで酔わないでしょ…」
「ビールでも酔う人は簡単に酔いますよ〜。野村先輩はお酒強い方だと私は思いますよ〜?」
「煽てたって何も出ないよ?」
「もぉ~煽ててなんていませ〜ん」
彼女は既に少し酔っているのだろう。
いつも以上にテンションが高い。
最近少しわかっては来ているのだ。
俺の思い込みとか自意識過剰とかで無ければ彼女は俺の事を少なからず好意的に見てくれていると。
何故かはわからない。
何故かはわからないがそうだとしか思えない程に彼女は俺に心を開いてくれている…気がする
そう感じる様になってから気づく事もある。
他の社員と明らかに扱いが違う事とか。
これは社内での事だ。
俺に絡んできては面倒事を押し付けて来る厄介な後輩がいる。
彼女とデートだなんだと言ってさっささと定時でやり残した仕事があるのに帰ってしまう非常に困った奴だ。
奴は結城さんにも粉をかけている。
結城さんは部署内で唯一の女性社員、所謂紅一点と言うやつだ。
おまけに可愛い系の美人で兎に角男を立てる言動に長けている。
俺は彼女をオタサーの姫みたいだと表現したが彼女の社内での振る舞いは正にソレである。
何が言いたいかと言えば彼女はモテるのだ。
彼女を狙っている男性社員は社内ではとても多く、皆彼女と接する時は変に紳士ぶったり露骨に胸元に視線を寄せながらも興味無い風を装ったり、くだらない事で頼れる先輩風を吹かしたりと余念が無い。
そんな中で取り分け顕著なのがさっき話した面倒事を押し付けてくる厄介後輩だ。
奴は先輩風を吹かせつつも頼れる男性感をアピール、それでいて気さくで関わりやすい男性像の演出に余念が無く、その積極性は他の男性社員にはない唯一無二の特性と言えた。
咽び泣く他の男性社員達。
唯一の女性社員、しかも美人!
唯一の心の…そして目の癒しが女慣れしてそうなチャラい男後輩社員に独占されそうなのだからその悔しさとか何か他のドロドロしたものが込み上げて来るのはやむ無しだろう。
しかし…。
「あの~申し訳ないんですけど気安く触らないでくれます〜?」
「へ?」
「へ?じゃないですよね?私の肩に気安く手を置かないでって言ってるんですよ?聞こえてますよね?」
「ちょ…ちょいちょ〜い!そんなマジにならないでよ?ね?」
「何度も言わせないでくれますか?さわらないでって言ってますよね?私は?」
「あ……あぉははは…ご…ごめんて…」
と、こんな感じで彼女は取り分け彼に対しては塩対応だ。
これには他の男性社員達もニッコリだ。
嫌悪感を隠そうともせず、露骨に嫌がってまでいる。
流石の彼も少し応えたのか最近はナンパまがいの行動も控えるようになった。
しかし奴はイケメンの部類に入る程度には顔も整ってるし対人スキルも高い。
あの元糞上司…仲居さんからのウケも良かったくらいだ。
だのに全く興味が無いどころか嫌悪しているとまで思える程の態度なのだ。流石に俺とあの厄介後輩や他の男性社員との扱いの差を見ていれば彼女が俺の事を特別視してるのは間違いない……と思うのだが…?
どうだろうか…?
「そう言えば少し聞いてもいいか?」
「え?なんですか?」
「結城さんは佐藤君…の事は嫌いなの?」
「へ?佐藤」
今更だが佐藤とは先程から俺が頭の中でくどい程話題に挙げている厄介な後輩の事だ。
「佐藤佐藤……誰でしたっけ?それ…」
「おお…えーと…ほら君にしつこくアプローチかけてる男がいるだろ…いつもバッサリ切り捨ててるけどさ…」
「あぁ…あのチャラ男ですか〜まぁ嫌いか好きかで言えば大嫌いですね」
「だ…大嫌いか…」
「はい!」
「理由を聞いても?」
「そんな事態々聞く意味あります〜?まぁ良いですけど…えーとですね…」
そこから彼女が語ったのは単純ながら納得出来るモノだった。
彼女はこの会社に入社して3ヶ月間、仲居さんのもとで精神をすり減らしながら働いていた。
俺の予想通り彼女はコレまでの学生生活において、男を口八丁で上手く利用して誑し込んで利用し、上手く立ち回って来たのだと言う。
「俺も一応男何だけど…そんな事話してもいいの?」
「野村先輩にはあんまり隠し事とかしたくないんで…えーと、続きですよね…」
彼女は仲居のいびり…セクハラやパワハラ等にかなり追い込まれ密かに奴をクビ…それが難しいならせめて降格処分に追い込めないかと色々画策し始めたらしい。
学生時代に培った話術を巧みに利用して係長以上の権限を持つ者にゴマをすり媚びを売って自身を売り込んで行った。
もちろん仕事中には後々自分が有利に動ける為に仲居からのセクハラモラハラ等の証拠もしっかりと集めながら…。
そしてそういった仲居の弱みを探す過程で佐藤にも媚びを売っていたのだが…、
「あちゃぁ~ごめんねぇ俺も今は手が離せなくてね〜マジでごめんねぇ!今度埋め合わせするから許してよ?マジで!」
「………はぁ…もういいです」
「あれ?拗ねちゃった?許してよぉ〜ね?ね?」
「別に怒ってないですから…」
「え?マジで?ならさ、今度どっか遊びに…」
「すいません、他の人にも相談したいので…」
「あれ?あれ?今度また行こうね?ね〜?」
と言うやり取りが何度かあったらしい。
そりゃ嫌われるわなって納得の話だ。
と言うより奴は何故にモテるのだろうか?
今の話を聞く限りモテる要素がゼロなのだが…
「最初は佐藤が一番使えるかなって声をかけたんですけどアイツが一番使えませんでした…。セクハラハゲオヤジに上手い事媚び売りして取り入ってたから利用価値あるのかなって思ってたんですけど、」
「佐藤も仲居さんと系統は違えど同じタイプだからね…他人に取り入って上がって行くタイプだよ、だから利用するには向かないんじゃないかな…」
「それが最初からわかってたらあんなのに媚び売らなかったんですけどねえ…やらかしました〜…」
「ははは…」
なんというか…
やっぱり女は怖い生き物だ…。
特に結城さんは敵に回しては駄目だとそう改めて思わされた。




